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映画『大河への道』を観て

立川志の輔。中井貴一。玉置浩二。
この3人の名前が並んでるなんて、それだけでこの映画が素晴らしいに決まってる、と見る前から信じての鑑賞である。

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わたしは志の輔師匠の大ファン。落語の『大河への道』は既に聴いたことがあった。
大河ドラマをわが町へという現代の悲喜と、伊能忠敬が測量していた時代のこもごもが語られる落語。噺を聴いて笑って、ちょっと泣いた。
志の輔師匠の凄いところは、落語の上手さ、聴かせる力は言うに及ばず、新作を作りあげる力、特に着眼点の凄さ。この『大河への道』も、佐原の伊能忠敬記念館を訪れたことがきっかけで作られた噺だという。

実はわたしも何年か前にここに行ったことがある。
 55歳から測量に出たなんて!
 こんな道具で測量したなんて!
 こんな精巧な地図を作ったなんて!(ちょっと北海道ずれてるけど。)
 伊能忠敬凄い!
という感想は持ったけれど、年表を見て、亡くなった年と、それが発表された年との間にブランクがあるということには何も感じなかった。というか気づきもしなかった。
志の輔師匠は、その3年間のブランクに思いを馳せて、ストーリーを紡いでいるのだ。しかも面白く、感動的に。すごくない?すごい。すごいのだ。

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その落語が、映画になった。
コメディーの要素と時代劇の要素を持つこの噺の面白さに気づいた中井貴一が直々に映画化を企画したそうで、なんとお目が高い。

気合を入れて、初日舞台挨拶付きの会を見に行くことにする。企画も主演も中井貴一なんだもの、仕方がない。好き。
2階の席だったけど、いっぱい目が合った。気がする。中井貴一の隣には松山ケンイチ。一緒に行った友人が「平清盛で親子だったふたりだね」と教えてくれた。友人は、中井貴一の反対隣りにいた北川景子の顔の小ささとキラキラぶりに感銘を受けていた。
同じ目標に向かって進むチームって、仲良くなるよね。そんな雰囲気が伝わってくる舞台上の人たちの挨拶。マスコミ向けの写真撮影タイムでは、プロの仕事を見た。笑顔。笑顔。笑顔をください。

さて、肝心の映画。
落語を聴いている時に勝手に脳内で作り上げた登場人物像がある。映画化されたときにそれを誰が演じるのか、という楽しみと少々の不安。

主人公の主任を中井貴一を演じるのは異存がない。あろうはずがない。逆にこれ以上のキャスティングがあったら教えて、というくらい。部下の松山ケンイチも。いいコンビ。
大きなギャップがあったのは、橋爪功演じる脚本家。わたしの中では、もっと若い人のイメージだったのだけど、まさかの大御所。だけど、映画では、この人以外にないくらいはまっていたのだった。

原作の志の輔師匠も出演していて、いい味を出していた。もっとも、高座でいろんな人を演じているんだから、演技で違和感がないのもうなずける。

映画を見た後に、最初に検索したのは「伊能忠敬 妻」だ。北川景子が演じるおエイさんは伊能忠敬の4番目の妻、という設定。は?4番目?と思うじゃない。しかも、落語には出てこない人物だ。
実際に、伊能忠敬は3人の妻に先立たれていて、4番目の妻が地図を作るのを手伝ったことは確かだそう。けれど、どんな人物だったかは伝わってないらしい。映画の中ではかなり重要な役割を果たしている。ダークなトーンの時代劇の画面の中で、着物姿が映えて美しかった。

ちょうど、国会議員がTwitterに「三角関数は必要ない」などと書き込んだというのが話題になっていたので、昔の測量の場面が映ると「必要」と心の中で否定した。測量に必要なのは、三角比だったんだけど。
日本地図の話なので国境とか、ロシアなどのこともちらっと。娯楽の映画なのに時事問題にリンクしていることもあって、ちょっとだけ他のことに頭を取られてたり。

落語でストーリーはわかっているのに、中井貴一が涙している場面で、一緒に泣いちゃった。草刈正雄め。それにしても中井貴一は、ちょんまげ姿が似合うなあ、本当に。

最後に流れる、玉置浩二の心に国宝級の沁みる歌声も、見終わった後の余韻を増幅してくれてよかった。すがすがしい気持ちで映画館を後にできるって、重要。

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それにしても。
一つの落語が映画になると、ストーリーにいろんなエピソードが加わって、登場人物も増えて、膨らみが出る、というのは想像以上だった。
その制作過程「『大河への道』への道」が知りたいなあ、と思ったのだった。

いつかまた伊能忠敬記念館を訪れて、映画のシーンをかみ締めながら測量の旅に思いを馳せたい。近くにあるうなぎ割烹山田さんのうなぎが、今まで食べたうなぎの中で3本の指に入るほど美味しかったので、またそこで食べることも目当てに。

上野・源空寺にある伊能忠敬のお墓。高橋景保と至時のお墓と並んでいる。
まさか上野にお眠りだったとは。




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