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天川の行者

たたなづく青垣(あをがき)…ここ吉野(ゑしの)の奥、天川(てんかわ)の地に人が住み始めたのはいつごろだろうか?
車谷(くるまだに)の部落の外れに行者行甚(こうじん)の結ぶ庵(いおり)があった。
庵といっても、板を「人字」に寄り合わせただけの粗末なもので、まるで拝む手のひらのようなので「拝み小屋」と地の人が呼ぶものだった。

「ああん、あん、こうじんさまぁ」
うら若い女の喘ぐ声が、新緑の葉擦れの音に交じって聞こえてくる。
どうやら件(くだん)の「拝み小屋」の中から聞こえるようだ。
「うぉう、きえーっ!」
獣の雄たけびのような声がしたかと思うと、静寂がおとずれた。

庵の中では、白い肌の裸の女が、肩幅の広い、これまた裸の坊主頭の男に組み敷かれており、その結合部が今まさに解かれようとして、雁首が洞窟より抜き去られた瞬間だった。
鈴口から、まだ糸を引くような白い精汁がどくどくとしたたっている。
それにしてもおびただしい量である、女の「血の道」と呼ばれる陰門から滝のようにそれは流れ落ちて、褥(しとね)の菰(こも)に染みを作っている。
女は、半身を起こし、熱に浮かされたような表情で男に「こうじんさま」と呼ばわった。
交接の後の男は、怒っているような声で「さ、着物をもって早う行け」とだけ言った。
女は、あわてて着物をひっかぶって、立ち上がり、その粗末な小屋を駆けだすように出て行った。
汗を坊主頭から滝のようにしたたらせながら、男は鹿の毛皮の腰巻をまとい、下半身を覆った。

この男こそ行者行甚(こうじん)と呼ばれ、畏敬の念で天川の民から慕われていた。
役小角(えんのおづぬ)の筆頭弟子と噂され、その霊験あらたかなることすばらしく、天川や熊野、葛城にまでその名が聞こえていた。
超人的な体力で深山を駆け巡り、数十人の鬼を使って土木工事を無償で担ってくれるのである。
この天川は、大峯山の支配下にあり、大台ケ原の雨を集めて川がしばしば氾濫し、なかなか人が住みつかない場所だった。
そんなところに人々が住まうようになったのは、行者たちの働きによるところが大きかった。
大和(やまと)まで下れば、国中(くんなか)といって帝(みかど)がおわす「あすか」の大都があるのだが、天川の人々にとっては、やすやすと近づける場所ではなかった。
ゆえに、樵(きこり)やマタギをして命をつないでいる天川の人々だった。
崖に貼りつくようにして、爪の先のような田畑(でんぱた)を営んでいる者もいた。
そんな生活も、行甚を頭とする鬼たちのおかげで成り立っているのだった。

行甚の庵には、たびたび若い女がおとずれる。
年のころは十七、八の生娘から、四十に近い年増までやってくる。
みな、行者の強い子種がほしいのだ。
家から鬼の血を分けてもらった男児が出ると、その子は山に入り鬼になって家の支えになってくれるのだった。
夫のいる女でも、一人は行甚の子が欲しい。
夫も、それを妻に許していた。
行甚の子種は特別なのである。
そして行甚の子を孕むことは、家の名誉なのだった。

今日も、三十路の張りきった体の女がやってきた。
両手に余る、捧げ物をぶらさげて、行甚の「拝み小屋」を訪ねて来たのである。
「行甚さま、いたはります?」
「おお、誰やと思(おも)たら、ましのさんやないか」
「ましの」と呼ばれた女は、ここを何度も訪れているようだった。
夫がいるのだが、病弱らしく、あまり畑に出てくれないとこぼしており、そして夜の相手もしてくれないと、あけすけなことを言う、くだけた女である。
この痩せた土地には珍しく豊満な体の持ち主だった。
ましのは熟れ切った体を持て余し、行甚の情けを受けてからというもの、「熱」を冷ましてもらうために度々、行甚のもとにやってくるのである。
そういう女もけっこういるのである。

行甚も、精力がみなぎっている壮年の男であるから、女に気をやることは「行」として必要だと思っているのだ。
遁甲(とんこう)という大唐の占術を修めた行甚は、男女の交合は気の流れを純化し、より多くの精霊と交信できる精神を養うことを知っている。
また、女の方も、精鋭の子を宿すことになるので、願ってもないことなのだから、喜んで、夫よりもたくましい行甚の男根を胎内に導いて、子種を受けんと体を惜しげもなく開くのである。
「ね、ええでしょ?」
媚びるように、ましのは上半身裸の筋骨たくましい行甚の肩にしなだれかかる。
「こないだ、やったやないか。また、さびしなったんか?」
「うちのイロセ(夫のこと)は、ぜんぜんやもん…」
「しゃあないな、子はでけんか?」
「上の子は、こうじんさんの子です。下の女の子はイロセの子やと思います。鼻の格好がそっくりでっさかい」
「そう言うとったな、たしか」
行甚は、固太りの、ましのの体を引き寄せ、その熟した色香を濃く発している首筋にかぶりつく。
ああんむ…
「こうじんさま」
「ましの」
行甚の股間には、もうすでに立ち上がった肉の棒があった。
ましのの手がそれをすばやくつかんでしごく。
「ああ、硬い。吾(あ)のイロセはこんなに硬くならへんも」
「そうけ?」
そのつややかな、朱塗りの杭はひくひくと動きを見せる。
ましのが顔を近づけると、その顔が映りそうなくらいに雁首が磨かれていた。
女は、口をひらいてそれを含んだ。
まぷ…
黒々とした毛に飾られた肉の柱が、ましのの口を出入りしている。
それを眺めながら、行甚はほくそ笑んだ。
仁王のような腹の筋肉を波打たせながら、行甚は息を粗くする。
弓のように反り返った物を揺らせながら行甚は、ましのを菰の上に転がし、そのたっぷりとした腿を左右に割って、己が腰を入れて狙いを定める。
ぱっくりと開いた大輪のシャクヤクのような淫靡な肉の花が咲く。
饐(す)えたようなきつい臭いも、かえって欲情を誘った。
下の方に開いた洞穴に、擬宝珠に見える太物を押し込んだ。
ぎゃわっ!
赤子のような声を上げて、ましのがのけぞる。
かまわず、行甚は根元まで一気に刺した。
いひぃ!
「ましのぉ、いやさ、よう締まるぅ」
「こうじんさまぁ!あかん、つぶれるぅ」
「つぶしたるっ」
ぶじゅ、ぶじゅ、じゅぶ…
暑いので汗もあるだろうが、ましのが行甚を受け入れるためにしとどに濡らしている音だった。
行者の男根は、ふつうの男の物と比べて数倍、大きい。
鍛錬と薬草のせいだと言われる。
遁甲術では、漢方薬の知識も豊富で、超人的な精力をつける媚薬や、何度放出しても硬さを失わない生薬を普段から服用しているのである。
不動明王の化身となった「まら」は、多くの女を驚天動地に誘い、玉のような男児を授けた。
もし女児であっても、聡明で美貌の持ち主だった。
抜かずに、ましのを何度も逝かせ、ましのは豊満な肉を波打たせて、泡を吹いて悶絶してしまった。
その胎内に、双子ができるほど、行甚は最後の一滴まで精汁を注ぎ込んだ。

さすがの行甚も肩で息をしている。

車谷の夕暮れはつるべ落としだった。
夏でも日の出ている時間は短い。
もう、ミミズが鳴いている…

ましのは、たっぷり腹の中に仕込んでもらい、いそいそと谷を下っていった。
内腿に垂れてくる、おびただしい子種を感じながら…

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