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今の世代はソーシャルメディアに何を求めているのか

こんにちは。D4VというベンチャーキャピタルでアソシエイトVCとして働いている、飯田(まいーだ)です。

ここ最近、いろんなソーシャルメディアの動きがありますね。TikTok騒動はもちろん、コロナ禍で再度人気となったアプリHouseparty、競争が激しくなってきたライブ配信アプリなど...。新しいソーシャルメディアが次々と生まれている中、この時代を生きる若い世代(ここでは主にミレニアル世代〜Z世代を指す)の間でカルチャーも大きく変化しています。

そういえば、昔どういうSNSを使っていたのだろう?
そして、今はどういうトレンドが主流になっているのだろう?
ー なんとなく最近考えていたことなので、ぼんやりと抱いていた感覚と気づきをまとめてみました!

これまでの話題SNSを比較して見る、変わりゆくトレンド

1990年代から現在まで、どのようなSNSが流行ったのか?この記事に書かれているのは主に海外アプリですが、非常に興味深く、懐かしく思います。

初めてオンラインでテキスト上のコミュニケーションが可能となったAOL Instant Messenger(通称 AIM)が流行った1990年代。2000年代初期に入ると、初めてインターネットで交友関係を広げたり(Neopets)、自分のプロフィールページを作ったり(MySpace)、ブログを書いたり(Xanga)するようになりました。2000年代後半になると、今は誰もが知っているFacebook、YouTube、Twitterが生まれ、ソーシャルメディアは爆発的に世界中に広まります。独自のコンテンツを作り、アップロードし、次々と「シェア」されていく流れが見えてた中、2010年代、さらにInstagram、Snapchat、Pinterestが普及し、写真を通じたインタラクションが浮上します。

(ちなみに上記に挙げたサービス名はすべて、私が当時どハマりしたサービスです。笑)

そして現在はTikTokが大ブレーク。シェア目的やネットワーク構築より、独自コンテンツを気軽に作成し、かつ面白可愛い動画を生み出すという新たなカルチャーが若い世代を中心に広まっています。もはや今は、どちらかというと人と人がつながる人間関係に基づいた「SNS」より、人々が自分の興味関心にあたるコンテンツに基づいた「ソーシャルメディア」が台頭していると言えるでしょう。

このように年代別に並べて見ると、2000年代と2010年代の流行は大きく異なると感じませんか?その中でもさらに2010年代前半と後半でも、大きくトレンドが動いています。2020年代は、はたしてどのようなソーシャルメディアが人気を浴びるのでしょうか?

トレンド①:浅く、広く。 Social Graph→Interest Graphへ

近年、従来のSNSが勢いを失い始めています。昨年の情報になりますが、Edison Reseachのレポートでは、FacebookとTwitterのユーザー数が2017年から減少しており、それは特に若い世代で顕著だといいます。ここでいう「若い世代」はミレニアル世代〜Z世代を指しますが、彼らは従来のSNSに対し懐疑的です。Harvard Business Review の記事でも、彼らの価値観に関して以下のように言及されていました。

ここ数年、若い世代は自分の「オンライン・アイデンティティ」を慎重に築き上げ、オンライン上たくさんの「フレンド(友達)」をつくった。しかし今の彼らはもっと「ありのままの自分」でいたい、そして共通の趣味にもとづいた「本当の友達」をつくりたいと思っている。その上、彼らはプライバシーの保護、安全性、そして大量のユーザー(自分の親も含む)で混み合ったソーシャルプラットフォームからの開放を願っている。

若い方々はもう自分を「つくる」生活に疲れている。安心できる環境で、偽りのない自分でいたい、そして純粋に趣味を通じて友達をつくりたいと、切実なのです。

従来のSNS(Facebook, Twitterなど)は、たしかに自分のネットワーク次第で流れてくるコンテンツが支配されています。フォローしている人がいいねした内容が流れる、友人がシェアした内容が流れる。自分がつながっているネットワークに関連する情報が届くのです。これが従来のソーシャルメディア、つまりSocial Graph(ソーシャルグラフ:人と人との関係図)にもとづいています。

一方、最近流行っている TikTok で流れてくるコンテンツは、見知らぬ人の動画が多い。自分のネットワークに紐づいていません。逆に、自分がこれまで視聴した動画が分析され、自分が興味ありそうなコンテンツを届けてくれます。つまり、TikTokは完全にInterest Graph(インタレストグラフ:興味テーマや趣味による関係図)にもとづいています。

SocialよりInterestを重視したソーシャルメディア。それは今の若い世代の価値観にとても合っていると感じます。Social Graph から Interest Graph への動きに関して、次のa16zのポッドキャストでも話が出てくるので、ぜひ聴いてみてください。TikTokのアルゴリズムについて詳しく説明してくれます。

トレンド②:深く、狭く。拡散性より心理的安全性を

前述したとおり、若い世代は「ありのままの自分」でいたいと願っています。そんな自己表現を可能としてくれるのが、従来の「オープン」とは違って、どちらかというと「クローズド」な環境。これが、最近ソーシャルメディアに求められる2つ目のトレンドだと思います。

今やメンタルヘルスやウェルビーイングが当たり前になり始め、人々はオンライン上でも心理的安全性を求めるようになっていると感じます。人々、特に若い世代は、バズることや拡散性を狙っているわけではありません。たとえば少し重めな話 ー 賛否両論な議題に対する意見、自分の哲学、パーソナルな経験談など ー これらを話題にしたいという気持ちがあるわけではない。拡散したいわけでもないので、バズると必然的に出てくるクソリプやヤジなどは不要。それより、深みのある話を人々と共有し、共感・刺激・アドバイスを得られること。誰でも自由に会話に入れるオープンさより、自分がちゃんと仲間入りし、耳を傾けてもらえていると感じられるInclusivityを。ニッチなコミュニティの一員となり、強固な絆を築くこと。特に今は、そのようなオンラインコミュニティが求められているのではないでしょうか。

トレンドを表している話題のスタートアップ

さて、これら2つのトレンドをよく掴んでいると感じる、最近話題のスタートアップを紹介します。

・Clubhouse

今春、Andreessen HorowitzがSeries Aで投資したことで話題になった音声ベースの次世代SNS「Clubhouse」は、いまだに謎に包まれています。アプリのユーザーは気になる会話の部屋に入り、その会話を聞き入ったり実際にしゃべって参加したりできます。かなりの中毒性があると言われ、中には1日4時間以上、週に20時間以上も使っている人もいるようです。睡眠を削ってまで聞いている人もいるだとか。気になる会話がテキストベースではなく音声で進むので、その場にいないと展開についていけなくなりますし、その臨場感が面白いのかもしれませんね。

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TechCrunch記事より

ここで興味深いのは、Clubhouseはまだかなりクローズドなサービスであることです。そもそもウェブサイトがなく、まだプライベートベータ版で、招待されないと入れない仕組みです。クローズドだからこそ、ある意味「仲間入り」した気分になり、親しい仲間との会話のような心理的安全性も感じられるのかもしれません。(トレンド②)

一方、クローズドであることは、仲間に入っちゃえば良いですが、これほど話題なのに外部に残された人々にとっては心理的不安にもつながります。まだプライベートベータ版しかない段階で、$100M(約100億円)の時価総額でSeries A調達という事実に、シリコンバレーはざわつきました。そしてまだClubhouseを手に入れられていない人々はFOMO(Fear Of Missing Out; 取り残される不安・恐怖のこと)に駆られて早期にアプリを入手しようと動いたのです。トレンド②に述べた心理的安全性は、FOMOなどの心理的不安と表裏一体かもしれないですね。

さらに、Clubhouse内で行われる会話は一見親密な雰囲気で進む一方、ハラスメントも問題となり始めているようです。まだベータ版であり、内部コントロールが行き渡っていないとも言えますが、世間は甘くありません。早速この弱点に目をつけた競合サービスも出てきました。TelepathというサービスもClubhouse同様、招待されないと使えないプライベートベータ版ですが(2020年9月時点)、相違点としては実名を使うこと、登録に実在する電話番号が必要であること、そして明確なコミュニケーションガイドラインを設けていることでしょう。これらを通じてTelepathは、利用者が安心して共通テーマに関して議論できる心理的安全性を保証しようとしているのでしょう。(まさにトレンド②。)

会話を尊重して、扱われているトピックとトーンに沿ってください。コミュニティによっては明確なトピック、トーン、そして目的が示されています。明らかにAに肯定的なスタンスをとっている会話に対し、Aを否定するような真逆なアジェンダを持ち込まないでください。(The Vergeより和訳)

・Discord

Discordは2015年にリリースされた、ボイス版Slackみたいなコミュニケーションツールです。Slackのようにチャット(音声・テキスト・動画)機能や、ゲーム中継に便利な配信機能もあります。元々はゲーマーの間で人気でしたが、最近はより幅広く一般ユーザーが増えてきています。

現在、ユーザーの30%以上(一部10代だが、大半が18歳〜44歳)はDiscordをゲーム以外の用途で利用している。(Forbesより和訳)

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コロナ以降、Discordのユーザー数は伸びている。最近はAmong Usというソーシャルゲームのヒットでさらに急増(The Vergeより)

今は一般ユーザーに普及し始めていますが、一時期、極右のナショナリストたちが集まりヘイトスピーチや嫌がらせが蔓延していたため評判がガタ落ちしました。以来、セキュリティとパトロールを強化し、現在はまた健全な場に戻っています。先日、Z世代がDiscord上で「Gen Z Mafia」というシリコンバレー文化に対抗する組織を作ったことが話題となったように、一種の「クラブ」みたいなニッチなコミュニティがDiscord内で生まれ始めているのかもしれません。

トレンド①のように、共通した興味関心(好きなゲームなど)から流入するユーザーや、トレンド②のようにニッチなコミュニティを求めて流入するユーザー、双方が表れているように思えます。

・Peanut

Peanutは英国発のママ友SNSアプリです。これまでのスタートアップほどまだ知られていないかもしれませんが、個人的にはかなり興味深くフォローしている会社です。「Tinderのママ友版」とも呼ばれるPeanutは、世の中のお母様が互いに情報交換し、友達になり、母親や女性だからこそ気になるテーマについて語り合えるコミュニティを築き上げています。2017年の創業から多くのママ友ユーザーを獲得してきたPeanutですが、一体ユーザーは何を求めてこのサービスに集うのでしょうか?

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Peanut ウェブサイトより

もともと出会い系アプリBumbleの取締役であったCEO の Michelle Kennedy氏は、今年7月にオンライン開催されたFemTech Forum 2020にて、次のように語っていました。

Peanutで繰り広げられる会話はどれも貴重です。女性たちはみんな自分の生活や人生について、かなりプライベートな内容まで共有し合います。お金の話、人間関係の話、他にもかなり細かくパーソナルな話もたくさんあります。なぜそのような会話が行われるのか?それは女性に限定しているコミュニティだからこそ、ユーザーのみなさんはいろんな話題について安心して語れるのです。

このように、ユーザーが共通の話題、とくに女性同士だからこそ話したり相談できる内容に注目して集まり(トレンド①)、女性同士であるため理解しあえるという心理的安全性を感じて自由に会話できる(トレンド②)、そのような空間となっているようです。

・Substack

少し違う観点になりますが、最近復活しているメルマガやニュースレターも、ある意味今回取り上げた2つのトレンドに沿っているように思えます。

情報過多な時代に生きる私たちの間で、「自分におすすめの記事をすべて一箇所で読みたい」というニーズが生まれ、そこからキュレーションメディアが広まりました。日本ではまだキュレーションメディアでいうとNewspicksのようなSNS型メディアが頭に浮かぶ中、最近海外では新たにcurated newslettersが流行り始めています。そしてこれらのニュースレターは、従来のように会社が配信しているものではなく、個人が配信しているものが非常に多くなってきたのです。

個人によるニュースレターを可能としているのが、現在人気を浴びている Substack。昨年7月にAndreessen Horowitzも出資した同社は、従来のメディアとは違い、ライターが直接自分のコンテンツを読者に届けられ、読者も直接ライターを応援できる、そのような関係性の構築を可能としています。(詳しくは以下、Andreessen HorowitzブログよりSubstackへの出資理由について書かれた記事をご覧ください。)

新しいビジネスモデルであることは間違いないですが、今回Substackを取り上げたのは、今の世代が好む新しいコミュニケーション方法をも表していると感じたからです。Substackを通じて配信したコンテンツは、登録してくれた読者のメールアドレスに送られます。ライター側からすると、興味を持って登録してくれた人にのみ届くので、自分のファンクラブに向けて発信しているような感覚です。さらに受信する側としては、気になるニュースレターだけを選んで登録し、そのメールが自分の受信箱に直接届くので、他のユーザーの反応やコメントを見ることは一切ありません。毎回届く好きなコンテンツを、周りの反応による影響を受けることなく、純粋に楽しめます。そして何か声を届きたいと感じた場合、読者は返信してコメントを送ることもできます。

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Substackウェブサイトより

読者は好きなコンテンツを見つけては登録し、それを楽しんで読みます(トレンド①)。また、ライターは純粋に自分の書きたいコンテンツを届け、そのコンテンツに共感した読者は直接ライターに声を届けることも可能ーこれはある意味、双方において心理的安全性が高いのかもしれません(トレンド②)

ちなみにSubstackを使う個人ライターたちがどう感じているのか?を知りたい場合、a16zのこちらのポッドキャストがおすすめです!実際、前述したような相互コミュニケーションが生まれて楽しいと、話していました。

2020年代のトレンドにも注目

以上、私が感じているソーシャルメディアの大きな2つのトレンドと、話題のスタートアップをいくつかご紹介しました。述べたスタートアップはすべて海外ですが、日本でもこの流れはあると考えています。たとえば先日UUUM社が買収したFOLLOW MEという有料会員制SNSアプリもこの表れで、従来SNSの誹謗中傷に困ったインフルエンサーが使い始めています。この誹謗中傷問題こそ、従来のSNSの限界をよく表したように感じます。

今回の記事の前半で紹介したHarvard Business Reviewの記事に、若い世代がソーシャルプラットフォームからの開放を願って向かう先には3つの傾向があると書かれています。

①プライベートメッセージ:クローズドな会話チャネル。DMなどの個別メッセージを好む傾向がある。
②マイクロコミュニティ:クローズドなグループ。Facebookの鍵付きグループや、Slackでの招待制コミュニティなどを好む傾向がある。
③共通の趣味に関するオープンコミュニティFortniteで一緒にゲームをしたり、好きなゲーム中継をTwitchで見たり、趣味を通じて見知らぬ人とつながる傾向がある。

興味深いことに、上記の傾向は数年前からも言われていたことなのです。現New York Times レポーターのTaylor Lorenz も、2017年の時点でソーシャルとメディアは分離するという記事を出し、次のように主張しています。

なにか意見を言えばヤジに批判されるという環境にユーザーは疲れ、よりクローズドな場へ、たとえばDMや小さなグループへと流れている。同時にコンテンツに関しても、従来のソーシャルメディアが誇るような、広告やアルゴリズムが用意したコンテンツへの興味関心は薄れている。

この仮説がようやく目に見える形となってきており、現在は若い世代を中心に急速に進んでいると言えるでしょう。もしかすると、現時点ですでに次の新トレンドの芽が出ているのかもしれません。Z世代の次の世代が牽引する価値観、それに対するソーシャルメディアの反応そして進化を、注視していきたいと思います。

波乱万丈な一年からスタートした2020年代。今後どのようなソーシャルメディアのトレンドが生まれるのでしょうか。これからも目が離せません。



最後まで読んでくださりありがとうございます!これからもVCとして日々学んだことを、記事として記録していきます。

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