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まちと人々を包み込み、多様性が響き合う未来

(2021/05/28 写真追加、2021/02/13文章作成)

創業300年の白井屋が新たな食文化とアートの発信源である白井屋ホテルとして蘇りました。万博プロデューサーとして同僚である藤本壮介さんのデザインということもあり、感染対策を行った上で訪問して参りました。

このホテルを巡るユニークな体験は数多くありますが、圧倒的なものの一つが、大通りから本館「the lounge」に入った時に広がる吹き抜けの空間体験です。
天井から光を取り込む四層吹き抜けの空間はそれ自体強いインパクトがあります。橋梁が向きだしになった建築構造からはダイナミックな力強さを感じることができますが、それだけではありません。



不均一に配置されたらせん階段や、各階のアプローチが織り成す曲線や直線が、多様で美しい景色を作り、場の持つ創造性を高めています。その空間にレアンドロ・エルリッヒの”Lighting Pipes”や杉本博司の”ガリラヤ湖”をはじめとする数々のアート作品が個性を主張しながらも、多様に溶け込んでいます。

天井から取り込まれる光が優しく場を包み込むなかで、豊富に配置された木々が空調や光の中で揺らめき、場に優しい鼓動を加えています。また開放感のある空間の中に、自然から取り込んだランダムな要素が調和することで、そこにある人々の動きや話し声がノイズではなく、魅力的な要素として響き合っています。森の中に佇んでいるような安らぎと、そこにある人の営みや文化、アートが加える閃きが調和した場に引き込まれました。

短時間訪れるだけでも魅力を感じることができますが、この空間を堪能する上では宿泊をおすすめします。太陽が沈んだ後はレアンドロ・エルリッヒの独擅場です。縦横に張り巡らされたパイプが様々な色に輝くことでアッパー感が形成され、場に昼間とは異なるコミュニケーションが生まれていきます。

提供される食も上質でした。例えば”the Restaurant”のデザートの一つとして提供される「焼きまんじゅう」。群馬県のソウルフードである焼きまんじゅうとは、素まんじゅうに甘辛い味噌だれを塗ったものです。あたたかい温度で提供することで、そのぬくもりの中に郷愁を感じます。そこに酒粕の香り、アイスクリームの冷感、カラメルの苦みが多層的に加わることにより、甘みが引き締まり、洗練された華やかさも同時に感じることができます。(下記の写真に写っている飲み物は全てノンアルコールです。)

こういった皿一つ一つから、前橋の歴史への敬意と、これから目指すべき未来を感じることができました。5感を通して地域との関係をひらく文化体験は、この場所の必然性と結ばれることでより忘れがたいものになります。



客室のデザインもそうした体験を深めるものです。最初に部屋に案内された時は、わかりやすいラグジュアリーと一線を画すデザインに少し戸惑いを覚えるかもしれません。しかし白井屋ホテルという場所やそこに集う人々との文化的な刺激を経て部屋に戻ったときに、その価値を実感することが出来るでしょう。ジャスパー・モリソンがデザインした部屋は、窓を閉じると床から天井まですべて”木”に覆われます。静謐な空間の中では内省や瞑想が喚起され、新たなインスピレーションへといざなわれます(おそらくサウナと合わせるとより効果的でしょう)。

もちろんホテルには多種多様な部屋があるため、その人のその日の気分に合わせた形で選択することができます。価格が高い部屋が常に良いという訳ではなく、目的やコンディションによって選ぶことがお勧めです。

素晴らしい滞在の中での、私のハイライトは翌朝でした。朝食をとった後、朝の柔らかい光に導かれるようにらせん階段を上がっていく。吹き抜けの空間のもつ美しさに包まれる感覚は、生きることの素晴らしさを感じるものでした。イメージ画像や設計図から藤本さんの建築をいくぶんか理解した気になっていましたが、この体験を通して藤本建築の更なる可能性を実感しました。

白井屋ホテルは私にとって、まちと人々を包み込み、多様性が響き合う未来を体験する場所でした。新しい地域の可能性に挑戦したオーナーのJINSの田中さん、建築家の藤本さん、志に賛同して集ったスタッフやクリエーターの皆さん、すべての方々に敬意を表したいと思います。


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