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スタートアップが直面する課題と解決策を日本とイスラエルで比較してみた

私はイスラエルに2020年の8月まで6年強、駐在していました。

そこで見たこと、経験したことは、普通に日本で生きてきた私にとっては驚きの連続でした。ユダヤ人はどんな状況でもジョークを言って跳ね除けるネアカ、ポジティブな性格で、人生は短いのだからやりたいことは今直ぐやるという旺盛な起業マインドを持っており、また、皆一様に自分はやればできるという強い自信が備わっています。

世界を見るとユダヤ系の方々には有名な起業家やクリエーターの方々が数多く居ます。Facebook創設者のマーク・ザッカーバーグ氏、ChatGPT/Open AI創設者のサム・アルトマン氏、映画界ではスティーブン・スピルバーグ氏など。ユダヤ系の方々の新しいビジネスの発想や創り方、まずはやってみてから考えるという姿勢、人脈の使い方など、結果、多くのことを学ぶことになりました。

ご存知の通り、イスラエルは現在戦争で大変なことになっています。そこに住んでいる市井の人達の多くは異常なまでのお節介焼きで、どこの国の生まれであろうが助けを差し伸べてくれる、優しく温かみのある方々です。

私自身も2024年5月にイスラエルを訪問して友人達に話を聞きましたが、少なくとも私が現地で尊敬するハイテクスタートアップやベンチャーキャピタルなどの業界の方々は、今のこの状況が一刻も早く終わって欲しいと考えている人ばかりです。

スタートアップ、独立や経営をすると、全てが生活の一部となって参りますが、猛烈に働くユダヤ人のスタートアップ経営者でも、家族との時間や自分の時間を作ることは忘れず、全てがギリギリの中でも各人の人生を、そしてチャレンジをEnjoyしておりました。

私の記事を通して、起業にまつわる様々な知恵や、ジェットコースターのような毎日起こる様々な人生の課題をどのように乗り越えていったのかなど、今は渡航し辛い処に住むユダヤ人起業家たちから学んだ知見を日本の皆様にご紹介することで、ひとりでも多くの方がご自身のビジネスを始められることの不安を取り除かれ、充実した生き方を見出し、ビジネスの成功に繋げていただければと願っております。

さて、日本のスタートアップ業界は、2023年では1兆円を超える調達金額となり、2020年と比べると成長を示しています。この成長は続くことが見込まれていますが、もう一段上への成長を目指すうえで、いくつかの課題も指摘されています。

【STARTUP DB独自調査】「2023年 年間 国内スタートアップ投資動向レポート」を公開より

一方で、人口ひとり当たりのスタートアップ数は世界最多で、年に800〜1,000社ものスタートアップが誕生しているイスラエル。日本とは異なる環境でも、学べることがたくさんあります。

スタートアップ大国のイスラエルとの比較を通じて、国内スタートアップの課題とその解決例を紹介します。本記事が、読者の方々が直面する課題解決の糸口となれば幸いです。


日本とイスラエルのスタートアップが直面する主な課題

日本においては、経済産業政策局が、国のスタートアップ政策を舵取りしています。スタートアップは未来の雇用、所得、財政を支える新たな担い手であり、経済成長のドライバーでもあります。

ちょうど、経済産業省もスタートアップによる経済波及効果の調査概要を公表していました。間接波及効果まで含めたGDP創出額は北海道や福岡県の県内名目総生産に相当しており、スタートアップが日本経済に一定程度貢献していることが分かったとのことです。


出典:経済産業省

これにもかかわらず、多くのスタートアップが抱える困難は依然として大きく、特に国際競争力の強化が急務であると言えます。

世界で戦えるスタートアップ企業を早急に創出しなければ、日本と世界の差は開くばかりです。今こそ、スタートアップがスピーディーかつ大きく育つことのできる環境を整えることが求められています。

 【日本の場合】

①資金調達の難しさ

国内のスタートアップ投資額は、2013年の871億円から2021年の7,801億円と約8.9倍へ伸びています。しかし、世界と比較してみると、下の図のように、日本の投資額の絶対額が少ないことがわかります。

(出典:経済産業省経済産業政策局)

また、スタートアップへの投資額を国内総生産(GDP)比で見ても0.08%にとどまっており、シンガポール(2.61%)や米国(0.64%)を下回っています(下図参照)。

(出典:2022年、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局)

さらに、出口戦略の選択肢や機会が限定されていることやIPO時の調達額が多国と比べて小さく、十分な資金ができず成長が鈍化することも要因として挙げられています。

②人材の問題

企業を成長させるためには、優秀な人材を自社に招き入れて強い経営チームを作ることが必要不可欠です。しかしながら、人材の流動性やストックオプション制度などの報酬制度とこれに大きな影響を与える未上場株式の流動性はスタートアップ企業が優秀な人材を雇用するために必要な要素ですが、日本ではまだ成長途上の段階にあります。

また、世界と比べても起業家マインドが育っていないことも人材不足に大きな影響を及ぼしています。主に「失敗に対する危惧」や「身近に起業家がいない」ことが原因とされています。

一般的に多くの起業家は、「身の回りにいる起業家」や「起業した友人・知人」に強く影響を受けており、日本において身近に起業した人が他国よりも少ないことが人材不足にも影響しています。

③国内市場が十分に大きいということ 

GDP(国内総生産)でドイツに抜かれ世界4位に転落したという報道がありましたが、それでも世界第4位の国内市場は非常に大きな市場です。国内市場で一定のシェアを取ることができれば、株式上場でさえ確実となる状況において、より大きな価値創造を目指し、海外市場の展開を考える必然性は少なくなり、世界的な企業に成長する例は少ない状況です。

【イスラエルの場合】

①資金調達時の国内の選択肢が少ない

2023年、イスラエルのスタートアップは日本のスタートアップの総調達額である7,536億円よりも大きい約9,300億円(58億米ドル)を調達していますが、そのうち7割近くは海外投資家からの調達です。

これはイスラエル国内に居る投資家やベンチャーキャピタルは日本と同様にアーリーステージでの出資を求める者がが多く、 また、成長ステージの資金を提供できるような国内の大企業は少ないため、成長ステージの資金は最終市場である海外機関投資家やグローバル企業から調整せざるを得ない現実があります。

なお、日本以外の国では一律にそうであるように、イスラエルでも売上のないスタートアップは、銀行から融資は受けられず、国内の資金調達手段は限られます。

この課題をイスラエルのスタートアップは成長するための機会と捉え、海外投資家から資金を調達することだけを目指すのではなく、日本の大きな都道府県程度しか無い国内の市場ではなく、より大きな海外市場を起業したその日(Day 1)から狙うことで、資金調達の幅ならびに自社の成長の枠を拡げることに成功しています。


(出典:IVC-GNY-KPMG INVESTORS REPORT 2023)

②優秀な人材の確保が困難

四国ほどの国土面積しかなく、6割が砂漠のイスラエルの人口はおよそ990万人。日本の人口約1億2500万人に比べると、その差は12倍以上。自ずと労働人口でも差があります。

とくにスタートアップでは、多様なスキルを持つ優秀な人材が求められる中、イスラエルには400社以上のグローバル企業が存在し、日々これらのグローバル企業の採用担当との人材の争奪戦が繰り広げられています。

優秀な人材はグローバル企業から、噂によるとスタートアップの2-3倍の給料で、引き抜かれていくということです。それでも、イスラエルのスタートアップが優秀な人材を確保できている理由は複数あるとされますが、主な例としては、自身の尊敬する人(特に兵役中の上司)がスタートアップを経営しているからという理由や、親戚やクラスメートなど身近な人にスタートアップで大企業で得られる以上の成功を手にする事例が少なからず存在するためと言われます。

狭いイスラエルだからこそ、このような繋がりが持てる、広い日本では特に地方に住んでいると東京にある人脈へのアクセスは難しいと考えられる方もいらっしゃるかと思いますが、コロナ禍でZoom化が進み、各種インターネット上のネットワークが盛んな現在は物理的距離はさほど関係なく、まずは気軽に相談できるVC、スタートアップどちらからもニュートラルな相手を探すことで解決できるのではないでしょうか。

③島国にはない地政学的な課題

イスラエルのGDP(国内総生産)は5,099億ドルで神奈川県より少し大きい程度の国内市場規模と非常に小さいです。また、陸続きの隣国とは歴史的にも地政学的にも課題があるため、隣国ではなく遠方の市場に居る顧客に対して商売をしていかなければいけません。

また、政治的変動や紛争などの影響で、高い輸送コストや配送時間の延長、貿易ルートの安全性を確保が難しくなるなど商取引に影響を及ぼしています。

よって、イスラエルのスタートアップは遠方の市場でも売れる、圧倒的に差別化された製品を開発しようと皆心がけており、また、頻繁に全ての顧客に売り歩ける訳でも無いため、製品自身が自明で競争優位性を持つか、またはリモートでのマーケティングをテクロノジーで解決し、効率的に大きな市場でポジションを獲得できるノウハウを近年は身につけております。そのような前提でないとVenture Capitalからの資金調達も行えません。

日本も陸続きの市場は存在しないため、高度成長期などは同様の状況で成長していったのではないかと想像します。日本では海外進出は費用が嵩み、人的ネットワークやノウハウは大きな企業の方に蓄積が多い印象かもしれませんが、日本のスタートアップでも、イスラエルの事例の様に最初の顧客やパートナーが海外ということを見聞きするようになりました。まだまだ事例は多くは無いかもしれませんが、イスラエルの事例、時に泥臭く、時に賢く、などを紐解きながらどのように進めていけるのかを一緒に考えられたらと思います。

まとめ

これらのように置かれた環境の違いから、日本とイスラエルに違いはありますが、スタートアップ大国のイスラエルの事例を紐解いていくことにより、日本の事業を営む皆様の悩みの解決方法が見つかるかもしれません。 

海外のまだまだ知られていない事例に多く触れていただくことで、起業にまつわる課題解決の一助としてご活用いただければ幸いです。

追伸:

僕がイスラエルでベンチャーキャピタルをやってユダヤ人から学んだことnote:


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