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『我が家に住むゴリラの話』

我が家にはゴリラがいる。
そのゴリラはメス……失礼、女性で、恐ろしくて正確な年齢は言えたものではないが、もう還暦を過ぎていて、それなりに細身の体つきをしている。

還暦を過ぎたゴリラ‥‥失礼、人間の体というのは、普通、筋肉が落ちてきて否応なしに細くなっていくというか、皮が弛んでくるというか。
まあ、体全体が小さくなっていくものだと思うのだが、我が家に住むゴリラ……いや、母は違う。(結局母なんかい)

もともとスポーツをやっていたこともあって、骨太でがっしりした体格の人だし、異常に二の腕の筋肉が発達した人なのだが、その筋肉は今も衰えることなく、とてもムキムキである。

娘の私が、母と腕相撲をして開始3秒でブチ倒されるくらいムキムキである。

特に鍛えているわけでもなく、数年前に体を壊してからは歩くこともそれほど好きではなく、仕事はしつつも日々をのんびりと生きているような人なのだが、どうして筋肉だけはほとんど衰えないのか甚だ不思議だ。

さて、この前の配信ライブでも軽くお話をさせていただいたが、私が母を「ゴリラ」と呼ぶには理由がある。

皆さんは子供の頃、ご両親に叱られたことはあるだろうか?

今の価値観では考えられない話かもしれないが、私なんぞが子供の時分は、悪いことをしたらぶっ飛ばされるのが当たり前で、鉄拳制裁、お尻ペンペン、ご飯抜き、ゲンコツが降ってきたり、頬をはっ倒されたり。

今じゃ「体罰だー!」って炎上しそうなものだけど、正直、私らの時代は当たり前だった。

それが良いか悪いかは置いといて、まあ、そんな時代もあったのねー、と、思っていただくだけでよろしいのであるが、この鉄拳制裁。
我が家では、基本的に制裁を下すのは母の役割であった。

普通は子供に対して叱るとき、お父さんが怒りそうなものだけど、ウチは逆で、父は全く怒らない人だった。
いつもニコニコ笑っていて、冗談ばかり言っていて、「チャッカマン」とか、「鬼すらも裸足で逃げ出す」とか、そういう評判が信じられないくらい、私にはものすごく優しい人だった。

これは余談であるが、父を知る人達が私に会うと必ず言う言葉がある。
「リトちゃんはお父さんにそっくりだね」
それはあれか。私がチャッカマンレベルで常にキレてると言いたいのか?

まあ、それはいい。

とにかく、ウチは世間のそれとは逆で、悪いことをした私をはっ倒すのは母の役目であった。

そんな母には、ひとつの得意技があった。
そう、“目についた場所にある物を、手当たり次第ぶん投げてくる“という得意技である。

今でこそ私も落ち着いたが(本当か?)、昔、子供の頃は、年がら年中叱られているようなどうしようもない子供だった。
何か悪いことをしまくる、というよりは、私はとても理屈っぽい子供だったので、自分の気に障ることがあると、つい“口答え“をしてしまうのである。

「えー嫌だー……」とか「なんで私がこんなことしなきゃいけないの」とか。
我が家では口答えは厳禁だ。
父と母の言うことが全て正しい、というわけではないにせよ、正当な理由なく口答えをすることは“万死に値する“ほどの罪なのである。

幼き日の私が口を尖らせて、不満げな顔で口答えをすると、7割の確率で母の逆鱗に触れる。
お前んちにはチャッカマン人間しかいないのか?と知らない人は思うかもしれないが、うん。残念ながらいない。

そうするともう大変。
母がふと目を落とした場所にある物が、問答無用で私めがけて飛んでくるのだ。

大きさなんか関係ない。
母も父も昔は喫煙者であったので、1番よく飛んできたのは小さな使い捨てライターだが、煙草の箱であったこともあるし、夕食時であれば箸や茶碗が飛んでくるし、テレビのリモコンや、そうそう、棚に置いてあった縁起物の赤いダルマが空を飛んだこともあった。
ダルマに謝れ。

思い返す中でいちばんヤバかったのは3キロ超えの灰皿である。
当時、我が家のリビングには客用の灰皿がドーンと中央に置いてあって、それがまた分厚いガラスで出来ているものだから、重いのなんの。

それをなんの苦もなく正確にぶん投げてくるのだから、これを“ゴリラ“と言わずになんと言おう。

さて、そんな時。
あなたならどうするだろうか。
避ける?それとも避ける間もなく当たる?
これ、母の怒りを鎮めるための正解は、
『痛くなさそうなものを即座に判断してわざと当たれ』である。

ほら、親が怒りそうな時って、子供なら空気でわかるじゃない。
それまで和やかだった雰囲気がピリリッと張り詰めるというか、「あ、やべえこと言った」って自分で察するというか。

もうその空気を察してから謝ったところで遅いので、私はすぐに、母の周りにある“物体“に視線を向ける。

灰皿、リモコン、ライター、煙草。
この中でいちばん痛くなさそうなのは煙草とライターだから(でもライターも地味に痛いんだ、コレが……)、リモコンと灰皿は避けて、後の2つに当たろう、とね。
瞬時の判断が大切である。
じゃないと死ぬ。流石の私も灰皿は死ぬ。

そもそも全部避けたらいいじゃない、と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、違うのだ。
全部避けたら、余計にとんでもない物がとんでくるのだよ。

考えても見てほしい。
相手は頭に血が上ったゴリラである。

まずギャーッと声で叱り飛ばして、最後の最後に怒りの収まりがつかなくて、物を投げて的に当てることで発散しようとしているゴリラなのだ。

それなのに綺麗に全弾を回避してご覧なさい。
周りに投げられそうな物がなくなったゴリラはどうすると思います?

探すんだよ。投げられそうな物をな。

そしたらもう、予想の斜め上の物が飛んでくること請け合いである。

それは家族仲睦まじい家族写真かもしれないし、下手したら土鍋かもしれないし、父が大事にしているゴルフクラブかもしれない。
道端歩いていて、たまたま坂本昌行に当たるのとはワケが違うんだよ。
私は、そんな予想外の物に当たりたくない。

てなわけで、母が物を投げた時は、痛くない物に当たって、メソメソとしおらしく泣いておくのが正解、というやつなのだ。
ちなみにあんまりいつまでも泣いていると、「いつまで泣いてるんだ!」と“おかわり投げ“が発生してしまうので気をつけないといけないよ。

ああ、それと。
そんな母のおかげで動体視力が鍛えられたのか、私、ドッチボールで避けるのだけは異常に上手かったことを追記しておく。

まあ、そんな母も還暦をこえた。
最近は旦那もいるからか、イライラすることも少なくなって、物が飛んでくる頻度はとてもとても少なくなった。

これはこれで、なんだか寂しいような、悲しいような、複雑な気持ちになる私である。
平和であるというのは良いことなんだけど。
ゴリラでもいいから、ずっと元気でいてよね。

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