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『旦那に“コース料理を食べる“という夢を叶えてもらったら素敵な縁を結んだ話』


こんにちは、リトです。
先日の記事には、私の予想をはるかに越える反響をいただきました。

読んでいただいたあなたに感謝を。
ありがとうございます。

発信することの大切さ、SNSを通して知ってもらうことの意味、文章がもつ力、そういったものを噛み締めています。

さて、本日は前回とはベクトルを変えて。
先日の話だけで終わらせたらちょっと世知辛いというか、あまりにも悲しすぎるので、ひとつ、続編というかアンサーソング的な話を書こうと思いました。

先日の話が“理解のない人“に傷つけられた話なら
今日は、私たち夫婦がとある料理店の女将さんとご主人と、とても素敵な縁を繋いだ時のお話。

それは私が旦那と結婚したばかりのある日のこと。
私にはちょっとした夢がありました。

『高級な料理を食べてみたい』
和食でもフレンチでもなんでもいい。
コース仕立てになった高級料理を1度でいいから食べてみたい。

お恥ずかしい話ですが私はこれまで、そういった高級料理店に行ったことがありませんでした。
父がまだ存命の頃、幼い頃であれば何回かそういったお店にお邪魔したこともあったそうですが、母はそういう形式ばったお店が嫌いで、私が何度か「一緒に行こう」と誘っても「肩が凝るから嫌」とすげなく断られていました。

ならば友人と行こうと思っても、根暗にそう多くの友人がいるはずもなく。
数少ない友人たちも「そういう場所はちょっとなぁ」と二の足を踏むばかり。

「いいもん!私がいつか結婚したら、素敵な旦那様と一緒に行くから!」と。
ちょっとした夢を抱いたまま、私は結婚に至りました。

夢見た“素敵な旦那様“からは遠くかけ離れてしまったものの、少なくとも旦那を手に入れた私は、若い頃から抱いた夢を、旦那に話してみることにしました。

「お高いお店のコース料理が食べたいんだけど」
「コースだと、炭水化物が出てくるまで時間かかるからなぁ…。ちょっと難しいかも(´・ω・`)」

私が結婚した旦那は、1型糖尿病でした。
先日の記事でも触れた通り、1型糖尿病はインシュリンが生成されない病気なので、食事をする前に必ずインシュリン注射を打つ必要があります。

そして、インシュリン注射は、打ったその瞬間から血糖値を下げ続ける性質があるのです。

ゆえに、旦那は毎回ものすごいスピードで食事をします。
下手したらテーブルの上の食べ物がなくなるまでに5分かからないこともあります。
薬が効いている間に、下がり続ける血糖値以上の糖分を摂取しないと、低血糖を起こすのです。

ここで低血糖とは何か、ということに触れておきたいと思います。
低血糖とは、体内の血糖値が一定値を下回ることを言います。
症状は人によって様々ですが、旦那の場合は目がうつろになり、全身が震え出します。
本人の話では、この時とてつもない不安感に襲われるそうです。
そして最後には意識を失う。

フルコースのお料理は、その名の通りコースに沿って料理が運ばれてきます。
前菜、スープ、魚料理、肉料理。
和食会席なら先付け、お凌ぎ、椀物、というように。

食べ物の中で糖分が多く含まれるものはどれでしょうか。
そう、お米、もしくはパンやパスタなどの炭水化物です。

フレンチであれば、パンを先に出してくれと頼めば出してくれるでしょう。
でも、そればかり食べていたらお腹がいっぱいになってしまう。
和食なら?
お凌ぎ程度の炭水化物ではとても足りません。

そもそも長い時間をかけて、食事をするということ自体が、旦那には難しいのです。

それを悟った時、私は自分の夢が破れてしまったことを知りました。
しかし、こればかりは誰も悪くない。
悪いのはきっと、分不相応な夢をみた私なのでしょう。

悲しかったですが、仕方ないことだと割り切ることにしました。
そもそも私の好物はお寿司ですし、お寿司が食べられれば他のものはなくたっていい。
それにお気軽なランチなら、どんなお店にだって行くことが出来ます。
「だから諦めよう」と。
私はそう言い聞かせることにしました。

そうして私が自らの小さな夢に蓋をして、心の奥の箱の中にしまっておいたある日のこと。

「嫁、来週の休みにご飯行こう(`・ω・´)」
「いいけど、どこ行くの?」
「ないしょ(*´ω`*)」

ちなみにウチの旦那、本当にこんな(*´ω`*)顔もするしこんな(´・ω・`)顔もします。
たぶん1番似てるのはコイツ(´・ω・`)です。
付き合った当初は能面みたいに、表情の動かない人でしたが、人は変われば変わるものです。

この人が私に隠し事をするなんて珍しい。
しばらく訊ねても教えてくれなかったので、私は諦めて当日を待つことにしました。

そして当日。
「綺麗なカッコしてね(`・ω・´)」と指示された通りに、それなりにお高かったワンピースを着て向かった先は。
地元でも有名な高級料亭でした。

予約客しか受け付けない、全席個室の高級店。
お料理はものすごく美味しいと評判で、地元でグルメを名乗るなら、1度は食べておけと言われる名店です。

そしてここは当然ですが会席料理のお店です。
つまり私が夢に見たコース料理。

「フランス料理は炭水化物が少ないから危ないけど、和食ならちゃんとご飯出てくるから大丈夫だよ(`・ω・´)」
「大丈夫じゃないでしょ。会席でご飯出てくるのって最後の最後でしょ?それまで何時間かかるか」
「うん、だから相談した(`・ω・´)」

キリッとした顔で、旦那は店内に足を運びます。
慌ててその後ろについていくと、優しげな女将さんが私たちを出迎えてくれました。

「ご予約の〇〇様ですね。お待ちしておりました」

こちらにどうぞ、と。
とても優雅な所作で案内された部屋は、広くて綺麗な和室。
中央に大きなテーブルがあり、そこに勧められるまま、私と旦那は向かい合わせに座ります。

「相談したって…何を相談したの?」
「見てればわかるよ(*´ω`*)」

楽しげに料理を待つ旦那を見ていると、私の不安も少しずつ解けてきました。
本人がこう言うなら大丈夫なんだろう。
それよりせっかく私の夢を叶える為にセッティングしてくれたなら、楽しまないと損かもしれない、と。

大好きな日本酒を頼み、緊張しながらお料理が運ばれてくるのを待ちます。

「失礼します」
女将さんと給士の方が持ってきたお料理を見て、私は驚きました。
お盆の上には、様々な品数のお料理が乗っていたのです。

「本日は当店をご利用いただき、ありがとうございます」
私が驚いていると、女将さんが静かに頭を下げました。

「当店は普段、一品ずつお料理をお出しして、お食事を楽しんでいただくのですが、本日はちょっと趣向を変えて、2部仕立てでお楽しみいただこうと思います」

広いテーブルに、お造りや、見るからに手間のかかっていそうな小さなお料理たちが、埋め尽くすように並んでいきます。

そしてそれらはどれも冷たいもの。
旦那が低血糖にならないように、と考えられたのでしょうか、小さなお蕎麦やお寿司も違和感なく一緒に並べられていました。

まるで宝石が並んでいるようでした。
可愛らしくて美しくて。
今まで見たこともないくらい、目を楽しませてくれるお料理がそこには並んでいました。

「いっぱい食べようね(*´ω`*)」

旦那はニッコリと笑うと、私と一緒に料理に手をつけ始めました。
時々お寿司やお蕎麦に手を伸ばしながら、出来るだけ私のペースに合わせて、ゆっくりと食事を楽しみます。

食べるのがもったいないほどでした。
どれも美味しくて、綺麗で、丹精込められたお料理の数々は、これまで私が食べてきたどの食事よりも美味しかった。

そして2部仕立てだと女将さんがおっしゃられたように、それらの皿があらかたなくなる頃。
次に運ばれてきたのは、湯気のたつ温かいお皿たちでした。

出汁の効いた温かいお椀、蒸し物、焼き物。
ほかほかと真っ白に輝くお米。
旦那のだけちょっと大盛りにされていたのは、きっと女将さんの心遣いなのでしょう。

お腹がくちくなるほど食べて、ふたりでゆっくりお酒を味わって話して笑って。
とても特別な夜でした。

そうしてデザートが運ばれてくると同時に。
女将さんと店のご主人が改めて挨拶にいらしてくれました。

「お楽しみいただけましたか?」
「とても。とても美味しかったです。本当にありがとうございます」
「それはよかった」
ご主人と女将さんは顔を見合わせて笑顔を浮かべていました。

「旦那が無理を言ったようで、申し訳ありません」
「とんでもない!どんな方にも美味しいお食事を楽しんでいただくのが、私たちの仕事ですから」
女将さんは旦那から予約の電話を受けた時のことを話してくれました。

自分はこういう病気を患っているのだが、出来るのなら嫁にフルコースを食べさせてあげたい。
嫁の分はそのままで、自分の分だけ一気に出してもらうことは出来ないだろうか、と。

「もちろん、ご主人様の分だけを一度に全てお出しすることは可能です。でもそれでは、“お料理を一緒に楽しむ“ことが出来ないでしょう?」

女将さんは店のご主人と相談したそうです。
旦那の分だけ一気に出すのがまずいなら、先にご飯を出してしまうのはどうか。
でも冷たいものから温かいものに向かっていく会席料理では、ただご飯を先に出すだけでは、冷たいものでご飯を食べることになる。
それはあまりにもかわいそうだと。

「ならば冷たいものと温かいもの、思いきってわけてしまえばいいんじゃないかってね、気づいたんですよ」
一品ずつのフルコースが無理ならば、冷たいものは冷たいものとして、温かいものは温かいものとして。
2回にわけてしまえばいい。

冷たいものの中に寿司や蕎麦などの炭水化物を多めに混ぜておけば低血糖も防げるし、あとは皿の置き方と中身を工夫すれば、ちょっとしたコースとして楽しんでもらえるんじゃないか。

「今日のこのお料理は、おふたりのためだけに作らせてもらいました。私もとても勉強になりましたし、料理人としての矜持も保てました」
「いつでもまたお越しくださいね。季節ごとに変わるお料理を楽しみに来てください」

泣きました。
こんなに温かい食事があっていいのかと思いました。
私たちは同じ値段を払う客のひとりです。
そして年齢も若く、言ってしまえばこんな高級店にそぐわないような人間です。
なのに、たったひとりの客の希望を叶えるためだけに、しなくてもいい努力をしてくれる人がいる。

「いくつか電話したんだけど、ここだけだったんだ、ちゃんと相談にのってくれたの(´・ω・`)」

このお店は、何度も言うように地元では有名な名店です。
私たち2人が客として訪れなくても、きっとひっきりなしに予約の電話が入るでしょう。
客を選んでもいいんです。
旦那の予約を断ったいくつかのお店と同じように、すげなく“出来ません“と言ったっていいのに。

私の夢を叶えてくれたばかりか、こうして若輩者にもきちんと挨拶に来てくれる。
名店と言われる所以が、理解出来た気がしました。

とても高いお店なので、正直季節ごとに食べに行くとかはちょっと難しいです。
でも私たちはなにかお祝いごとがあると、絶対にこのお店を利用するようになりました。

そしてその時は必ず。
2部仕立てのコース料理が出てきます。
冷たいものは冷たいまま。
温かいものは温かいまま。
どれから箸をつけてもいいように、テーブルの端から端まで埋め尽くされたお料理が。

「嫁楽しかった?(*´ω`*)」
そうして食事に行くと、旦那は必ず私にこう訊いてきます。
「楽しかったよ」と答えると、とても嬉しそうに笑うのです。

サプライズが大嫌いな旦那が、唯一してくれたサプライズ。
とても素敵な女将さんと、料理人のお手本のような寡黙なご主人。
2人は今も、私たちを暖かく迎えてくれます。

これだから、人は捨てたもんじゃないと思えるのです。

これは私が、1度諦めた夢を旦那に叶えてもらったお話。
そして、素敵なお店と一生ものの縁を繋いだお話です。

もしもサポートをいただけたら。 旦那(´・ω・`)のおかず🍖が1品増えるか、母(。・ω・。)のおやつ🍫がひとつ増えるか、嫁( ゚д゚)のプリン🍮が冷蔵庫に1個増えます。たぶん。