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Day2, 3, 4: 世界の"warehouse"

 さて、小屋とやらに興味を持ってしまった私は、まず世の中にはどんな小屋があるのか調べてみることにした。小屋は大辞泉によると「雑物や家畜を入れておく簡単な建物」という意味がある。これを少し拡大解釈すると、「蔵」や「倉庫」もこの類になりそうだ。とにかく中に何かを収納するために使われる建物に私は興味があるらしい。であれば、英語の"warehouse"がしっくりきそうだ。これはものを保管するための建築物一般をさす言葉である。

 この定義で考えると日本の伝統的な蔵はもちろん、Amazon社の持つ商品保管庫や、カーギルの穀物エレベーター、スコッチウイスキーの貯蔵庫など、古いものから現代的なものまで世界中の様々な建築物が思い浮かぶ。ああ、興奮が止まらない!

 平日の夜更かしは社会人には障るので、今日のところは気になった"warehouse"達を三つほど挙げて終わるとしよう。

日本:宮城県村田町の蔵


 初めに思い浮かんだのは私の居住地、仙台からほど近い村田町の蔵である。山形と仙台を結ぶ街道の分岐点にあるこの町は、江戸時代には商都として栄華を極めたそうだ。村田の商人は紅花や藍を仙南地方(宮城県南部)で買い集め、江戸や上方でそれを売りさばき、さらには売った金で様々なものを買い付けては村田に持ち帰り、また町で商売をしていた。行っても帰っても物品を扱う「のこぎり商売」をする彼等には蔵が必須であった。そんな村田町は今でも蔵の町並みが残っており、「みちのく宮城の小京都」とも呼ばれる。

村田町の蔵 (Photo credit: Trishit Banerjee)

 江戸時代には栄華を極めた一方で、日本の数多くの地方と同じく近年は深刻な過疎化問題を抱えており、人口減少の影響は蔵の守手や担い手不足という観点で表面化している。また、村田町はつい先月(23年6月末)まで「財政非常事態宣言」を発令していた町である。日本はこういった歴史的建造物を何でも文化財に登録しがちだが、国の重要文化財などに登録されるとそれを保存する「義務」が発生し、次の世代がおらず目立った産業もない町では寧ろ重荷にもなりかねない。


ノルウェー:Svalbard Global Seed Vault (スヴァールバル世界種子貯蔵庫)


 
お次はノルウェー領スヴァ―ルバル諸島、スピッツベルゲン島にある種子貯蔵庫をご紹介しよう。こちらは大規模な気候変動や自然災害、核戦争による農作物の絶滅を防ぐために世界中の植物の種子を保存する目的で建造された「種子銀行」である。

赤矢印で示された場所が貯蔵庫の所在地。島の西部に見える白い大きな島がグリーンランド島。東にロシア、南には北欧三国(とバルト三国の一部)が見える。

 2008年に運用が開始され、これまでに世界から100万種以上の種子が持ち込まれているいわば「現代版ノアの箱舟」である本貯蔵庫の内部は常に氷点下18-20℃に保たれ、冷却装置が故障した場合ですら氷点下4℃を保つことができるそうだ。

Svalbard Global Seed Vaultの入り口。 国際機関 Global Crop Diversity Trustが管理を行う。

 地球温暖化に対応できるよう北極圏に建造された本貯蔵庫であるが、温暖化が当初予想していたものよりも深刻であったために早くも貯蔵庫の強度に問題が生じており、現在急ピッチで補強が進められているそうだ。極圏に近づくほど温暖化の影響が如実に現れることは地理の世界では有名な話であるが…、我々の生活がノアの箱舟さえも沈めかねないのである。

スコットランド:Glen Ord Distillery (グレンオード蒸留所)

 最後に、スコッチウイスキーの醸造所をご紹介しよう。こちらは日本語の情報がほとんどないが、公式サイトや英語の各種文献によると1838年にスコットランドのScottish Highlands(ハイランド地方)に位置する Ross-shireという場所で創業した蒸留所だそうだ。

グレートブリテン島の北端「ハイランド」に蒸留所はある。


蒸留所を上からみた図。やっぱりGoogle Earthは神。そもそもGoogleの設立経緯が神。


 スコッチウイスキーの起源は定かではないものの、15世紀の文献にも記載があるようで、そう考えれば600年以上の歴史があることは間違いない。とはいえスコッチウイスキーは常に歴史の表舞台にあったわけではなく、寧ろ長い暗黒時代を経験している。特に17-19世紀ころにスコットランド政府が行ったウイスキーの製造に対する課税はウイスキー製造者を大いに苦しめ、課税を逃れるためにウイスキーは150年ほど秘密裏に作られていた。一説によると1820年代にスコットランドで飲まれていたウイスキーの半分以上は密造酒だったそうだ。

密造酒を運ぶ様子 (Picture credit: scotchwhisky.com)


 これらの密造酒はGlen Oldの公式サイトによれば当時本蒸留所に隠され、時には教会の牧師でさえも暗号を用いて秘密裏にやり取りをしていたそう。(参考:https://www.malts.com/en-row/whisky-insider/whisky-history)

 辛い時代を乗り越えていまや世界にその名を轟かせるスコッチウイスキーの庫の中はどんな香りがするのだろう。

Glen Ord のウイスキー貯蔵庫

 VRツアー動画があったのでリンクを貼っておこう。


まとめ

 少し調べただけでも、世界には様々な'warehouse'があることがお分かりいただけたと思う。それぞれに興味深い文化や歴史、考えるべき社会課題がある。それなのに、これらのwarehouseはほとんど情報がまとめられていないのだ!なんと勿体ない。

ふと思った。

もしまだ世界にwarehouseに関する情報に特化したメディアがないのならば、自分でつくってしまえばいいではないか。需要?あるかも知れないし、ないかも知れない。でも、仮になくたってそういうコミュニティをつくってしまえばいい。だって、世界中の倉庫の扉を開けて中を見るなんて、宝探しみたいで面白いじゃないか。多分、知らないものを知ろうと箱を開けるのは、人間のサガである。

私はなんだかワクワクしてきた。


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