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その空へ 8

ふたつ年上の彼は
とても同じお腹から生まれてきたとは
思えない存在でした。

何か特別な仕草とか台詞とか
顔が飛び抜けてイケメンとか
そういった物を武器にしているわけでもなく、何故かまわりの人に好かれていた。

自営業の長男という その立ち位置は
彼をおおらかに育てたのかもしれない。
極度の人見知りで 人と目が合うことを避ける私には 
なにをしても人の注意をひく
屈託のない彼の性格は
「憧れ」でもありました。

時には ひまつぶしに
一人遊びを黙々と遂行している
私の世界に土足で入り込み
荒らして去っていく
(大っ嫌いだ)
と幼い憎悪に煙が立つ。

それでも、彼は私にとっての
「遊びの師匠」でした。

忙しい自営業の両親
家族旅行など一度も行ったことがない。
ひたすら 両親は働いていた。
自営業と百姓。
思えば 母はよくそれだけ働いていたものだと思う。
私のことなど「観ている」ひまなど
なかったと理解できる。

「遊びの師匠」は
グローブをはめた「手」の使い方
球がどうきたら どうグローブを出すか? 体はどの角度をむくのか?
逆上がりをするときの足の蹴りかた
手の位置。
トランプ ボードゲーム
将棋 ・・・そして
自転車に乗れるようにしてくれたのも
夕方まで 毎日自転車と膨れっ面の私を引っ張り出した 彼のおかげでした。
私の名前を呼び
「こげこげ!」
転ぶのが怖い私もだんだん
ヤケクソです。
何日目か
後ろで荷台に手を添えてるはずの
師匠が私の横に走ってきた

「今捕まえてないぞ❗走っとるぞ❗」と楽しそうに叫んだ

周りの同級生より遅れて乗れるようになった記念すべき瞬間。

彼は ずーっと周りとはちょっと
違うことをしながら 大人になりました。
中学に入れば 黒カバンの中に
一人だけ白の横かけカバン。
頭はいつも坊主。
晴れてるのに長靴。
そんなとこが みんなのあたたかい
心で更に 更に 人がいいだけの
何を発しても人を笑顔にするような
おじさんになりました。

まさか、まだ何十年か生きれるはずの年で
あなたがこの世を締まって逝くとは
思いもよりませんでした。

大人になってからは
そんなに話す事もなく
まだまだ 話なんていつでもできるもんだと疑ってなかった。

お酒を飲むと すぐにろれつがまわらず 周りの人を笑わせたよね。
しまいには酒に飲まれて
無惨な姿だったけど。
みんな あなたのことが大好きでいてくれましたね。

私の子育ては「師匠」のおかげで
私が教わったこと
全部出しきって育てましたよ。
家族の中で 私をよく傷つけたのも
見ていてくれたのも
結局 あなたでした

ありがとうね
ちょっと遅いけど

感謝してるよ

おにいちゃん

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