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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第19回配信 スーパースターとの共演!

「ねえ、ユメオ」

「なに?」

「今回の視聴者数、過去最高だったよ」

「ホント?」

「120人観てくれてた。それに、チャンネル登録者数も、倍の10人になったわ」

「えっ、10人?」

 僕はエリスのベッドで、ガッツポーズをした。

「やったー。やっと手応えを感じたよ。長嶋監督や新庄選手が出てきたのが良かったのかな?」

「野球だったら、みんな見方がわかってるから楽しめたんじゃない? 豆腐の国で炎の料理人とバトルされても、どうやって楽しんだらいいのかよくわからなかったから」

「豆腐の国の話はよしてくれ。あれは僕の黒歴史だ」

 そう言って渋い顔をすると、エリスがクスッと笑った。

 僕はズキュンとなった。

(エリス、やっぱり僕のことが好きなんだな。あの笑い方は絶対そうだ)

 僕は嬉しくて、一気に告白したい気持ちになったが、グッとこらえた。

(まだだ、ユメオ。チャンネル登録者数10人で、有頂天になってはいけない。せめて100人になるまでは頑張ろう。告白なんかはそれからだ)

「よし。明日からしばらく、プロ野球路線でいってみるよ。スタートからじゃなくて、セーブから続ければいいよね?」

「モードは鬼畜のままでいい?」

「うん。180キロの豪速球は確かに怖いけど、いつか必ず打ってやる。だけど、1つ気になることがあるんだ」

「なに?」

「前にエリスのお母さんが出たとき、顔がアイドルになったじゃん。そしたらすぐに、モザイクがかかったよね?」

「配信する場合は、肖像権の問題があるからって、パパがそういう設定にしたのよね」

「でもさっき、実在のプロ野球選手がバンバン出てきたけど、モザイクにならなかったよ」

「あ、そっか。ということは、プロ野球選手には肖像権がないのかな?」

「まさか」

「でもさ、みんなどこか、顔がちがってたよ。そっくりだけど、別人っていうか」

「え? 長嶋監督は、長嶋監督だったろ?」

「私にはちがう感じに見えた。本物じゃなくって、モノマネのそっくりさんみたいな」

「お父さんが、そういうふうになるように、またゲームを改良したのかな?」

「かもしれないけど、そもそも転ゲーの世界って、AIがプレイヤーの脳内の情報を読みとって作るんだよね。だから長嶋監督は、あくまでもユメオの頭の中にある長嶋監督であって、本物とはどこかがちがってくるんじゃない?」

「だったらアイドルのときは、どうしてモザイクがかかったの?」

「それはたぶん、ユメオがアイドルを完コピできるほど正確に記憶していたからでしょ」

 エリスがそう言って、僕のおでこを叩いた。

 僕はおでこに手をやり、エリスの柔らかい手が触った感触を、いつまでも楽しんでいた。

 * * * * *

 エリスの推理は当たっていた。

 あとからエリスのお父さんに聞いたら、やはりあの長嶋監督は、本物とはちがっていたそうだ。だからギリセーフだろうと。

 もし本物の有名人との一致率が80パーセントを超えたら、モザイクがかかる設定にしてあるとのこと。ということは、僕の記憶しているプロ野球選手は、ざっくり2割はちがっているということだ。人間の記憶など、案外アテにならないことの証拠だろう(僕だけかもしれないけど)。

 それはさておき。

 その翌日にスマホを見て、おおっと声をあげるほど嬉しいことがあった。

 昨日のライブ配信のアーカイブ動画に、5件もコメントが入ったのだ!

 これまで通算で1件のコメントしかなかったから、大躍進である。これでますます、プロ野球路線を突き進もうという決意が強まった。

 コメントは以下のとおり。

♢ぐーぐー:生きているノムさんの囁きが聴けて、感動しました。またノムさんが観たいです。

♠︎仮面人:次はぜひ、大谷選手を出してください。

♣︎風雲降り龍:キヨがちょい役じゃもったいない。今度は桑田も復活させて、KK対決の再現だ!

♡糸車:清原さんのファンです。イチロー選手とのホームラン競争をリクエストします。

♣︎顔しゃもじ:二岡選手と山本モナの対決が観たいです!

「最後のコメントだけ意味不明だけど、清原選手の人気が高いことが良くわかった。だから今度は、清原選手をメインで登場させようと思う」

 僕はエリスにそう言って、再び転ゲーで、超リアルなプロ野球の世界を楽しむことにした。

 それでは前日のセーブデータから、ゲームスタート!

 * * * * *

「ワッショイ、ワッショイ」

 僕は胴上げされていた。

「もういいよ。なんか照れくさい」

 宙に浮きながらそう言ったら、プロ野球オールスターズが胴上げをやめて、僕をグラウンドに降ろした。

 急いで彼らの中から、番長清原を探す。

 すると、いた。チームのサヨナラ勝ちに真っ白な歯を見せて笑いながら、隣の元木選手を殴っていた。

「キヨさん!」

 思い切って声をかけた。清原選手ほどの大物ともなると、たとえゲームの中であっても、緊張するものだ。

「なんや。ユメオも元木をシバきたいんか?」

 僕は清原選手をじっと見た。僕の目には、100パーセント清原である。しかしモザイクがかからないところを見ると、一致率は8割以下ということなる。いったい2割もどこがちがうんだろう?

 と、全体を眺めたときに、本物とのちがいに気づいた。

 筋肉がありすぎるのである。

 野球選手としては、ありえない身体つきをしていた。まるでムキムキマンである。こんなにムキムキだったら、筋肉がジャマをしてろくにバットを振れないだろう。プロレスをやったほうがいい。だからこのニセ清原は、8割が野球選手で、2割がプロレスラーなのだ。

「用ないんやったら、ワイは行くで」

「あ、待ってください。ぜひ僕に、180キロを打つ秘訣を教えてください」

「ワイに訊かんと、落合さんに訊いたらどうや?」

「清原さんがいいのです」

「そうか。それならロッカールームに来いや」

 8割以下の清原が、ぐいっと僕の肩を抱いて囁いた。

「いいクスリがあるんや。ユメオにも分けてやるで」


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第18回配信 めざせ三冠王

第20回配信 禁断のクスリ


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