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体験記 〜摂食障害の果てに〜⑥

病院の食事

 翌日の朝ご飯は、ロールパンでした。それは保育園の子供が食べるほど小さくて、しかも一個だけでした。おかゆなら、お茶碗にどっさり出るのに、何故パンはこんなに小さいのだろう、パンは損だな、と思いました。
 私はおかゆと梅干しが欲しくて、それ以外は全く食べたくありませんでした。食事を運んで来た男の看護師さんに、
「おかゆを下さい。」
 と、頼みました。すると、
「これしかない。」
 と、言われ、パンの袋を破るなり、口に突っ込まれました。自分が同じようにされてみたら、どんなに嫌な気分になるかわかるだろう、と思いました。他人事だから、仕事でやっているだけだから、わからないのです。一口飲み込んだものの、気分が悪くなり、
「もう要りません。」
 と、顔を横に向けました。おかずもありましたが、一口も食べず、下げてもらいました。
 昼は、おむすびでした。おかゆでなかったので、又ガッカリしました。「おかゆにして下さい。」と、頼んでも、「これしかない。」と、口元に突きつけられました。食べなければ、体力が落ちて苦しいのは自分です。何故、おかゆにしてもらえないのだろう、と、辛くてたまりませんでした。仕方なく一口かじりました。塩気の全くない、ただの白飯を握っただけのおむすびでした。母の握ってくれたおむすびが、どんなに美味しかったか。思い出して、辛くなりました。あんなに拒否して来た自分の過去を罰当たりだ、と思いました。食べる気が失せて、食事を下げてもらいました。お腹は空いているはずなのに、少しも食べたくありませんでした。夜はおかゆだったかもしれません。でも、記憶がないのです。
 入院するより家にいた方がマシな気がしました。食事もせず、どんどん体力が落ちていくようでした。家では母がおかゆを炊いて、おかか梅干しを出してくれました。何時でも、時間なんて関係なく、私の吐き気がおさまった時に部屋まで運んできてくれました。母の愛情に勝るものなどありません。
 できるなら、レトルトパックのおかゆがナースステーションに常備されていて、いつでも使えたらいいのにな、と考えました。そうすれば、入院した時刻が、食事時間を過ぎていても対応できます。もちろん、ナースステーションは食堂ではないし、食事の時間外に食事させるのは、看護師さんの負担が過ぎるかもしれません。看護師さんの人数が少ない場合には尚のことです。看護師さんのお仕事は、受け持ちの患者のおむつの交換、薬、食事介助、点滴注射等、目の回る忙しさなのです。ですが、患者の体力維持に、食事は必要です。点滴は単なる栄養剤です。口からの摂取が一番です。
 それから、食事に梅干しがないのも残念でした。塩分が高いせいでしょう。けれど、病気の時には一番ピッタリの食べ物です。塩分の低い梅干しもあります。練り梅でも構いません。患者の希望で食事に加えてもらえると、とても助かります。

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