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映画『ダンサー イン Paris』 ※ネタバレ注意

フランス・ベルギー合作の映画『ダンサー イン Paris』を観ました。以下、ネタばれありです。

主人公は、世界でも指折りの名門バレエ団、パリのオペラ座バレエの有望な若手ダンサー、エリーズ。
バレエ団内に5つある階層の上から2番目に属しているエリーズは、最高位のエトワールを目指し、幼いころからずっとバレエ一筋に研鑽してきた。
ある日彼女は、『ラ・バヤデール』でヒロインを務める舞台に上がる直前、ダンサー仲間である恋人の裏切りを目にしてしまい、動揺から跳躍の着地に失敗。足首に重度の捻挫を負ってしまう。医師に、バレエを断念しなければならない可能性まで示唆され、大きなショックを受けたエリーズは、途方に暮れる。
友人に誘われた料理アシスタントのバイトで、ブルターニュにある芸術家の為のレジデンスに泊まり込むことになった彼女は、クラシック・バレエとは全く異なるコンテンポラリー・ダンスに出会う。体の動かし方を始め、人間関係の距離感から自分との向き合い方まで、新しい世界を知るにつれ、次第に生き生きとした活力を取り戻す。
バイト先の「人生の大先輩」からの含蓄あるアドバイスにも背中を押され、一人の女性として、愛情表現に不器用な父親の娘として、コンテンポラリーのダンサーとして再生していく彼女に、周囲も笑顔が増えていく…

先行の類似作品が多数あり、ありきたりとさえ言える「挫折と再生の物語」を、ダンス半分、セリフ半分位の配分で綴り、多様な音楽と随所に仕込んだウィットに富む味付けで彩っています。奇をてらったり大仰な演出はせず、エリーズの日常に寄り添って淡々と描いていく手法に好感を抱きました。
エリーズのバイトが料理アシスタントということで、色鮮やかな食材が様々に登場するのも、絵面のアクセントになっていて効果的です。

何より、冒頭のバレエのシークエンス、最終盤のコンテンポラリーの舞台が正に圧巻。他にも全編に散りばめられたダンスがどれも実に美しく躍動的で見応え十分でした。身体の動きそのものも、ダンサーの表情も、とても雄弁なのです。
中でも、ブルターニュのレジデンスで、エリーズが元同僚と即興で披露するクラシック・バレエが、踊る喜びとバレエの美質に溢れていて素敵でした。

役者陣については、エリーズ役のマリオン・バルボーの起用に尽きます。
彼女はクラシックとコンテンポラリー「二刀流」の本物のバレエダンサー。演技は初めてなのでしょうが、全身を使って表現する姿がとっても魅力的。スタイルの良さ、特に鍛え上げられた脚の美しさとしなやかさには見とれずにいられません。
また理学療法士ヤン役のフランソワ・シビルが美味しい役どころを楽しんで演じている雰囲気と、レジデンスの経営者を「人生の大先輩」らしく包容力たっぷりに魅せたミュリエル・ロバンとが、強く印象に残りました。

「弱さは新たなスーパーパワー」
「いい場所で転んだから高いところに登れる」
「(怪我をする)前は完全だったの?」

などなど…
割と順風満帆に前半生を送った私には、刺さるセリフがいろいろと。
また、空中高く舞おうとするクラシック・バレエと、大地を踏みしめて踊るコンテンポラリー・ダンス、というような表現をしたセリフがあり、バレエと日本舞踊の対比にも似ているなと興味深く観ていました。

意外性はありませんが、気分良く楽しめる映画でした。
道に迷っている人や、これまで迷ってきた人におススメです♪


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