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歌人・馬場あき子の真髄に触れる映画

映画『歌人 馬場あき子の日々 幾春かけて老いゆかん』を新宿で鑑賞。
馬場あき子さんは、現代日本を代表する歌人の一人で、すっと伸びた背筋と歯切れのよい発言が後進に大いに勇気や気づきを与えている存在だといえるでしょう。1928年生まれでバリバリ現役の彼女の93歳から94歳までの一年を追ったドキュメンタリー作品です。

映画のチラシ

主宰する短歌結社「かりん」の活動を始め、長らく選者を務める朝日歌壇他の選歌、愛してやまない能や趣味の昆虫に関する活動などなど、コロナ禍にあっても精力的に日々を過ごしておられる日常に密着した一年。取材チームや知人友人、結社の同人との会話が実に生き生きとしていて、なんて魅力的な女性だろうと、すっかり引き込まれました。
第2次世界大戦時の勤労動員、戦後の新たな教育システム下での教員生活、新旧の安保闘争との関わりなど、様々な局面を体験してこられた方ならではの強靭な精神力が言葉の端々に滲みます。
能に造詣の深いことからの連想で、白洲正子さんもこんな感じの人だったのかもなあと思いを巡らせたりも。

「歌を詠み能を愛して八十余年
 強くて明晰でしかもチャーミング
 こんな風に生きられたなら」

チラシや映画公式サイトに載せられたこの謳い文句が、まさにこの作品の肝そのものです。

映画の中では、朝日歌壇の選歌作業の様子が特に興味深かったです。コロナのためご自宅で作業されており、驚くようなスピードでめくっていって、2000枚以上寄せられたはがきを25枚程度に絞り、さらに投稿者の性別などにも配慮しながら10枚選歌する様子に、こんな風にポイントを押さえた作業をできないと追いつかないのだなあと感じ入りました。
(なお、選者4人が朝日新聞社の社内にて対面で選歌する際にも、和やかに雑談しつつも、選ぶ歌については言葉を交わすことなく進め、紙面に載った時に初めて、誰がどの歌を選んだかを知るのだとか!)

語りを担当した國村隼の、渋くて、ほんのり色気を感じさせ、「先生」へのリスペクトもある声音がまた、この作品にぴったり。馬場さんと國村さん、お二人の人間力の相乗効果で、通り一遍な人物伝に留まらない、とても奥の深い映画になっていました。

映画に何首も素敵な歌が登場するので、パンフレットを買って再度味わおうと楽しみにしていたのですが、残念ながらパンフレットは無いようでした。

最後に、本作のタイトルの元になった馬場あき子作品を引用しておきます。

さくら花 幾春かけて 老いゆかん
     身に水流の音 ひびくなり

個人的なちょっとした記憶から、桜にひと際思い入れの深い私にとっては、とても印象に残る一首となりました。

映画鑑賞後は、伊勢丹レストラン街の「西櫻亭」にて正統派の洋食ランチ。
メインはもちろん、添えられた副菜も、パンにつくバターも全てが上質で、とても美味しくいただきました。特に人参グラッセの豊潤な旨味ときたら、感動モノでした!

平和の有難さをつくづく感じる一日…


追記
馬場さんの作品をネットで探してみたら、こんな作品がありました。

まずこちら。2019年の新春詠だそうです。

シーラカンスの憤怒することもあらざるや
         スマホに飼ひて折々に見る

そしてこちら。

迷いなき生などはなし
   わがまなこ衰うる日の声凜とせよ


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