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夏目漱石「行人」考察

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夏目漱石「行人」考察です。「行人」はスパイファミリーである?
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2024年5月の記事一覧

夏目漱石「行人」考察(18) 二郎の「卑怯」ポエムはごまかし?

「行人」において、一郎が妙にポエムを連発し、それが二郎の言葉によって「それ要はモテない苦しみだよね」と暗に示されていることを指摘してきた。

しかしその二郎も、一郎よりも前にこれまたずいぶん大袈裟なポエムをつぶやいている。
まだ一郎が物語に登場するよりも前の段階、序盤で三沢の入院中、他の室で入院中の「あの女」と、その担当の「美しい看護婦」をめぐる二郎の一人語り。

 自分の「あの女」に対する興味は

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夏目漱石「行人」考察(17)一郎は直が誰かに「惚れて」いてほしかった

夏目漱石「行人」考察(17)一郎は直が誰かに「惚れて」いてほしかった

1、ひたすら大袈裟なポエムを語り続ける一郎
何度か、「行人」における一郎の二郎に対する、「メレジスという人のー」「パオロとフランチェスカのー」との問い掛けが、明らかにずれたものであることをふれてきた。

しかし、ではなぜそんなずれた問い掛けを一郎は弟相手に繰り返しているのか?

私の思う答えは、「自分が直に、『単に好かれていないだけ』という事実を、認めたくなかった」
これだと。

「直は御前に惚て

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夏目漱石「行人」考察(16) 一郎は何故ずれた問い掛けを繰り返すのか?

1、明らかに間違った認識を振りかざす一郎
夏目漱石「行人」に描写された一郎の苦悩が、妙に大袈裟であり、この苦悩は一言でいえば
「(直やお貞に)モテないよ」
であると私は解釈している。

上記の記事ではふれなかったが、「パオロとフランチェスカと三勝半七」の話も、やはり不自然に大袈裟である。

「二郎、何故肝心な夫の名を世間が忘れてパオロとフランチェスカだけ覚えているのか。その訳を知ってるか。」
 自

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夏目漱石「行人」考察(15) 償う事もできない態度?

夏目漱石「行人」考察(15) 償う事もできない態度?

1、そこまで酷い態度か?

自分はこの時の自分の心理状態を解剖して、今から顧みると、兄に調戯うという程でもないが、多少彼を焦らす気味でいたのは慥かであると自白せざるを得ない。尤も自分が何故それ程兄に対して大胆になり得たかは、我ながら解らない。恐らく嫂の態度が知らぬ間に自分に乗り移っていたものだろう。自分は今になって、取り返す事も償う事も出来ないこの態度を深く懺悔したいと思う。

(「兄」四十二)

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夏目漱石「行人」考察(14) 二郎は「信用できない語り手」か?

1、「行人」は長野二郎の連載手記
何度かふれているが、夏目漱石の大正元年(1912年)連載の小説「行人」は、登場人物である長野二郎が、語り手として話を進行させている。

しかしリアルタイムでの二郎の内心ではなく、事が終わってから一定以上の期間が経過した後(おそらく数年以上後)においての、二郎の回想である。
かつ、単なる内心での回想ではなく、二郎が第三者に対して、一連の出来事を公開した形式である。

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夏目漱石「行人」考察(13) お兼は今も佐野と関係している?

夏目漱石「行人」考察(13) お兼は今も佐野と関係している?

1、佐野の結婚式にあえて? ついてこないお兼
「行人」後半で佐野とお貞との結婚式が行われる(「兄」三十三~三十六)。

(しかし、何故長野家が式を執り行っていて、お貞や佐野の身内は一切出てこないのか?? またどこかでふれたい)

この挙式に、大阪から岡田のみが来て、お兼はついてこない。
これについての二郎と岡田との会話

「岡田さんは実に呑気だね」と云った。
「何故です」
 彼は自ら媒酌人をもって

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夏目漱石「行人」考察(12) お兼は何を「兼ねて」いるのか?

夏目漱石「行人」考察(12) お兼は何を「兼ねて」いるのか?

1、「お兼」― なにを兼ねているのか
「行人」の登場人物はみな、下の名が意味ありげである。

・「一郎」・「二郎」  ― 露骨に長男二男性を表している

・「直」  ― 直情的な感じ。「妾御世辞は大嫌いよ」(「兄」三十一)、「大抵の男は意気地なしね、いざとなると」(「兄」三十七)など

(※ 著作権切れにより引用自由です。)

・「お重」  ― 性格が重たそう(「この夫婦関係がどうだの、男女の愛が

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夏目漱石「行人」考察(11) お兼とは何者なのか?A

「行人」序盤で、岡田の妻として登場する女性:お兼。
お兼について語り手である二郎は、なかなか強烈な表現をする。

 ―― お兼さんは岡田に向かって、「あなたこの間から独で御得意なのね。二郎さんだって聞き飽きていらっしゃるわ。そんな事」と云いながら自分を見て「ねえ貴方」と詫まるように附加えた。自分はお兼さんの愛嬌のうちに、何処となく黒人(※くろうと)らしい媚を認めて、急に返事の調子を狂わせた。お兼さ

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