2-7 PMIの極意⑦
~密度を濃くする~
はじめに
クロージング後の本格的なPMI段階に入ると分科会も立ち上がり、これまで以上の関係者を巻き込んで物事を進めることになる。この時に大事なのが、皆で今回のM&Aを成功に導こうとするエネルギーを高め、その後の課題もチームで乗り越える雰囲気を醸成することである。どうしても人によってPMIに向き合う温度感は異なる。それは売却サイドのみならず、買収サイドにおいても同じである。買収サイド側に面従腹背の人がいると一向にプロジェクトが進まない。そういう人たちにも今回の統合に向き合う温度感を共有しておかなければならない。そのためには「3つの一」を意識することが大切である。
「一堂に会する」
クロージング後1か月以内には、関係者を一堂に会して今回のM&Aの目的やPMIの全体像、個々のプロジェクトが持つ意味を共有する場を設けたい。イベントにおける集団の力学を演出することで個々の意識を統合していくことである。私は特にこのイベントを重要視していた。できればオンラインではなくリアルに集まりたい。まずは、トップからのスピーチに始まり、一連のPMIプロジェクトを紹介した後、個々の分科会毎に分かれて両社の自己紹介、分科会毎で実現したいことの言語化してもらった。それを全体で共有してもらうのである。できればその発表者も買収サイドと売却サイドの両方から登壇してもらう方が望ましい。こうすることで連携の全体像、責任者を一気に共有できる。その後は、会食などでお互いの人となりを知り親睦を深めてもらうのである。
「一蓮托生を演出する」
プロジェクトを進めるにあたっては、両者の利害が必ずしも一致するとは限らない。その際に、どちらか一方に偏るような判断に陥らないように、常に目的に立ち返って判断することが大事である。そのためには、私たちは同じ船に乗り共に価値を高めあう存在なのだという一蓮托生の意識を共有しておかなければならない。特に気をつけたいのが「言葉」である。買った、買われたなどの組織を物のように扱う表現には特に注意を払う必要がある。私は「グループ(当社)にジョインする」という言葉を多用した。両社において今回のPMIにおけるNGワードを用意しておくのも良いかもしれない。
「一気呵成に進める」
イベント等で盛り上がった高揚感が高いうちに進めてもらうのである。それぞれの分科会において次のミーティング日程を先延ばしにするのではなく、可能な範囲で期日を短めに設定して、スピーディーに進めてもらうのである。そうすることで、今回のPMIにおける見えなかった課題や求められる判断軸を素早く把握でき、リプランニングしやすくなる。PMIは各分科会が影響を及ぼしあうことも多いので、先延ばしにすることによる手戻りを少なくすることも可能になる。何かをやるときには小出しに実施するのではなく、一気に実施した方がその効果は大きい。どれだけ密度濃くスピーディーに連携の機運を高められるかが成功に向けて重要であると考える。
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