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2-5 PMIの極意⑤

~譲れないものを明確にする~

組織運営は相対解

 M&Aをする上では、譲れない線引きをあらかじめ明確にしておくことが重要である。できればDD段階でこの部分ははっきりと互いに明示しあった方が良い。事業運営においては、今回のM&Aが市場のシェア拡大なのか、新しい領域の進出なのかなどの目的と行動プランが明確になっている。一方で組織運営になると事業運営のテーマと比較して曖昧になりやすい。例えば、ミッションビジョンは変更してもらう、人事ルールは統一させる、採用方針は変えてもらうなどのテーマは、DDフェーズでそれなりに議論されるテーマであるが、明確に約束事として議論されていない場合も多い。事業運営は売上と利益の達成という「絶対的な正解」がある活動だが、組織運営は価値観や信念などの経営哲学が多く入り込みやすいテーマであり、お互いに合意の下で決める「相対的な正解」が必要な活動である。

企業における人格

 売却サイドにおいては、経営の最終意思決定権を買い手サイドにゆだねる前に譲れないものは極力明示しているはずである。特に多いのが雇用の確保や給与水準の維持であろう。既存取引先との安易な契約変更はしばらく避けてほしいなどもあり得る。ただし、私の経験で言うと、売却サイドにおいては事前に明示しきれないこだわりも多く存在していると実感することがある。組織運営はこれまで自分たちが行ってきたことを変える道理は無く、買い手サイドと事前に共有する類のものではないと思っている節もある。しかし、実際に一緒に取り組んでみると、「安易に手を出してはいけない部分」というものがあることを実感する。例えば、語学スクールを買収した際に、事業運営上はほかの資格やスキルトレーニングとクロスセルすることや、拠点の統合などのビジネスメリットを得るシナジーについてはスムーズに取り組めたものの、組織運営、特に人材育成方法についての統合は簡単ではなかった。外国人が多く存在するその会社では半年から一年の長期にわたるリーダーシッププログラムが用意されており、それに一定のコストをかけていた。親会社においてもリーダー育成プログラムが用意されていたのでそれに統合しようと思ったが、私はしばらくその制度を活かすことに決めた。その制度に強いこだわりをもっていたからである。外国人が日本資本の企業で働くうえで、モチベーションを下げる主な要因に“ガラスの天井”がある。結局主要ポジションには日本人が就き、チャンスは与えられないだろうという感覚がモチベーションを下げる。この語学スクール会社は、「うちで働けばポストを含めて市場価値を高める機会をたくさん提供できる」という謳い文句で、優秀な人材を集めており、その象徴的な制度としてこのリーダー育成プログラムがあったのだ。結構コストもかかっていたがこれを安直に廃止すると、優秀な人材の離反につながると考えたため、しばらく制度を残しながら、本社のリーダー育成プログラムを並行させていった。

 企業も人格をもっている。その人格が何を重要視しているのか、というポイントについては徹底的に話し合うべきである。特に統合初期の段階では超えてはいけない一線というものが存在すると考えている。この強みを活かしつつどのように新たな展開を模索するかを考えていく必要がある。この譲れない線を無視して、新たなスタイルを安直に取り入れようとすることは間違いなくモチベーション低下につながる。

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