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1-4 PMIの最初の一手

両社の関係性

 PMIにおいては、両社の関係性構築が大事であることに異論は無いと思うが、関係性を構築するにあたっては、統合における前提条件の違いによって初期段階で重要視するポイントが変わってくる。具体的には、売却サイドの経営執行陣と買収サイドとの友好度合い及び、両社の事業連携度合いによってそのポイントが分類される。まずは首脳陣の友好度合いについてであるが、TOBによる敵対的買収等でない限り、一般的には売却サイドと買収サイドは友好的に契約を結ぶのが前提である。しかしながら、売却サイドにおけるガバナンスによってはその色合いは少し異なってくる。例えば株主と経営陣が明確に分かれている時、株主は利益確定のために株を売却するものの、経営陣はその売却には内心反対であったという場合がある。売却サイドの経営陣から見れば「自分たちは売られた」という反発からのスタートとなる。ほかにも、売却サイドにおいて過半数以上の株を持っている社長とその他幹部陣がM&A以前から仲が悪かった場合には、社長の会社売却という判断に反発していることもある。それ以外にも、売却サイドの気が進まないながらも、事情を理解してM&Aを受け入れたが、買収サイドの最初の入り方が悪かったために、反発を招いてしまったなどの状況も考えられる。次に、連携度合いにおいてである。買収サイドのコア事業をさらに強化するための買収など、買収後シナジーを出すスピーディーな連携もM&Aもあれば、買収サイドの多角展開を目的とするなど、将来を見越した事業展開においては、買収後すぐにシナジーを出せるような連携要素が少ない場合も多い。この友好度合いと連携度合いによって初期段階において注力するべきポイントが変わってくる。

4つの着手ポイント

 まずは、首脳陣が好意的で、連携要素が多い場合である。この場合は、事業展開において共通目的も描きやすく、阻害する関係性などの障壁も少ない。意識するべきは良好な関係性をベースに一気呵成にシナジーを推し進める「事業創り」に注力することである。顧客連携やサービス連携、購買連携など様々なビジネスプロセス上の連携にスピーディーに着手することである。既成事実を多く積み重ねることで文化統合に向けた地合いも整ってくるであろう。
 次に、首脳陣が反意的で連携要素が多い場合である。この場合は、事業上の共通目的は描きやすいものの、売却サイドの首脳陣による関係性障壁が大きい。強引に進めても反発が強く、頓挫してしまう可能性もある。この場合は、まずは信頼関係を構築するため、一般的にクイックヒットと呼ばれるお互いにとってメリットがある事例を積み重さねる「事例創り」が重要である。あまり多くのことを一気に広めるのではなく、コスト削減やコア顧客へのクロスセルなど結果が出やすい領域に絞って展開することが望ましい。そのプロセスにおいて、両サイドが一緒に成功体験を共有することで信頼関係の地合いを高められるようになる。
 次に、首脳陣は好意的であるが連携要素が少ない場合である。M&A時に描いた連携ビジョンはあるものの、社員の中には当該M&Aに疑問符を感じていたり、成功の蓋然性に対する不安を抱えていることも多い。この場合は、両社のアセットを通じてどのような価値を提供していくのか、もしくは買収サイドが描いているビジョンに、売却サイドのアセットがどのように活かせるのかなどのディスカッションを重ねて共通の目的を描き浸透させていく「意味創り」が重要である。両社の距離が近いうちに合宿などを通じて腹を割った議論を交わし、共に創り上げていくプロセスを教諭することがポイントである。
 最後に、首脳陣が反意的であり、連携要素が少ない場合である。「なんで自分たちが?」「なんであの会社に?」などの被害者意識を持ちつつPMIを進めていかなければならない。こういう時はとにかく個別に信頼関係を作っていくことである。会食などを通じて、胸襟を開いた本音での対話を積み重ね、まずは人間同士としての「関係創り」が重要である。そもそも事業連携の要素も多くないのでスピードを急いでも良いことは少ない。時間をかけて信頼関係を構築し、その後「意味創り」フェーズの議論を重ねると良い。

まとめ

 PMIプロセスは、事業という機能が有機的につながっていくプロセスと、組織という人間が友好的につながっていくプロセスの両輪を同時に回していかなければ脱線してしまう。脱線しないように、初期段階での車輪の状態を見極めて調整しながら運航していく事が大切なのである。

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