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6-1 モテない売り手企業①

モテない会社

よくM&AやPMIは会社同士の結婚のように例えられる。恋愛や結婚に、モテる男女がいるように、M&AやPMIでもモテる買い手企業と売り手企業が存在する。両社でしっかりと話し合って、未来を共にすることへの合意がM&Aであり、契約後にはお互いの価値観をすり合わせ、さまざま起こる変化に協力しながら活動するのがPMIである。M&A活動とPMI活動ではそれぞれでモテる条件が少し違ってくる。資本契約の合意であるM&A活動の段階でモテる買い手企業は、しっかりとした事業基盤があり、ちゃんと売り手企業の要望を満たし、高い金額で買ってくれる企業である。モテる売り手企業は、価値のある資産を持っており、わがままをあまり言わず、そこまで高い金額を要求してこない企業である。簡単に言えば、良いルックスで、性格が良くて、お金払いがよいorお金がかからない企業である。契約合意後のPMI活動の段階になる少し状況が変わってくる。どんなに相性が良いと思って結婚しても、結婚後に生活態度や金銭感覚や将来展望のズレが分かり、離婚という残念な結果におわってしまうこともあるように、PMIもM&A段階ではわからなかったことが原因で残念な結果におわることも多い。今回は、契約後の新婚生活を失敗に終わらせてしまうような、PMIにおける買い手と売り手双方の「モテない会社」にフォーカスしていきたい。

ノスタルジーに浸る会社

 付き合っていて、過去の良かった恋愛や自分がもっとも輝いていた時代をネチネチと語る人はモテない。まるで、今ある自分が本来の姿ではないかのように言うことで、付き合っている相手への責任転嫁のようにも感じさせる。やがて、相手は一緒に未来を創っていこうという意欲を失う。

 株主やオーナーが会社や事業を売却したのは、このままの体制や体力では限界がきているか、やがて限界がくることを感じていたからである。もちろん、買われるだけの技術や人材や顧客資産があったから無事に売れたわけであり、その意味ではこれまで会社を継続させてきてくれた顧客や社員への感謝は大切である。しかし、過去に感謝するのと過去に憧憬を感じるのはまったく意味が異なる。過去への憧憬は現在の否定であり、せっかくシナジーを出していこうとしている気勢をそぐ。

 売却された企業社員の仲間内が、飲み会などで「あの頃は楽しかったなぁ」と思い出に浸るのは構わないが、買い手企業との連携ミーティングなどで、「これまではこのやり方で成功していた」とか「自分たちのアイデンティティは…」などと過去の成功体験に固執しすぎる姿は買い手企業にとって気持ち良いものではない。もちろん、過去の成功要素を共有するのは大切なことである。買い手企業にとって勝手が分からない領域であるにも関わらず、権威を振りかざして、的外れな指示をしてくることには抵抗することが必要だ。ただ、成功体験への固執は単なるノスタルジーに過ぎない。

 特に売り手企業のオーナーが、M&A後にも残って経営にあたる場合などはこの傾向が特に強い。創業オーナーは、自分がゼロから立ち上げた事業や組織に強い自負がある。買い手企業から送り込まれてくる社員の働き方などに文句も言いたくなるのもわからなくもない。ある企業の話だが、会社を売却した後も創業オーナーが会長として残り、新しい社長として買い手企業の幹部が送り込まれてきた。新社長は信頼を得ようと就業時間以降も懸命に働いていたが、あるとき接待のために定時で会社を出ることがあった。その様子を見た会長が「社長が定時で帰るなど私の時代には信じられない!」と立腹して買い手企業のオーナーに連絡してきたのだ。ここまでくると、もはや未来に向けて足を引っ張っているようにしか見えない。買い手企業も、そのオーナーが君臨している間は変に手を出すことを控えるようになる。結局得られるシナジーも得られず、ずるずると時間がばかりが進んでしまうことになった。売り手企業は、新しい会社を信じて未来を創っていく潔さが必要である。ノスタルジーや成功体験に浸る売り手企業はモテない。

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