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1-5 PMIにおける登用

全員が納得する解はありえない

 特に企業同士の合併などの場合は、単純な子会社化と異なり二つの組織体を一つの組織体に統合していくため必然的に起こるのが配置の問題である。誰が社長や役員を務めるのか、誰が主要ポストを担うのか、これまで自分が持っていた権力配分はどのように影響を受けるのかなど、一定のポジションを務めていた人材なら、報酬よりも配置を気にする人の方が多い。対等合併の場合は、たすき掛け人事のように、主要ポジションを交互に両社が担っていくなど、両社に配慮した配置によって士気の低下を防ぐなどの方法もあるが、その弊害はこれまでの歴史で多く語られている通りである。率直に言えば、全員が納得する配置はありえないと思った方が良い。正解は無いので、事業戦略の要請、社員のモチベーションの要請、目指すべき組織文化の要請など、様々な要因を考慮しながら最適解を目指していくしかない。

把握すべき2つの能力

 しかし、その最適解を目指すことは大変難しい作業であるが、配置において最適な人材を把握するための情報は2つある。それは影響力の有無と、実務能力の有無の2つである。影響力を持っている人材とは、その組織において精神的支柱となっており「この事業と言えば〇〇さんだよね」と言われるような存在の人である。両社におけるこのような人材を主要ポジションに置くことで、社員の多くはこれまでの価値観が失われないという安心感を保持できる。また、その影響を持っている人が統合のキーパーソンになって推進してもらうことで、PMIもスムーズに進めることが可能になる。次に実務能力とは、当該職務を適切かつスピーディーにこなせる能力であるが、PMIプロセスにおいては実務上の統合プロセスを進めながら、普段の業務も進めることになるため、よりハイレベルの実務能力を持った人材を配置することが大事になってくる。影響力と実務能力を両方兼ね備えている人がベストであるが、求められる職務によって優先順位が変わってくる。

注意すべき2つの部門

 ここで注意したい点がある。切迫度かつ重要度が高い部門のリーダーにおいては、実務能力が高い人をちゃんと配置することである。両社の社員の実力が分からない段階で、誰をその部や機能のトップに据える判断することはリスクが高い。両社からそれぞれ人材を配置してみたものの、配置した後、その部門のリーダーよりも部下の方が実務能力が高かったなどは大いにあり得る話である。本社から誰かをその部門の長に送り込むときも同じことがありうる。切迫かつ重要度の高い部門とは経理部門と営業部門である。
 経理部門においては、統合直後は財務会計の統合はもちろんのこと、財務管理と管理会計の整合性や、新しい計画の策定とそれの現場への接続など、日々の業務を動かすうえでの前提となる活動を一気に行っていかなければならない。圧倒的な実務能力、しかも現場を分かっている上での実務能力が求められる。経営陣はその人が動きやすい状況をいかにつくるかが大切である。しかし、年齢を配慮したたすき掛け人事の結果など、実務能力が高い人に適切な役職が割り当てられず、最悪の場合は役割期待の薄さからその人が退職してしまった場合などは、その後の立て直しに大いに時間がかかってしまう。
 営業部門の意味合いは業態によって異なるが、顧客からの問い合わせ数や来訪数が肝となる業態の場合はマーケティングやプロモーションチームの場合もあるし、営業パーソンの行動量が肝となるような業態は、普通に言われているようなセールスパーソンが集う営業部である。商品開発部門の停滞や、経営企画部門の停滞は、一定の時間が経過した後に影響が出てくるが、営業部門の停滞はすぐに業績に反映されてくる。日々の問い合わせ数や来訪数が重要となるBtoCビジネスにおいて、統合して一か月、プロセス統合をどうするかなどを悠長に議論していたら、すぐに売り上げの低迷を招くことになる。統合後スタートダッシュは疎か、統合後のスタートで転んでしまうようだと、M&Aに否定的な人たちから「だから言わんこっちゃない」という空気を蔓延させてしまうきっかけにもなってくる。
 経理部門と営業部門の組織長及びキーパーソンについては、たすきがけ人事などでごまかすのではなく、しっかりと人物を見極めたうえで配置しなければならない。そのためには、外部の専門家を招いてインタビューをしたりするなど、しがらみのない中で評価することも重要であろう。

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