2-4 PMIの極意④
~キーパーソンへの配慮~
青天の霹靂なキーパーソン
買収サイドと売却サイドの各々の最終意思決定者同士は、共にトップ面談等で価値観や方針をすり合わせてきたプロセスがあるので、M&Aに一定の納得感を持っていることが多いが、注意するべきは、それまでの意思決定に大きく、もしくは全く参画していない会社の重要幹部である。その幹部が、売却サイドの企業においてこれまで事業責任の多くを引き受けて、自分も会社の維持発展に貢献してきた自負心がある場合、当該M&Aが頭では理解できても心が追いついていかない場合がある。この立場にある人は、PMIプロセスにおいてもキーパーソンの役割を果たしてもらわなければいけないことが多いため、この存在のモチベーション状態はPMIにおいて極めて重要である。
キーパーソンの心の内
キーパーソンのモチベーションが揺れ動く理由としては大きく3つある。1つ目は経営との距離である。これまでは会社の重要意思決定においても重要な役割や発言権を持つことができていたため、自分でも「会社を動かしている」という感覚をもって日々活動していた。しかし、M&A後は買収サイドから幹部が送られて役割が縮小したり、これまでの自分も作り上げてきた経営方針が変わったりした場合、「権限が奪われた」という感覚にたいてい陥る。経営幹部であるほど、向上心が強く「自分の権限」に対するこだわりも大きいことが一般的であるため、この感覚はモチベーションの低下に直結するのである。2つ目は、将来キャリアへの迷いである。トップに何かあったときには次に経営を担うのは自分である、危機的状況を乗り越えられるのは自分しかないという覚悟をもち、その緊張感をもって取り組んできた場合は、M&Aにおいて一定の安心感を得られることと同時に、場合によっては役員や経営者までを狙っていた機会が減少したと映ってしまうこともある。自分自身のキャリアを見直すきっかけにつながっていく。3つ目は、報酬に対してである。売却サイドの株を持っている人(たいていはトップであるが)はこの売却を機に大きな果実を得られたが、一方で日々経営の中枢に関わっているにもかかわらず株をそこまで持っていない人にとっては、「自分は損をしている」という感覚に陥る。実際には、日本においてM&A後に報酬をドラスティックに下げることは、よっぽど危機的状況でないとしないことが一般的であるため、キーパーソン個人としての手取りが大きく減ることは少ない。しかし、報酬におけるモチベーションというのは絶対額よりも「誰それがいくらもらっている」という相対的な差での影響の方が大きいものである。
PMIをうまく動かすためには、場合によっては反発心の強い経営幹部には退いてもらう場合もあるため、ケアしすぎは良くない。しかしながら、PMIを成功に導くためには、キーパーソンとの良好な関係は、PMI成功へのキードライバーである。PMIの幹部ミーティングにて積極的に意見をもらったり、買収サイドの統合推進者が個別に会食をし、キャリア観や人生観、家族観など様々なヒアリングを通じて信頼関係を構築するなどの取り組みは特に意識して行っていきたいものである。
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