悪文のお手本「アミラーゼ問題」を添削した。子供の読解力より、大人の文章力。

はじめに

突然だが、この問題を解いてもらいたい。

解けただろうか?答えはデンプン。解けなかった人、答えを聞いて納得できただろうか?

私はデンプンという答えに納得できない。もうめんどくさいので、詳しい説明は省かせていただく。よく知らない人は、適宜「アミラーゼ問題」「新井紀子」「東大生」「読解力」とかのキーワードを組み合わせて検索してほしい。それで大体の情報を得てほしい。

私は高校3年生の時に、初めてこの「アミラーゼ問題」を解いた。数学の授業で、突然先生が私たち生徒に対してこの問題を出してきた。クラス全員がこの問題を解いた。ちなみに私は、不正解だった。確か教室の半分ぐらいが正解してて、半分ぐらいが不正解だったと思う。その先生は、たしか読解力がどうとか頭を使わないとAIに負けるとかなんとか、得意げに話してた記憶がある。

その時以来、このアミラーゼ問題に納得いっていない。まあ答えを聞いたら確かにデンプンなんだが、なんか変だな、それで読解力って言われてもなあ、とずっと思っている。
 とにかく、自分を納得させるためにこのノートをまとめたい。まずこのノートでは、本題ではないが、なぜこの「アミラーゼ問題」の問題文に焦点を当てて、なぜこの問題文がわかりにくいのか、いかに文章の質が悪いのかということを分析していく。しっかり分析し言語化することによって、まず多少頭の中をすっきりさせたいとおもう。もしこのノートの内容が、私の為だけではなく、読んでくれた人の読解力・文章力の向上にも役立てば何よりである。
 それから、これとは別のノートで、本題である、いかにこの読解力テストが馬鹿馬鹿しいかということについて書く予定である。


アミラーゼ問題の問題文をわかりやすくする方法

アミラーゼ問題の問題文がわかりやすくする方法は下記の項目に分けられる。(「わかりづらい理由より」、「わかりやすくする方法」変えたほうが読者の人にとって読みやすいのではないかと思った。)一つ一つの項目について、詳しく説明していく。

  1. 読点をうまく使う。

  2. 入れ子構造を解く。

  3. 接続助詞「~が」は安易に使わない。

  4. 一文の情報を絞る。

  5. 表現を統一する。

  6. その他

また、ご参考までに、上記の方法をすべて踏まえて添削した最終的な添削後の文章を、あらかじめ以下に示しておく。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(最終的な添削後の文章)
添削例①
デンプンは、グルコースからできていて、アミラーゼという酵素によって分解される。一方、セルロースは、同じようにグルコースからできているものの、デンプンとは形が違うため、アミラーゼによって分解されない。
添削例②
デンプンとセルロースは多糖とよばれ、どちらもグルコースとよばれる単糖がつながってできている。しかし、アミラーゼという酵素は、デンプンは分解できる一方で、セルロースは分解できない。これは、デンプンとセルロースの形が異なるためである。

1.読点をうまくつかう。

【読点の重みと優先順位に気を付ける】
まず、オリジナルの問題文は読点の位置が不親切である。
 元の文の読点は二つある。前の方の読点は、「が」のあとで、デンプンについての説明とセルロースについての説明という大きな構造どうしをつないでいる。一方、後の方の読点は、目的語としての一つの節「同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは」の中にあるのだ。要するに二つの読点の重みが釣り合ってないせいで、文の部分同士の意味関係がわかりづらくなっているのである。前の方は全体の二つの文どうしをつないでるような重要な読点だが、後の方はあくまで名詞節という小さい文のなかの読点なのである。後ろの読点が前の読点の重みにひきづられてしまうことによって、「同じグルコースからできていても」という部分が、前のデンプンの部分と後ろのセルロースの部分のどちらの部分に属しているのかわかりづらいのである。
 したがって、前の方の読点だけ残して、後ろの方の読点を取ってしまうだけでも、かなりわかりやすくなる。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削後)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても形が違うセルロースは分解できない。

また、「アミラーゼという酵素は」の後に読点に打つことによって、さらに全体の文章がわかりやすくなる。オリジナルの文は、途中の節が長く、主語と述語がものすごく遠いせいで、わかりずらい。最初に出て来る「アミラーゼという酵素は」という主語は、「分解できない」という一番最後の術語にもかかるのだ。最初の主語の前で読点を打つと、文章全体が主語をくくりだした因数分解したみたいな構造になって、わかりやすいとおもう。主語(アミラーゼは)×{並列A(デンプンを分解する)+ 並列B(セルロースは分解できない)}

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削後2)
アミラーゼという酵素は、グルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても形が違うセルロースは分解できない。

つまり、オリジナルの文は、目的語の節の中で読点を打つくせに、「アミラーゼという酵素は」という前後の二つの文にかかる大事な主語の後で読点を打ってないのでわかりづらいのである。そもそも読点の優先順位がおかしいのだ。

【名詞節があるときは、読点で気を遣う】
もう一つ決定的な問題がある。読点の位置によって、わかりづらくなるどころか、内容の意味がまるっきり変わってしまう部分がある。前半の「アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する」がその部分だ。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する
(読点パターン1)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する
(読点パターン2)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する

パターン1はグルコースからできているのはデンプンだが、パターン2はグルコースからできているのはアミラーゼである。もちろん正解とされている意味になるのはパターン1の方だ。また、上の3つの中で最も適切なのはパターンの1の書き方だろう。
 しかし、オリジナルには読点がないので、パターン2の捉え方をされる可能性は低くない。アミラーゼなどに関する知識が全くないことを仮定しているのなら、パターン2のままの意味で後半を読み、「セルロースがアミラーゼと同様の酵素であり、セルロースはデンプンを分解できない」というような意味に解釈してしまうこともできる。その場合「できたデンプン」という解釈が多少不自然かもしれないものの、矛盾はない。

(パターン2の意味で全文を読んだ場合)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながって、できたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても形が違うセルロースは(デンプンを)分解できない。

こういう問題が起きてしまうには理由がある。「アミラーゼという酵素は」という主語と「分解する」という述語の間に「グルコースがつながってできたデンプン」という動詞を含む節が入ってきてしまっているため、「アミラーゼという酵素」という主語が、手前の「つながって」という動詞にかかるのか、奥の「分解する」という動詞にかかるのかわかりづらいのである。
 そのため、この問題を解消するには、最初の「アミラーゼという酵素」という主語の前に読点を入れることで、その主語が節からは分離していて手前の動詞を飛ばして奥の動詞にかかることを示せばよいのである。
 また、入れ子構造を解くことによってもこの問題を解消できる。(次の項目で説明する。)


2.入れ子構造を解く。

この問題文の特にわかりづらい点は、途中の目的語の節がやたら長いことである。「グルコースがつながってできたデンプン」と「同じグルコースからできていても、形が違うセルロース」の二つはいづれも、修飾語の中に動詞を含んでいる節である。この長い節を、「アミラーゼという酵素は」という文節と「分解する」「分解できない」という文節の係り受けがまたいでしまっているのである。つまり、大きな文の中に比較的大きな文が入ってきてしまって、入れ子の構造になってしまっているのである。係り受けが大きくジャンプするので、読みづらくなる。
 
 一文の中で入れ子構造を解消するためには、「分解する」などの述語は後ろから動けないので、節の方を前に持っていきつつ「アミラーゼという酵素」を後ろに持っていくしかない。ただそうすると、「アミラーゼという酵素」という主語がうしろのほうにいってしまう。主語はなるべく前に来た方がわかりやすい。だから「グルコースがつながってできたデンプン」のほうを主語にする。さらに、このままでは主語が長くてわかりづらいので、「デンプン」を主語にして文頭に持ってきて、あとから修飾される形にする。「セルロース」の方も同様にする。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削過程1 目的語の節を前に持ってくる)
グルコースがつながってできたデンプンをアミラーゼという酵素は分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削過程2 目的語の節の方を主語にする)
グルコースがつながってできたデンプンアミラーゼという酵素によって分解されるが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解されない
(添削過程3 主語を短くする)
デンプンはグルコースがつながってできていてアミラーゼという酵素によって分解されるが、セルロースは同じグルコースからできていても、形が違い分解されない。

正しくは分解されえないだが、分解されないでもさほど意味は変わらないだろう。

3.接続助詞「が」は安易に使わない。

接続助詞「が」というのは、もともと意味がわかりずらい。単純な接続である場合や逆接である場合などいろいろ役割があって、「が」それ自体だけではどの意味なのか判断できないからである。したがって、「が」を意味がわかりやすい接続詞に置き換えて、文を二つに分けると、文同士の意味関係がわかりやすくなることが多い。
 この問題文の場合も、「が」は非常にあいまいな意味でつかわれている。「デンプンは分解できるが、セルロースは分解できない」というのが問題文の大意であるから、「が」は逆接か対比の接続詞にするのがよいだろう。だから、「しかし」や「一方で」置き換えるのがよい。
 でも、ただ「しかし」で置き換えると、そのあとの「同じグルコースからできていても」の「ても」がまた逆接なので、逆接がすぐに二つ続く形になる。これらの逆接は役割がかぶっているのでなので、どちらか片方さえあれば良いと思う。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

(添削例1)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する。一方、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

(添削例2)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する。しかし、同じグルコースからできてい、形が違うセルロースは分解できない。

デンプンとセルロースの意味関係がわかりやすくなった。なぜか頭に入ってこないようなだらだらと長い文章では、この接続助詞「が」とかく多用されていがちである。読み手が円滑に読めるようにするために、接続助詞の「が」はなるべく使うのを避けるようにした方が良い。

4.並列の言葉どうしは表現を統一する。

並列の言葉どうしは表現が統一されてると、対応しているという事がわかりやすい。まず「は」の使い方がおかしい。デンプンとセルロースは並列なのだから、素直に助詞を「は」で統一したほうがわかりやすい。以下の例文は、それぞれ下の文の方が読みやすいと思う。オリジナルの文は、「アミラーゼという酵素は」と「セルロースは」だけが助詞が「は」になっているため、それらが並列になっているように見えて紛らわしいのである。

(例文)
俺は家の電気を消したが、エアコンは消さなかった。
俺は家の電気は消したが、エアコンは消さなかった。
私は海を泳げるが、川は泳げない。
私は海は泳げるが、川は泳げない。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削後1)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプン分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

また、

分解するが→分解できるが
グルコースからできていても→グルコースがつながってできていても

にする。 
 もっというなら、アミラーゼには「アミラーゼという酵素」という説明があるのに、グルコースやデンプンやセルロースには全くない。これもなんとなく不自然ではある。唐突に出される文章としては、「グルコースという単糖」とか「セルロースという多糖」とかいう修飾があってもいいだろう。
 まとめると以下のようになる。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削後2)
アミラーゼという酵素グルコースという単糖がつながってできたデンプンという多糖は分解できるが、同じグルコースがつながってできていても、形が違うセルロースという多糖は分解できない。

5.一文の情報を絞る。

もっと根本的にわかりやすくするには、一文の情報を減らして、文を増やした方が良い。要するに、一文に情報を盛り込みすぎなのである。(名詞句がやたら長いのもそのせいだ。)どんなに一文内での論理構造をわかりやすくしても、ノイズが多すぎると要点が伝わらない。いわゆる、一文一意といわれるようなテクニックである。わかりやすくするためには、一文の情報を洗練させること。付加情報は別の文で足せばよい。 細かいテクニックも大事だが、こういったマクロ的な視点でのテクニックも大事だ。

まずグルコースが「つながって」できているという情報を削る。問題文の意図としては、どういうふうに形が出来ているかは全く重要ではではないだろう。つながってるかどうかわからなくてもグルコースが成分・構成要素であるということは大体わかり、分解のイメージもできるため。削ってしまっても問題はない。
 そして形が違うから分解できないという事を、別の文として、明示する。(文の印象がかなり変わるかもしれないが。)オリジナルの文だと、形が違うセルロースは分解できないと言っているだけで、形が違うからセルロースは分解できないとわかりやすく述べていない。はっきりさせておいた方が良いのに、その意味が上手く強調されずに曖昧になっている。「同じグルコースからできていても」と逆接が強調されているのにくらべて、「形が違う」と理由があっさりしすぎている。
 また、デンプンとセルロースはグルコースがつながってできているという情報はあらかじめ手前に抜き出して書いてもいいかもしれない。
 さらに、文と文の意味関係をわかりやすくするために接続詞をつけるとわかりやすい。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削過程1)
アミラーゼという酵素はグルコースでできているデンプンを分解するが、同じグルコースでできているセルロースは分解できない。セルロースとデンプンは形が違うためである。
(添削過程2)
デンプンとセルロースは、どちらもグルコースがつながってできている。アミラーゼという酵素はデンプンは分解するが、セルロースは分解できない。
デンプンとセルロースは形が違うためである。
(添削過程3)
デンプンとセルロースは、どちらもグルコースがつながってできている。しかし、アミラーゼという酵素はデンプンは分解する一方で、セルロースは分解できない。なぜなら、デンプンとセルロースは形が違うためである。

なお、デンプンとセルロースが出て来る順番を常にそろえるとわかりやすい。

6.その他

同じグルコースというのはなんか変だ。同じグルコースというと、グルコースの中でも同一のグルコース、というような変な印象をあたえる可能性もある。「同じように」とか方が自然だ。また、「同じように」が「分解できない」にかかる可能性もあっていささか多少まぎらわしい。また、「が、同じように」という連続も、混乱を招きやすい。それを回避するためには、「一方で」という接続詞をいれて、対比であることをはっきりさせればわかりやすいのではないだろうか。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削例1)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じようにグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(添削例2)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、一方で、同じようにグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

以上の方法をすべてふまえて、問題文の最終的な添削をした。

(オリジナル)
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(最終的な添削後の文章)
添削例①
デンプンは、グルコースからできていて、アミラーゼという酵素によって分解される。一方、セルロースは、同じようにグルコースからできているものの、デンプンとは形が違うため、アミラーゼによって分解されない。
添削例②
デンプンとセルロースは多糖とよばれ、どちらもグルコースとよばれる単糖がつながってできている。しかし、アミラーゼという酵素は、デンプンは分解できる一方で、セルロースは分解できない。これは、デンプンとセルロースの形が異なるためである。

あとがき

少しでも、読んでくれた方の読解力や文章力の向上の助けになれば幸いである。
 最初はアミラーゼ問題以外の問題も添削してやろうと思っていたのだが、アミラーゼ問題が添削の素材としてあまりにも優秀すぎて、ほとんど満足できてしまった。
 これから、別のノートで、この読解力テストの意義などについて考えていることを書きたいと考えている。良ければそれも読んでいただきたい。

参考文献
岩淵悦太郎編著『悪文 第三版』日本評論社, 1979
本田勝一『新装版 日本語の作文技術』講談社, 2005


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