見出し画像

【創作童話】ドラゴンとたまごのから

「ななと はちを たすと、じゅうご。
ななと、きゅうを たすと、じゅうろく。」

どうくつの なかで、ボノが つぶやいていました。

めは きいろく ひかり、おしりには、ながい しっぽ。
からだを おおう あおい うろこが、キラキラと ひかっています。

ボノは、ドラゴンです。

でも、はねは とても ちいさく、おなかが ぽっこりと でていて、ふとっちょです。

「ねえ、ボノ。おべんきょうを してるところ、わるいんだけど……。」

あかい ドラゴンが こえを かけました。
ボノより ずっと おおきい からだです。

「なに、ママ?」

ボノが、ききました。

「もうすぐ、ひが くれるわ。
でも、まだ おもてで、カランが あそんでるの。よんできてくれない?」

「えー、めんどうくさいなあ……。」

ぶつぶつと いいながら、ボノは どうくつの そとに むかいました。

にほんあしで、あるき、おなかの にくが、ぽよんぽよん ゆれます。

そとには、だれも いませんでした。

「カラン? カラン?」

ボノは、あたりを みまわしました。

そのときです。

しげみが、がさがさと ゆれて、なにかが とびでてきました。

「うわっ……!」

ボノは どすんと しりもち。

それは、しろくて、ボノの あたまよりもおおきい たまごでした。
てっぺんの ほうが だいぶ かけていて、なかは からっぽです。

「びっくりさせないでよ。カラン!」

カランと よばれた たまごの からは、たのしそうに じめんを はねたあと、くうちゅうに うかびました。
あなから、ぽっ、ぽっと ひを はきます。

カランは、ボノが うまれた たまごの からなのです。
でも、どういうわけか、うまれたときに、
ドラゴンの まりょくが からに のこってしまったようで……。

それで、じゆうに とんだり、ひを はいたり できるというわけです。

そのかわり、ボノには、ドラゴンの ちからは ぜんぜん ありません。

(なっとく いかないんだよな……。)

ボノは いつも そうおもっています。

そのよる。ボノは、きげんわるそうに ひげを たてていました。

「ボノ。そんなに おこらないの。」

ママのドラゴンが、なだめます。

「カランは、ふざけたかっただけ。わるぎがあったわけじゃないわ。
ボノのこと すきなんだから。そうよね?」

ママが、カランに ききました。

すると、ちゅうに うかんでいる カランは、うなずくように、からだを ぜんごに ゆらしました。

「そんなこと いわれても……。」

ボノは、あしの つめで じめんを ガリガリと かきました。

「あなたたち、ふたごみたいなものなんだから。
もっと なかよくできると いいんだけど……。」

すると、ママは めを おおきく ひらきました。

「そうだわ。ふたりとも、あした いっしょに そとへ 
あそびに いきなさい。」

「やだよ。ぼく、べんきょうしてたい。」

「ボノ、たまには うんどうしないと。
もっと ふとっちょに なっちゃうわよ?」

ボノは、ぽっこりでた おなかを さすりました。

「それに、ママは おうちの なかを かたづけないといけないの。
そとに でていてもらえると たすかるわ。」

「でも、もりは あぶないでしょ? トロルとか、いるし……。」

トロルは、きょうぼうな もりの ようせいです。
からだが、おおきく、かいりきの もちぬし。
であってしまったら、たいへんです。ママでも、かてないかもしれません。

ボノは くびを ちぢめて、つぶやきました。

「ぼく、とぶことも、ひを はくことも できないんだから。」

「だいじょうぶ。そんなに とおくに いかなければね。」

「うーん……。」

カランはよろこんでいるようで、くうちゅうを
みぎに ひだりに とびまわり、あなから ぽーっと ひを はきました。

 

つぎのひ。
ボノとカランは、そとの はやしで、かくれんぼを はじめました。

「じゃあ、ぼくが おにを やるね。
かくれるのは、この ちかくだけ。いい?」

カランは、からだを ぜんごに うごかして、こたえます。

ボノは、めを つむって、かずを かぞえようとしました。

 ……が、カランは ものすごい いきおいで、
とんでいってしまいました。
どんどん もりの おくの ほうへ。

「ちょ、ちょっと……? カラン!」

ボノは、はしって おいかけます。

「はあ、はあ……!」

いきが あがって、めが まわりそうです。

だんだん、くだりの さかになって、あしも、もつれそうです。

「カラン! カラン!」

よんでも、でてきません。

(もどって、ママを よぼう。)

そのとき、とつぜん、きの かげから、カランが とびだしてきました。

「うわっ……!」

ボノは、おもわず、とびあがりました。
そして、そのまま さかを ごろんごろん。

「わあああああ!」

しばらく ころがって、とまりました。

「う、うーん……。」

カランが、ボノの ことを のぞきこむように、うかんでいます。

ボノは、おきあがって、ひげをたてました。

「もう、なにやってるんだよ!」

しかし、ボノは、よくわかっていないようで、
くびを かしげるように、からだを ななめにします。

「とおくは ダメって、いったでしょ?」

ボノは、うでや おなかに ついた つちや はっぱを はらいました。

「もう、かえろう。」

ボノは、さかを みあげました。のぼっていくのは たいへんそうです。

「しかたない。まわりみちで。」

ボノは べつの ほうこうへ あるきはじめました。
カランも ついていきます。

そのとき、とおくの ほうで、
「おぉぉ。」という おたけびが ひびきました。

「トロル……。」

ボノは、ふるえて、つぶやきました。

すると、カランが、ごうごうと、ほのおを はきました。

まるで、「トロルなんか、やっつけてやる!」とでも いわんばかりに。

「すごい……。」

ボノは、ほのおを みつめました。

(でも、ほんとうは、この ちからだって、ぼくのもので……。)

かんがえると、ムカムカしてきます。

ふたりは、しばらく すすみました。

でも、なかなか いえに つきません。
きぎは うっそうとして、むしろ、もっと ふかくに きているようです。

「おかしいな……。ほうこうを まちがえたかな? ……そうだ。」

 ボノは たちどまり、そらを みあげました。
えだはの あいだから、たいようの ひかりが キラキラ。

「いまは、まだ おひるまえで……、
たいようが あの いちに あるから……。」

うでを くんで、つぶやきます。

「おうちは、この もりの みなみの ほうでしょ。だから……。」

ボノは いっぽうを さしました。

「カラン、あっちだ。」

が、カランの すがたが ありません。

みると、ちかくを ながれる かわの うえに、うかんでいます。

「どうしたの?」

カランは、すいちゅうを およぐ さかなを おいかけているようです。

「ほら、おいてっちゃうよ!」

しかし、カランは むちゅうになっているようで、ぜんぜん やめません。

「もう! かってなこと しないでよ!」

ボノは、じだんだを ふみました。

しばらくすると、ひとしきり あそびおえて、
カランが もどってきました。

ボノは はぎしりして、めは まっか。

そのとき、あたりが きゅうに くらくなってきました。

「ん……?」

あつい くもが、そらを おおい、あめが ふってきました。
いたいくらいに、はげしく、うちつけてきます。

さらに、ピカっと、ひかった しゅんかん、
くうきが さけるような かみなりの おと。

「ひいっ……!」

ボノは、いそいで、ちかくの いわかげに。カランも ついてきます。

ボノは、じべたに すわりこんで、まるく ちぢこまりました。

おなかが へって、グルルルと、なります。

もう、カランに おこる げんきも ありません。

「ママ、しんぱいしてるだろうな……。」

ひげを、たらして、したを むきます。

おなかが、また おおきく グルルル。

「うぅ……。」

ぽろり、ぽろりと、なみだが こぼれました。
てで ぬぐっても、どんどん あふれてきます。

カランは、ボノの めの まえで じーっとしています。

すると、いきなり、いわかげの そとへ。

「どこいくの……?」

ボノは おいかける きにも なれません。

すこしたつと、カランは もどってきて、さかさになりました。

あなから、なにかが、ごろごろ でてきました。
おおきな あかい きのみです。それも、やまもりに。

「え……?」

ボノは、きょとんとしました。

「……ぼくに、とってきて くれたの?」

カランは、うなずくように、からだを ぜんごに ゆらします。

しかし、ボノは、むっとした ひょうじょうを うかべました。

「いらないよ。」

ぷいと、むこうを むきます。

……が、ちらっと よこめで、きのみを みました。

そーっと、てを のばし、ひとつとって、ぱくり。

もぐもぐと かんで、のみこみました。

しばらく、だまっていると、もうひとつ、てを のばします。

ふたつめ、みっつめと、たべていきます。

めに すこしずつ、ちからが もどってきました。
どんどん ほおばります。

そして、あっというまに、ぜんぶ たいらげて しましました。

「おいしかった……。」

ボノは、まんぞくそうに、ためいき。

「……ありがとう、カラン。」

カランは、ぴょんと、とびあがりました。
うれしそうに、ぽっ、ぽっ、と ひを はきます。

ボノも、「フフ。」と、ほほえみました。

あめが、こぶりになって、くもの すきまから、
ひの ひかりも でてきました。

「そろそろ、いこうか。」

たちあがった、そのときです。

ドシン、ドシンと、じめんが ゆれました。

ボノは、ぜんぽうを みると、おもわず、くちを あんぐり。

いわの ように おおきい かお。
だいぼくよりも ふとい うで。
からだを おおおう みどりの け。

ボノは、ふるえながら つぶやきました。

「ト、トロル……?」

トロルの ぎんいろの めが ひかります。

「ドラゴンの においがして、きてみれば。
まだ こどもか……。フフ、まあいい。いたぶってやる。」

ボノは、こしが ぬけています。

「あ……ああ……。」

トロルが こぶしを はなちました。

すかさず、カランが、ボノを つきとばしました。

「うわっ!」

かんいっぱつ、こうげきを はずすことが できました。

つづけて、カランは からだぜんたいで、
ボノの ことを ぐいぐいと、おしました。

まるで、「にげろ。」と、いうように。

ボノは、いっぽうに むかって、はしりだしました。

……が、あしを とめて、ふりかえりました。

カランは、トロルに むかって、ほのおを はいています。

「ぬう……。なんだ、こいつは……。」

トロルは、カランを けとばしました。

カランは、ふっとんで、いわかべに ぶちあたりました。

「カラン!」

ボノが さけびます。

カランは、じめんに ころがりました。

トロルが、あごを なでて いいました。

「ほう、いまので、われないとは……。」

ボノは、カランに かけよります。

「カラン! カラン!」

さけんで、カランを ゆすりました。
そして、だきあげて、にげようとします。 

そのとき、トロルが ほうりなげてきた いわが、ちかくに ずどん。

「うわっ!」

ばくだんの ような いきおいに、ボノたちは ふっとんでしまいました。

めの まえの けしきが くるくる まわり、
きがつくと、まえが よくみえません。

「……あれ?」

どうやら、ころがった ひょうしに、カランの あなに 
あたまが すっぽり はいってしまったようです。

まるで、ぼうしを まぶかに かぶったように。

そのときです。

「うーん……いたいカラン。」

という こえが あたまに ひびきました。

「……ん?」

ボノは、まわりを みました。だれもいません。

また、こえがしました。

「あれ、さかさだカラン。」

ボノは、ぽつりと いいました。

「……このこえって、もしかして、カラン? カランなの?」

「……え? ボノ、ぼくの こえ、きこえるカラン?」

「うん、きこえてるよ。」

しばらく、ふたりとも、だまりました。
そして、どうじに さけびました。

「ええええっ?」

カランは、うれしそうに いいます。

「ボノと、しゃべれるカラン。ヤッター、ヤッター。
おしゃべりしようカラン。なに はなすー?」

「いや、それどころじゃないよ!」

「あ、そうだカラン。」

トロルが、あゆみよってきました。

「なにを ごちゃごちゃ いってる?」

ボノは、たちあがりました。カランの こえが ひびいてきます。

「ボノ、にげてカラン。」

「できないよ。キミを おいていくなんて。」

「ボノ……。」

「そうだ。ぼくに、かんがえがある。
カラン、このまま そらに とべる?」

「え……?」

「いいから!」

「……やってみるカラン。」

カランを あたまに かぶったまま、ボノのからだが うかんでいきます。

いきおいよく、どんどん たかく。

トロルは、ボノたちを みあげました。

「なにを するつもりだ?」

すると、ボノは、さかさに なりました。

「よし、いくよ!」

そのまま、トロルに むかって、らっか。

「ふん、つぶしてやる。」

トロルは、こぶしを にぎりました。

ボノと カランは、ぐんぐん スピードを あげていきます。

「やああああ!」

いっしょに さけびながら つっこみ……。

トロルの パンチよりも さきに、おでこに ズドン!

「ぐおおっ!」

トロルは、ふっとんで、たおれました。

ボノたちは、じめんに ころげます。
ボノの あたまから、カランが はずれました。

「へへ、ボクの おもい からだで、ついたスピード。
それと、カランの かたさ。たすと、すごい いりょくになるんだ。」

カランは、あなから、ぽっ、ぽっ、 と ひを はいています。

トロルは、じょうたいを おこしました。
めが まわっている ようすです。

「う、うーん……。」

それでも、たちあがろうとします。

そのとき、ズシン……というおと。

(まさか、トロルの なかま……?)

ボノが おそるおそる ふりかえると、
そこに いたのは、あかいドラゴンでした。

「ママ!」

カランも、ぴょんと はねました。

「わたしの こどもたちに、なんてことを。ゆるさないわよ?」

トロルを にらむ ママは、ほのおを はきました。
うずを まいて のびていきます。

「むうっ……。」

トロルは、くるしそうに、のけぞりました。
まだ めも まわっているようで、ふらふらしています。

「……おぼえておけ。」

トロルは もりの なかへ、きえていきました。

「ママ!」

ボノと カランが、ママに とびつきます。

「ボノ、カラン、ぶじで よかった。」

ママは、ボノたちを だきしめました。

「ふたりとも よく がんばったわね。りっぱよ。」

「まあ、ぼくたちが、ちからを あわせれば、こんなもんだよ。」

ボノは、とくいげに いいました。

カランも、あなから ぽっ、ぽっと、ひを だします。

ママは、ほほえみました。

 

かえるとき。
ボノと カランは、そらを とぶ ママの せなかに のっていました。

「それにしても、ふたりが しゃべれるなんてね。」

「そうなんだよ、びっくりだよね。」

カランが、さかさになると、ぼうしの ように、ボノの あたまに。

「ボノ、おしゃべりしようカラン。」

「じゃあ、けいさんを おしえてあげようか?」

「うん、いいよー。」

「いちと いちを たすと、いくつ?」

「わかんないカラン。つまんないー。やっぱり、かくれんぼしよう。」

カランは、ボノのからだごと、うかびあがり、したの もりのほうへ。

「だめだって。もりは、あぶないから!」

「だいじょうぶカラン。
ぼくたち いっしょなら、なにが おきても へいきー。」

ママは、あきれたようすで、わらいました。

ボノは、てあしを ばたばたさせます。

「いやだよー。かんべんしてー。」

                             (おわり)

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

#私の作品紹介

95,875件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?