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第218回、小説タイムズ・ダイアリーを考案してみた その5


あらすじ
10歳のさきは暗闇に包まれた深い意識の中で、自分を呼ぶ者の声を聴いて、目を覚ました。さきの目の前には、うっすらと明るい光に包まれた、今まで自分が見た事のない女性が立っていた。
だがさきにはそれが誰であるのかを、すぐに理解する事が出来た。
これまでタイムズ・ダイアリーを通して文通していた、14年後の未来の自分24歳のさきに違いないのだ。

やはり大人のさきは、自分の深層意識が生み出していた、心の中にいる存在イマジナリーフレンドだったのだろうか?
例えそうだとしても、10歳の子供のさきは、もう一人の自分、24歳の大人のさきに会えた事を、とても嬉しく感じていた。

だが大人のさきは、自分はイマジナリーの存在ではないのだと伝えて来た。
大人のさきも最初は、子供のさきを自分のイマジナリーなのだと考えたが、恐らくは過去と未来の二つの時代のさきが、深層意識の中で繋がった事で、互いの夢の中で出会えているのだと、今は推測をしていた。
それがタイムズ・ダイアリーの力による物なのかまではわからなかったが、もしかしたら日記を通してこれまで行って来た、時空を超えた交流関係が、互いの精神を繋がりやすくした結果なのかもしれないと考えていた。

だが子供のさきは、その奇跡を喜んでいる場合ではない事に気が付いた。
医師に見せた日記に、大人のさきが書いたはずの文字が残っていない事や、イマジナリー症候群の診断を受けた事等の、これまでに起きた事を伝える。

大人のさきはタイムズ・ダイアリーの持つ不思議な力の正体について、一つの仮説を導き出していた。それは日記を通して過去と未来の意識が繋がった者同士の頭の中で、それぞれ相手の書いた文字を自分の日記に投影して見ているのではないかという物だった。

子供のさきには大人のさきの言っている事がよくわからなかったが、ゲームで遊んだ事がある、VR映像の様な物だという事は、何となく理解が出来た。

しかし自分以外に、大人のさきが書いた文字が見えないのであれば、大人のさきがイマジナリーではないのだとしても、自分達には母親の命を救う為に出来る事は、もう何もないのではないか?
そう気落ちする子供のさきに、大人のさきが思いがけない提案をして来た。

それはこの後目を覚ます際に、互いの意識を入れ替えるという物だった。
それがタイムリープと言われる物である事は、子供のさきも理解していた。
確かに大人のさきと子供のさきが、互いに意識を入れ替える事が出来たならまだ運命を変えられる可能性は残っているかもしれない。

だが本当にそんな事が出来るのだろうか?
いくら何でも、そんなアニメみたいな事が実際に起こり得るのだろうか?
いやこれまでの事だって、十分に奇跡と呼べる様な出来事だったのだ。
それが出来る事を信じて、やってみるしかないのだと10歳のさきも思った。

二人のさきは、夢の中で互いの手を握りしめて、祈る様にして目を閉じた。
目を覚ました時に、お互いの心と体が入れ替わっている事を信じて。


聞きなれない目覚ましの時計の音に目を覚ました10歳のさきは、そこがいつもの自分の部屋である事を認識した。やはりお互いの意識を入れ替える事等タイムリープをする事等、出来るはずもなかったのだろうか?
だが次第にいつもと違う感じ、奇妙な違和感も抱き始めていた。
そこは自分の部屋には違いなかったが、いつもとは違う家具のレイアウト、見覚えのない物が多数置かれていて、まるで別人の部屋の様でもあった。
さきは部屋の中にある鏡で、自分の姿を確認する。そこに映っているのは、夢の中で会った24歳の大人のさき、まぎれもない未来の自分の姿であった。

10歳の自分の意識が24歳のさきの体にあるという事は、24歳の大人のさきの意識は今、過去の世界にいる10歳の自分の体の中にいるのだろうか?
確認のしようはなかったが、さきはそう確信をする事がなぜか出来ていた。

改めてさきが部屋の様子を見渡すと、そこには10歳の子供のさきには難しくて理解のしようのない、医学関係の本が多数並んでいた。
10歳で母親を亡くした24歳の大人のさきは、これまでの自分の人生を母親の病気を治したい一心で、必死に生きて来た事が部屋の様子からも、さきには伝わっていた。
母親の病気を治したいという思いは、自分よりもむしろ、24歳のさきの方がよほど強く願っていた事だったのだ。
母親とまだ生まれていない妹の命を救えるとしたら、それは自分ではなくてこれまでその努力をして来た、24歳の大人のさきの方なのかもしれない。

タイムズ・ダイアリーは、自分の為ではなく、未来の世界にいるさきの為に存在していたのではないかと、この時さきは思うのだった。

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