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オリジナル小説 さいかい Ⅱ

 「君には,共に協力してくれる仲間がいたんだね」
今までのことを話し終えると,少しの沈黙を破り,美月さんは言った.
 「あと,一つだけ言いたいのだけど,詰草という人の妹はここにはいないよ」
突然の衝撃発言に,一瞬耳を疑った.
 「じゃあ,なんで詰草さんは本を書いたんですか?あんなに自分と瓜二つの状況に追い込まれていたのに,全部ウソなはずがありません!」
あまりにも,驚きすぎて強い言葉で反論してしまう.詰草さんの話は自分の状況と瓜二つだった.だから信じてここまでこれた.それが偽りであるはずがないと心が拒絶する.

 「君の言うように嘘ではないと思うよ.きっとね.たぶん,それには私の兄が関わっているんだろう」
隼人を諭すように美月は答える.
 「美月さんにも兄弟がいるんですか?」
「いたよ.心配性で,お節介で,人間嫌いだった.もう,力も感じ取れないから,きっとこの世にはいないんだろう」
 返す言葉が見つからない.せめて慰めになることを言うべきだけど,それすらこの人への侮辱になると思ってしまう.
 「なにも言わなくていいよ.これが,私が力を使った業なのだから.さぁ,契は結ばれた.扉に向かいなさい」
言葉を紡ごうとしたとき,美月さんは自分の言葉を遮るように扉を指さし言った.もう行かなければいけないらしい.

 「わかりました.きっと妹も他の人も,そして,あなたもここから開放させてみてます」
「本当に君はあいつに似ているね」
また,美月さんは少し無理をしたように微笑んだ.
 「さっきの似ているってお兄さんのことだったんですね」
さっきの「似ている」は妹ではなく美月さんの兄弟と似ているという意味だったのだと理解した.
 「そうだね」
美月さんの応援をもらい,覚悟が決まった.絶対にみんなを助けたいという強い心を持ちながら扉を開ける.扉は重厚な音を立ててはいたけれど,思ったよりも軽く力をいれるだけで開けることができた.

 中に入ると一面が花畑に囲まれていて一人の着物を着た女の人が花を積んでいた.
 「あら,いらっしゃい.今回はずいぶん早く次の人が来ましたね」
 こちらが来たのに気がついた女の人は自分と向かい合い言った.「私の名前は美結.この近くの社で巫女をしていたものです」
 「もしかして,あなたが村の干ばつを救ってくれた方ですか?」
 美結さんの名前が雨乞い巫女の言い伝えの主人公の巫女と同じ名前だった.おそらく,この人がその人なのだろう.
 「その話だと村は救われたんですね.他の方に聞いても分からなかったので,心配だったんですが…よかった」
 美結さんは安心したのか,少し涙ぐみながら言った.きっと今までここに来た人たちはこのことを知らなかったんだろう.
「あの…」
「あ,ごめんなさい.あなたがここから出られるように手助けしないといけないんでしたね.やっぱり人と話すのは楽しくて,つい,たくさん話したくなってしまいます」
 隼人が言葉を発することすらできないほどのマシンガントークで美結さんは話を続ける.人と話せるのがよほど嬉しいのだろう.

 「やっぱり,これは呪いみたいなものだと思いますか?」
 美月さんはたしかに優しかったけど,力そのものはもともと誰かを苦しめる呪いの力だったのではないかと今の状況からもつい,考えてしまう.
「ふふっ,そんなはずはありませんよ.はじめから誰かを苦しめるために生まれるものなんてありませんからね.どんな力でも誰かには救いに,誰かには呪いになるんです」
 「私はあなたと出会えたことで,救いになりました」
そう言って,美結さんは少し,寂しそうに笑いながら自分を諭した.やはり,仲間たちに会いたいのだろう.そう思うと,どうしても救いとは言い難い.
 「美結さんは,美月さんの力はなんだと思いますか?」
「ごめんなさい.力について私が話すことは契の影響でできません.それに私にもそれはわからないのです.おそらく,これから出会う.他の人も同じだと思います」
どうやら能力はかなり複雑に,そして執拗に自分たちに絡みついているらしい..
 「それでも,私の話しで何かはわかるかも知れません.実は私がここに来た初めての人なのですよ」
そう言って美結さんは歌うように語り始めた.

「季節が移ろうごとに野狐火山はたくさんの表情を見せてくれます.そのせいか村の人はみんなしてあの山には妖狐が住んでいると疑い,近づきません」


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