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連続小説「アディクション」(ノート45)

ギャンブル依存症から立ち上がる

この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。

〈「克服」〉

いきなりですが、こういう「克服」もあります。

アディクショングループの若手の一人の加茂川君が、私より一足先に卒業することになりました。

「屑星さん、お世話になりました。握手会はまた行きたいので、これからも是非誘ってください。」

「こちらこそ。あ、就職決まったんだよね。おめでとう。」

まぁ、本当に「好青年」です。

「それがなければ」ではなく、「それがあっても」だと、根市君もそうですがつくづく感じます。ひょっとして犯罪やる人に悪い人はいないんじゃないかと。

少なくとも、犯罪こそしないが、魚さんとか淡河さんの方が全然悪いよな、なんて思ってしまいます。

加茂川君の「問題行動」は、下着ドロなんですが、ここに来た当初はどうしても、女性の下着を手にしていないと落ち着かなく頭がおかしくなるとかなりの闇を抱えていました。とにかく下着なしでは生きて行けないということで、盗みと逮捕と収監を繰り返していたのですが、当クリニック嘱託医でベストセラー作家の二宮先生の診察を受けた時、

「下着買えば、いいんじゃないすか」

という言葉が刺さり、

「そうか、盗んだから捕まるんであって買えば問題ないじゃないか」

ということで、しま●らやら西●やらの女性下着売り場に通って、しかも自分のお気に入りの下着を買える喜びを手に入れたので、盗みは金輪際しなくなり、克服したということです。

「純粋に、オンナものの下着が好きだったんですね」

「しかし、買えばいい、ってだけの気づきで問題行動しなくなり、克服できることってあるんですね。」

例によって、玉井さんとお茶会していて、そしてあの背後霊もいるのですが、

「依存症ってやはり、自力でやるより第三者とか専門家の視点があった方が克服できるんですよね。」

「だから、病院に通いなさいってことですよね。あ、例外もそこにいるけど」

「まぁそこの人は、依存症以前の問題の人だから克服は必要ないですよ」

「必要なのは閉じ込めることかな」

魚さんが、我々のやり取りに身振りで強い遺憾を表明しています。

しかしながら、こういう「他愛もないこと」から克服に繋がるってことも結構あって、まぁ私の場合も認知を少し変えただけで渇望は止まっていますからね。

あと、ギャンブルの借金苦以外の「悩み」というのがむしろ嬉しくなったりしています。

「ああ、こういうことで今の自分、悩むことできてるスゴい。」

なかなか御理解いただけない感覚だとは思いますがw

〈「ボクサー」〉

ここ「正力クリニック」でボクシングプログラムが始まって1年が経ちます。毎年恒例の「桜祭り」において開催されるクリニックのボクシング頂上決戦において、前回の覇者は若き新王者に手も足も出ず防戦一方KO逃れが精一杯で惨敗しました。

その、お忘れかと存じますが「前回覇者」って私のことなんですが、90キロという体重の圧倒的優位を利用して、迫丸さんですら付け入ることの出来なかった私をまさしく「蝶のように舞い、蜂の様に刺す」パフォーマンスで翻弄した新星が誕生しました。

根市君のことなんですけど、元々の身体能力は迫丸さん程ではないですが高校球児ってこともあり、ある程度のポテンシャルは持っていて、あれから1年、筋トレとボクシングに打ち込み、身体も一回り大きくなり、62キロくらいのライト級の筋肉質に鍛え上げられ、スピード、スタミナ面もグレードアップ。つまり、

「何をやってもこいつにはかなわん」

というようなレベルになっていました。

「屑星さん、アンタの時代は終わりましたな。」

「柳田さん、若いって羨ましいです。」

「まぁ、あそこまで強くなられたらどうしょうもないですよ。」

「せいぜい我々は一般の中年にマウント取れるくらいで満足しましょう。」

「そうっすね。私は今日でこのプログラム終了なんです。やり切りました」

「そうでしたね。来週から社会復帰ですよね。」

「これでイザという時は、あのパワハラ上司を一方的に殴り倒せますw」

「そんなことしたら、今度はここじゃない違うところに行かされますよw」

「まぁでも、色んな意味で強くなれた気がします。屑星さん、またそのうちキャバクラで再会しましょうw」

「まだ柳田さんに連れてってもらってないけどなw」

「おいこら!練習中にキャバクラの話なんかしてんじゃねえ!俺も連れてけ!」

アレク先生が一喝して、練習再開となりました。

そのアレク先生も、根市君の急成長に歓ばれていて、プログラム中も色々なテクニックを個別に教えるようになり、果てには、

「根市は俺のジムで預かって、プロデビューさせる」と公言しまいました。

これに反応したのが正力理事長で、

「よし、これぞ『克服』だ。どんどんバックアップしよう。君はジムに通いなさい!クリニックのプロジェクトとしてプロデビューさせるぞ!おい!才所!忙しくなるからな!」

と、怪気炎でまくし立てていました。

そんなアレヨアレヨの経緯があって、現在に至っているのですが、

「やはり俺の死に場所はここだな」

「あれ?コーさん、ボクシングやめて歌手目指してたんじゃないんすか?」

「あんなナンパな稼業、オレは合わねえ。ここからプロになるぜ」

実際のところ、他のメンバーさんと比べて圧倒的に弱くて、他のトレーニングもほぼサボっているのをアレク先生が見兼ねて「追放」の形でこのプログラムからお引き取りいただいてたのですが、基本的に「構ってほしい君」なのか、久々にこのプログラムに顔を出してきました。

「おい、コー、酔っ払ってはいないだろうな?」

「アレク先生、俺は常にシラフです」

「まぁ、シラフだか酔っ払ってるのかどっちかいつもわからんけどな。」

「で、今ここで最強の奴と戦わせてください。10秒で沈めますから」

そういうわけで、根市君がコーさんを10秒で沈めて、練習再開となりました。

「スゴイな。アッパーで人間が浮いてマットに叩きつけられたの初めて見た」

「コーさんも、死に場所見つかって良かったですよね。」

あ、死んでませんよw

ちなみにコーさんは、ボクシングを辞めて今度は「占い師になる」と言い残し、リングを去りましたがまた戻ってくるだろうなw

柳田さんは社会復帰、そして根市君は間もなくプロデビューと、たまには明るい話題の回ということになりました。

今回はここまでとします。

GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ












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