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連続小説「アディクション」(ノート43)

ギャンブル依存症から立ち上がる

この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。


〈「合格」〉

一口に「合格」といっても、お目出度いことはお目出度いけど、そんなに感慨深いものでもない合格もあります。

徴兵検査もそんな感じなんだろうか、なんて言うと怒られるかな、、

なんというか、その頂いた「合格通知書」が、「入学金請求書」とも見えたりして、さすがに倍率が定員に足りてないと、兎に角お金を出して貰えるように確保したい感じがします。

「入学金と授業料の振込をもって、入学許可とする」との文言が、何度も各種書類に登場してきて、まぁお金を払うことが試験そのもののような気がします。

そういうわけで、退職金から入学金と授業料約150万円を振り込んで、私の入学は許可されましたw

調理師免許は国家資格です。

この有資格者は全国で約300万人くらい、だいたい人口の40人に1人はこの資格を持っていて、普通自動車免許の次に多い資格者とのことです。

国家資格なので、国家試験が毎年あってこれに合格することが免許交付の条件となるのですが、文部科学省が指定する学校において指定された単位を取得し、卒業すれば、国家試験免除で免許が交付されることとなっています。

まぁ、自ら学校に通うのがイヤで辞めることさえせず、なんとか規定の日数登校さえすれば調理師になれる、ということで、ある意味「金で買える資格」ということになります。

単純に私はラーメンを始めとした、ここのクリニックでの料理プログラムで自分の作ったものをこんなに意地汚く、いや失礼、心底喜んで食べてくれたメンバーさんの表情に感動してしまったのがきっかけで調理師になることを安易に決意してしまいました。

「屑星さん、おめでとうございます。」

「ありがとうございます。いやぁ玉井さん、本当にこの道で良いか正直疑っているんですよ。」

「はは、高い授業料払って後戻りはできないですよ。してもいいけどw」

「『迷わず行けよ行けばわかるさ』で、行ってみたら私は向いてないことに気がつくと思いますw」

「向いてないのと、やらないのとは別ってことで、向いてなくてもやってみればいいんじゃないですかね。」

「まぁ『失敗を恐れるな、謝ればすむ』で頑張りますよ。少なくとも『能書き』だけでも一人前になりたいですw」

今更どう頑張っても、一流の料理人なんかにはなれっこないと思っています。

ただ、そういうことではない意味とか価値とかは「高いお金」を払うだけのものは有るのではとも思っています。

現在の私にとってこの学校で頑張ったことは、かなりの糧にはなっています。

「スペイン広場のドン・キホーテの前で屋台のラーメン屋をやる」

さぁ、この夢はいつ叶うのでしょうかw

〈「自己満足」〉

人生どれだけ「自己満足」できるか?
これに尽きると思います。

何よりも優先されるべきなのは、こいつなんだろうなと。

ただ、他者を不幸に陥れて自分が利益を得るような行動は、実はそれは「不利益」であって、ちっとも自己満足ではないということが分かってきます。

結局、自己満足するためには、その対極と思われがちな人間関係を考えることが大事である、ということになります。

もっとも、ここ「正力クリニック」のアディクショングループの皆さんは、頑なに人間関係を蔑ろにすることで最も自己満足でき、そして他者の成功を自分のことのように喜ぶという価値観は微塵もなく、例え自分が不幸になっても、他者はさらに不幸になってくれればいい、ということで自己満足するという、ある意味非常にさわやかなメカニズムとなっております。

特にここに来たての人とか、一向に回復しないような人なんかにこういった傾向が見られていて、実は私もここに来た当初は、そもそもそんな自己満足だの人間関係だのには、全く向き合っておりませんでした。

それで、つくづく自分が嫌になってきているのは、やはり「幸せ」なんてものは欺瞞に溢れているものだと考えるようになってきていて、たぶん何らかの成功や利益を得た際には、その真逆に陥った者が少なからず出現しているだろうと。

そして、その出現に全く気付かずに人は「幸せ」を感じているのではないのだろうかと。そうなると、実は世の中どんな者でも幸せなようで幸せではなく、結婚しただの、子供ができて楽しく暮らせただの、会社で出世しただの、さらに自分の大事な仲間ができるだの、これらが実は全て欺瞞とか虚構とかから発生しているんじゃないかとか、アタマが痛くなってきているのでした。

なので、少なくとも「幸せ」という言葉は捨てて、「自己満足」という言葉を私の最大の幸福的な表現と位置づけ、答えの出ない「人間関係」を考えては更新することを続けていくこと、そして「人生全て運。ただしプライドは捨てない」を肝に銘じて生きていこうと思うのでありました。

まぁ、「他者が幸せか」などということはわからなくて、「これによって被害者が出ないか、出たとしても許容範囲か」というレベルの「人間関係重視」なのかな。そして、その上に立脚して「自己満足」できているのかな、というのが現在の私の基準であります。

はは、面倒臭いですかねw


〈「生まれてこなけりゃ良かった?」

ここのアディクショングループのほとんど皆さん、私も含めて世間からは「生まれてきて欲しくない」輩であることは間違いないでしょう。

そして、淡河さんのように開き直ったり、大北さんのように卑屈になったり、魚さんのように何にも考えていなかったりと人それぞれなんですが、まぁ社会において「頑張っている」人たちにとっては、我々は消えて欲しい存在であり、もし私が今すぐ世間にお役に立てることをしろというならば、魚さんを速攻で殺して刑務所に入れば、一人の世の中のポンコツなろくでなしが消え、そして私は刑務所に閉じ込められ社会から遮断されるということで、社会にとっては喜ばしいこととなるでしょう。

その辺をもう少し深堀すると、理事長の言う「一生通いなさい!」は、こういう「生まれて来ない方がいい人たち」を上手に閉じ込めることができているので、少なくとも社会への被害を最小限化させているということに貢献しています。

「ホントは俺なんか生まれてこなきゃ良かったんだよなぁ。」

「淡河さん、いきなりどうしました?」

「だって俺、ロクでもねえだろ?」

「はい。」

「屑星さん、そこは『そんなことありまそんよ』と言うところだ。」

「そうですか。そんなことないですw」

「もうじき、67なんだけどな。ずっと人に迷惑ばかりかけて生きてきたよ。」

「なんすか?騙して金借りたり、返さなかったり、ウソをついたり、さらにウソをついたり、先週の競馬外れたり、また騙して金借りたりで、ですか?」

「そんなにあからさまに言うなって。まぁそんなもんだけどな。」

「でも、何で今さら生まれてこなけりゃなんて言い出すんですか?」

「だんだん老い先短くなると弱気になるのよ。」

「昨日、熟女ヘルスのセクレタリアート行ったのに、ですか?」

「こら、大きな声でいうとスタッフに聞かれるだろ。」

「いやむしろ、淡河さんは『生まれてきて良かった』ではなかろうかと」

「あ、そうかw」

「しかし、そうやって自分を振り返ることも形だけでもなさるんですねw」

「形だけ、とはなんだw」

淡河さんは別として、ここにいる人たちはたぶん自ら「生まれてこなけりゃ良かった」と思うことはそんなになさそうで、それこそメンバー全員に自殺未遂歴のあるメンタルヘルスグループの方々のほうにそういう傾向がみられるのかと。

あ、メンタルヘルスグループの僧侶の相羽さんは、檀家の奥さんとの不倫から、逃避行して心中未遂したらしく、失楽園なのか太宰治なのかわけわかりません。そんな騒ぎ起こしても持ち直すお寺ってどこだろうと、後で柳田さんから聞いたら、かなり初詣とかでも有名なお寺でございました。まぁこの方もそれを乗り越え、現在はあおたんの「常連客」ということで人生謳歌し始めたようですが。

「ところで、魚さんって、死のうと思ったこととか無いんですか?」

「あるよ。」

「そうなんですね。聞きませんが。」

「聞いてよ」

「何で死ななかったんですかw」

「死にたくないもん」

「じゃあ死のうなんて思ってないじゃないですか」

「いやいやそうでもない」

「そうですか。どうも。」

「だから聞いてよ」

「はいはい、では話してよ。」

「ここに連れてこられて、死にたくなりました。」

「理事長に呼ばれてですか?」

「はい。」

「何言われたか、筒抜けで聞こえたけど、それであの時ご親族が迎えにきて帰りましたよね?あれは?」

「姉です」

「そうなんですね。」

「姉と理事長がグルになってボクの自由を奪っています。」

「理事長が言うには、皆を騙してお金借りてパチスロやったからなのでは?」

「騙してはいません。違う理由を言わなきゃ貸してくれないじゃないですか。」

(この人は、こういうところが頭がいいのか、天然なのかわけわからない。)

「その、違う理由を言わなきゃいけないほどパチスロやりたかったのですか?」

「他に何をやればいいんですか?」

「いやいや、家でテレビ見るとかゲームやるとかすればいいでしょ?」

「つまんないでしょ」

「そういや仕事はその時はもう行ってなかったんですか?」

「はい。半年前からしばらく来なくていいことにされてました。」

しかし、この人がここまで自分のことを言うのは、ここに来て1年以上経って初めてでした。いつも我々の話の輪から一歩離れて背後霊のように控え、女性関係の話題だけ鼻血を流す以外は何もなく、ミーティングでも「特にありません」くらいしか言わない人ですので。

「つまり、仕事干されてつまんなくなってパチスロやったら嵌って、金が無くなったんで知り合いから借りたと」

「はい」

「自分はギャンブル依存症だと思ってますか?」

「思ってません」

「なるほど、、そういやサラ金とかから借金はしてないんですか?」

「ないです。」

「今は止まってるんですか?」

「金銭管理されてるから、やりようがありません。」

「こないだ、あおたんを「ご利用」した時はどうしたんですか?」

「終わってから払うと言って持ってませんでした。」

「最低ですね。てかホテル代は?」

「そこは、淡河さんのやり方で、週末多めに出してもらいました。」

「で、『セクレタリアト』のとなりの『むらさき』ですか」

「あそこ安いです」

「やかましいです。しかもさらに本番強要したんですよね?」

「ふつうそうなりますよね」

「ふつうそうなりません。」

「そこまで出来なきゃ、やる意味がありません。」

「しかし、お金払わないでよく済みましたね。」

「はい。そのつもりで利用したのに、出来ないなんて詐欺だと言いました。」

(本当にこういうところは天才すぎる)

「なるほど。実質『裏営業』だし、警察に訴えるのもデメリットだし、そもそもここのメンバーさんという『信用』で「ご利用」できてたという盲点を見事に突かれてますね。本当に最低です。」

「最低なのは向こうだよ。」

(この「ハートの強さ」は尊敬します)

「それで、今は死にたいとは思わないんですか?」

「ここにいると、もんちゃんに会えるからね。」

「そんなもんですかw」

「つまんなくなったら、生きていても仕方ないよ。」

「まぁ、そこはそうは思います。」

そうは言えども、つまんなくなって「死にたい」と思ってもなかなか死ねずに、なんか少しでも面白おかしいことがあればこういう人は生きていけるんだなとも思いました。面白いことって些細なことならば、何もしなくても結構すぐに転がりこんでくるものです。

なんとなく、「生まれてこなけりゃ良かった」って思う人って、それだけ他者の見方とかを考えられるということで、他者から見れば「ソンナコトナイヨ」ということになるのかなと。

そして、このアディクショングループの方々みたいにそういうことを思わない方々は他者からみると「生まれてくるな」ってことになるんでしょうw

今回はここまでとします

GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ
















































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