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Rickey
2021年7月2日 11:20
ある町の朝。一日の眠りの中に光が訪れました。町の遠く向こう側に眠っていた太陽が現れたのです。太陽が起きてから少したつと、多彩な石畳やレンガや木材の道が広がる町の住人達はその日の準備を始めます。眠っていた空気の中に住人達の話し声や独り言が混ざり始め、機器の音や自然の音、動物達の音も現れ、クイナという町の朝のオーケストラが広がってゆくのです。 カラキランコロン。ある家の玄関の扉に吊るされた古びた鐘
2021年7月19日 17:46
「ゲロゲロゲロゲロミゲェロー!」「何おぅ!」 新鮮な魚を並べる体付きのよい中年の男、魚屋の主人ミゲロが店先に現れた夢の呼びかけに苛立ちながら反応しました。夢に気付いたミゲロはまた視線を手元に戻し、しかめっ面で魚を並べ始めました。意地悪っぽく笑った夢はミゲロにまた話し掛けました。「フフ、素敵な名前」「ガキ達にはしっかり教育しねぇと」 どうやらこの呼び名は子供達が勝手に付けた名前のようです。
2021年7月20日 12:46
賑やかだった町も住人も光も今は静まり返り、時計の針さえもコクリコクリと揺れています。家事を終えた夢は食器棚から一冊のノートを取り出すと、丸いテーブルの上に置きました。夢は毎日同じ時間にノートを広げ、触れてきた今日の事を記してゆきます。そしていつかの日の事を読み返し、懐かしさや新鮮な感動で心を満たすのです。「よし」 動き始めた夢のペンはスラスラスラと今日も軽快に進んで行きます。「南の国」そう呟
2021年7月21日 18:02
クイナの町の朝の気温は日に日に上がってゆきました。それと同時に町や自然から聴こえてくる音も様様増えてゆきました。「良かった、あったわ」 台所の吊り戸棚を開いた夢はそう言うと、中から瓶を一つ取り出し、そっと戸棚の戸を閉めました。夢が手に取った未開封の瓶には茶色の粉が入っていて、開封するとコーヒーの甘苦い香りが広がりました。コーヒーの粉の香りはこの最初の瞬間が最高です。「うん」 おばあさんと
2021年7月23日 13:52
ガタン、ガタン、ガタン、ガタンガタン。電車の揺れに身を任せ、おばあさんはロングシートの端に座り眠っています。 ガタン、ガタン、ガタン、ガタンガタン。おばあさんの隣に立つ夢は、ドアにもたれながら外の街並を眺めています。この場所から見える景色は夢にとってとても馴染み深いもので、チクリと胸を刺すような懐かしさを感じ、夢はそっと瞳を閉じました。「帰りにおば様が言ってたお店、クイナの駅のすぐ側のお店
2021年7月26日 17:54
「自分が出来ると思う事や、やりたい事を自分で否定しないで。おば様は一人じゃない。何があっても私は大丈夫だから」 あの日夢がおばあさんに伝えた言葉です。自分を想ってくれる人が周りに沢山居たとしても、心が一人になってしまう時があるのです。誰にもどうすることも出来ないと絶望してしまう時があるのです。それでも本の一瞬でも心の支えになれたなら、夢はそう想い気持ちを伝えたのでした。 それから数日間は、おば
2021年8月6日 16:30
瓦の屋根が特徴的な平屋の家。クイナの町には珍しく和の色や形が広がっていて、住人であるミロクおばあさんの性質がそのまま表れているようです。更にここには同じ家一軒分ほどの庭があり、今日もまた降り注ぐ太陽の光、風にそよぐ樹木や雑草、そんな中で日光浴をする古い畳、そして賑やかな声が聞こえてきました。「コラァ! 上だ上持て!」「違うお前の足がグラグラしてんだろ! ちゃんと立て!」 フクが支える脚立の
2021年8月13日 15:03
キラキラキラ。夏の香りに満たされたクイナの丘を子供達は駆け回り、空から見下ろす太陽は、キラキラキラ、エネルギーを与えるようにクイナの全てを輝かせます。「おば様!」 買い物をしていた夢はおばあさんの姿を見つけるとそう呼び掛け、笑みを零しながら駆け寄りました。「こんにちは!」 いつも元気な夢の挨拶。白色のロングスカートは風に揺れ、涼しさを感じさせました。 笑顔で「こんにちは」と挨拶を返した
2021年8月21日 17:49
輪郭のハッキリとした夏の雲。丘を掛ける午後の風。いつも賑やかなおばあさんの家。「どうだったの?」 昼食が用意された卓袱台に付いたみんなが「いただきます」と手を合わせた直後の事でした。おばあさんにそう話し掛けたオッカは、先日喫茶店で話した介護の事やケンシの事が気になっていたのです。箸を置いた夢も同じようにおばあさんに目をやり、ケンジとフミは手にした箸を止めました。「そうさね、自分の部屋の事は
2021年9月17日 14:54
重く唸る機械の音。リズムに乗って噴射する水の音。工場内に響く男の声。只今三ツ星鉱泉所はジュースを製造中です。「親父、アップルの用意できたわ」 工場内のロフトの中で作業をしていたカッチは顔を外に突き出すと、一階で作業をしているジフィにそう声を掛けました。ジフィはベルトコンベアに流れる洗浄された空瓶の状態を見ていて、そこから視線を外すことなく「ああ」とだけ返事をすると、綺麗になった瓶をケースに詰