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小説「美しきこの世界」

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この小説は、ALSになった母と僕二人の生活、そして僕自身の人生をそれぞれの主人公達にのせて描いた世界の物語です。二度と自分を許さないと決めた僕の「そうでありたかった」そんな世界に…
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2021年8月の記事一覧

小説「美しきこの世界」 七

小説「美しきこの世界」 七

 瓦の屋根が特徴的な平屋の家。クイナの町には珍しく和の色や形が広がっていて、住人であるミロクおばあさんの性質がそのまま表れているようです。更にここには同じ家一軒分ほどの庭があり、今日もまた降り注ぐ太陽の光、風にそよぐ樹木や雑草、そんな中で日光浴をする古い畳、そして賑やかな声が聞こえてきました。
「コラァ! 上だ上持て!」
「違うお前の足がグラグラしてんだろ! ちゃんと立て!」
 フクが支える脚立の

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小説「美しきこの世界」 八

小説「美しきこの世界」 八

 キラキラキラ。夏の香りに満たされたクイナの丘を子供達は駆け回り、空から見下ろす太陽は、キラキラキラ、エネルギーを与えるようにクイナの全てを輝かせます。
「おば様!」
 買い物をしていた夢はおばあさんの姿を見つけるとそう呼び掛け、笑みを零しながら駆け寄りました。
「こんにちは!」
 いつも元気な夢の挨拶。白色のロングスカートは風に揺れ、涼しさを感じさせました。
 笑顔で「こんにちは」と挨拶を返した

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小説「美しきこの世界」 九

小説「美しきこの世界」 九

 輪郭のハッキリとした夏の雲。丘を掛ける午後の風。いつも賑やかなおばあさんの家。
「どうだったの?」
 昼食が用意された卓袱台に付いたみんなが「いただきます」と手を合わせた直後の事でした。おばあさんにそう話し掛けたオッカは、先日喫茶店で話した介護の事やケンシの事が気になっていたのです。箸を置いた夢も同じようにおばあさんに目をやり、ケンジとフミは手にした箸を止めました。
「そうさね、自分の部屋の事は

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