死を無駄にしないために…

自ら死を選ぶということ

2020年7月18日、大好きな俳優 三浦春馬さんが亡くなりました。とてもショックで悲しすぎて、「自死」と報道されていますが、何故だろうという思いが止まりません。彼が死をもって訴えたかったこととは何だったんだろう、と考えてしまいます。

この件と直接は関係ありませんが、数年前、とてもお世話になっていた学校の先生も、突然亡くなりました。個人的な見方ですが、この二つに共通する点は、30代、男性、とても仕事ができる、周りに期待され慕われている、責任感が強い、安定した大きな組織に所属している、そして、直前まで普通にお仕事をしていて自ら死を選んだ、ということ。

ご遺族はもちろん、周囲の方々のショックは相当なものだろうし、私も未だにこのお二人について「どうにか防げなかったのか」「何かしてあげられたことはなかったのか」という思いを引きずっています。死を無駄にしないために、この社会でこれ以上増やさないために。

日本において若い世代の自殺は深刻

最新の厚生労働省 自殺対策白書を読むと、以下の様に記載されています。

我が国における若い世代の自殺は深刻な状況にあり、10~39歳の各年代の死因の第1位は自殺となっている。こうした状況は国際的にみても深刻であり、15~34歳の若い世代で死因の 第1位が自殺となっているのは、先進国では日本のみで、その死亡率も他の国に比べて高いものとなっている。

最新統計(平成29年)にて、男性の10歳〜44歳まで、死因の第1位に自殺が並び、割合としても2位以下の死因(事故や癌など)に圧倒的な差がついています。女性よりも男性の数の方が多い傾向にあります。周囲に実例がないと実感が湧かないかもしれませんが、日本における深刻な社会問題となっています。この状況を、どうにか改善できないものでしょうか?

まだ若く働き盛りの人が、死を選ぶまで追い詰められるのは、どういうことなのでしょう。性格、労働環境という二つの視点で考えてみたいと思います。

ストイックで真面目な性格

あくまで一般論ですが、真面目な性格で自分に厳しい人ほど、仕事に対して真摯に取り組み、完璧を目指したい、もっと良いものを提供したい、失敗は許されない、などと自分を追い込んでしまうでしょう。どんな仕事にも妥協を許さず、常に高みを目指して努力し続けるので、周囲にも高い水準を求めてしまうかもしれません。

そういう人は、なかなか息抜きができなかったり、理想と現実のギャップに悩んだり、どうにかそれを埋めようと、知らず知らずに重い負荷を自分にかけていたかもしれません。また真面目や律儀な人ほど、自分の理想通りに進まない現実に対して、深い喪失感を覚えるかもしれません。さらに、自分のせいで他人に迷惑を掛けたくない、という気持ちも人一倍強く、気付かぬうちに自分の限界を超えるまで自身を追い込んで、取り返しのつかないことになってしまうこともあります。

常に忙しく休まらない労働環境

学校の先生は、特にクラス担任をしていると、一年中ハードワークで、休みも取りづらく、一般企業よりも手作業やペーパーワークが多いですし、学校行事や放課後の部活顧問などプラスアルファの仕事も多く、過酷な労働環境で知られています。また硬直した組織における上の役職者への配慮や、モンスターペアレントへの対応にも神経をすり減らしていると思います。それでも、「子どもたちのために」という使命をもって、懸命に取り組んでくださる先生たちに頭が下がります。

三浦さんの場合、今年わかっている作品や番組だけで少なくとも、複数の映画、単発・連続ドラマ、主演舞台2本、週次TV番組MC&取材ロケ、歌の作詞作曲・リリースやそれにまつわる歌番組やイベント、本や写真集の出版、グローバルブランドのアンバサダー、未公開のCM等の仕事が入っていたようです。どれも主役や主要なポジションのお仕事ばかりですので、役作りの準備、覚えるセリフ量、関わる人数も多いでしょうし、それにかかるプレッシャーは相当なものと思われます。特に劇場で大きな作品の主役を張る、失敗できない生の舞台、他のことをやりながらこれを1年に2本というのも、想像を絶します。表に出ている情報だけですので、裏にはこれ以外の仕事も、大なり小なり同時並行でこなしていたと思われます。合間に、語学の勉強や免許の取得などにも励んでいたとのこと。家に帰ってもSNSを更新しファンへメッセージを送るこの世の中。望んだ仕事もあれば、望まない仕事もあったでしょう。やりたくないことでも断りきれなかった仕事もあるかもしれません。いずれにせよ、このようなペースで仕事を続けていたとすると、1人の人間が全力でこなしていくには、とても過酷なスケジュールであり、尋常ではない重圧ではなかったでしょうか。またコロナ禍において、特に舞台やライブイベントについて大きな変更を余儀なくされ、現場の混乱や、仕事がなくなるのか、という先が見えない不安もあったのではと想像します。

正常な判断ができなくなる状況

人は過労や未知の出来事により過度なストレスがかかり続けると、寝不足も重なり、脳が正常な判断ができなくなると言われます。疲れているときは休めばいいとか、当たり前の判断もできなくなります。もっとSOSを出せばよかったとか、悩みを相談してくれたらよかった、という意見もありますが、「自分の力ではどうしようもできない何か」に本当に追い詰められたとき、普通の状態だったらできた判断ができなくなってしまうということがある、ということを知っておきたいです。

周りのケアが大切

どこの組織でも、できる人にどんどん仕事が偏る、という傾向はあります。仕事ができ、意欲があり、こなせる人に、周りは「この人なら」と任せてしまう。本人も、自分ならできる、期待に応えたい、とがんばる。それがエスカレートすると、どんなに「できる人」でもキャパオーバーになりがちです。そこで重要になるのが、会社であれば上司、芸能人であればマネージャーの、個々に応じた冷静な見極めです。

三浦さんのような多忙を極めるトップクラスの俳優さんに対し、専属マネジメント契約を結んでいる事務所の管理体制や心身のサポートはどのようなものだったのでしょうか。相手は機械ではなく生身の人間ですから、芸能の世界は旬があるとはいえ、仕事が取れるうちに利益優先で詰め込むのではなく、「心身共に万全でいられる状態」を確保できる程度に仕事量を調整するマネジメントが必要ですし、送り迎え等最低限の安全確保から、特に心のケアというのは、長い目で見るととても重要だと思います。事務所にとって「商品」であるタレントが体を壊してしまったら、元も子もないです。芸能界では、タレントの替わりはいくらでもいる、という考えかもしれませんが、彼のような世界でも通用する逸材は、日本の芸能界にとっても唯一無二の貴重な存在でした。数々の作品から素晴らしい演技を通して、多くの感動を与えてくれた彼には感謝の気持ちでいっぱいです。

日本の若者の自殺を防ぐには?

①個人のメンタルケア力を上げる

欧米の学校では、パストラル・ケア( Pastoral Care: 心理療法的なケア)やウェル・ビーイング(Well-being:  身体だけではなく、精神面、社会面も含めた新たな/本当の意味で健康であること)の考え方が浸透しています。多くの学校で生徒の健康を維持するための方針がアカデミックなカリキュラムと同等の扱いで明記されていますし、生徒が心身の健康を自分で保つ術を身に着けるための授業が充実しています。それも年に数回そのような講義があるのではなく、通常の時間割にWell-beingの授業が組み込まれており、年間通して生徒が「体も心もHealthyでいられるにはどうしたらよいか」に向き合うことになります。

日本でそのような指導はどのくらい普及しているでしょうか?道徳の授業で扱うような、「約束・規律・ルールを守る」「親切・思いやりの心」なども社会の一員として大切ですが、大人になる前に「自分の体と心の健康にどう目を向けるべきか」を教えることも、この時代にとても必要だと思います。

②仕事量の配分を考え、組織で見守る意識をもつ

組織の管理者は、仕事を与える側の責任として、大人だから、プロだから、と任せるだけでなく、仕事量の配分が適切かを考え、よいモチベーションを保てるような配慮や環境づくりを意識する必要があります。そのような管理者向けトレーニングもあります。管理者も忙しいので、学校や会社の専門カウンセラーや相談員が入ったり、外部のアシスタントプログラムも活用しながら、組織でサポートすることも可能です。こういったもので、異変に気付いたり、個人が危機的状況に陥ることを防いだり、直接SOSを出すきっかけになるかもしれません。

また①のように個々の意識レベルが上がると、周囲の人の様子にも目を向けられる人が増えていきますので、社会全体で個々の気持ちを尊重し寄り添える空気が増えていくとよいなと思っています。繰り返しになりますが、15~34歳の死因1位が「自殺」というのは、主要先進7カ国(G7)の中で唯一の日本。どうか未来の日本は、将来の可能性溢れる若者が少しでも生きやすくなるように、祈っています。

追伸。訃報に接し、ヨルシカさんの曲が悲しく刺さります。


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