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2024年3月、京都大学経営管理大学院MBA課程を修了した自分に問う

以下は、2022年2月時点の自分の、中小企業に共通する経営課題と経営コンサルタントとしての自身の課題認識を整理し、MBA課程修了後の自分に成果を問う独白文です。


中小企業が抱える課題

中小企業診断士としての活動開始から3年弱。
今、見えてきた多くの中小企業に共通する課題は、戦略不在です。
経験上、戦略不在の主な要因は以下の2つです。
まず、経営者の多くが、プレイヤー>マネージャーである点。
中小企業では、経営者自身も社内の一流・一線の技術者・専門家であり、最前線で業務を担当しています。
こうした状況の中では、落ち着いて、俯瞰した目線で市場全体や顧客・競合を捉え、その大きな時代の変化を読み、未来の自社の位置取りを考える、という思考のゆとりはなかなか生まれません。

次に、成長市場での成功体験の呪縛です。
創業直後の方を除いて、多くの経営者が現在のビジネスモデルで大きく成長した経験をされています。
特に、90年代までは日本経済全体が成長軌道にあり、「誠実に、品質を高めていけば、自然と顧客が増え、売上が増え、利益も増える」という状況でした。当時を知る経営者は「今は、なぜこんなに頑張っても苦しい状況がつづくのか」という疑問を心の奥に抱えながら、日々の経営に取り組んでいます。

この間の変化で最も大きなものは、生産年齢人口の減少です。90年代半ばをピークに生産年齢人口は減少に転じている上、高齢人口比率の上昇とともに現役世代の負担が増して可処分所得は下落し、2000年代以降は構造不況ともいうべき経済状況が続いています。
多くの業種において、2000年以降市場が縮小しており、外部環境を俯瞰して顧客視点で新たな市場機会を見つけて生き残りのための戦略方針を考えるべき時機を迎えていますが、成長市場での「誠実・品質」という受け身の成功体験が足かせとなり、積極的に仕掛けていく戦略発想への切り替えが難しくなっています

「経営とは、外部環境適応である」

これは、シスメックス株式会社代表取締役会長兼社長 CEO 家次 恒氏の言葉です。経営とは、つまるところ、現在の環境に適応して存続できるよう、会社を変化させることだ、ということです。

生物もまた、環境に適応できるよう変化を繰り返して進化し、生き残りを図りますが、「進化」は勝者の結果であって、リアルタイムではただ無数の「変化」が生じています。進化につながるのはそのごく一部で、その裏側には無数の死につながった変化もあります。
だからこそ、会社には戦略が必要なのです。
会社の未来を運に任せず、存続できる可能性が高い方向を見極めて、積極的に変化を起こすのが、経営戦略の発想です。

生産年齢人口減少と可処分所得低下のダブルパンチで構造的経済低迷を続ける日本経済の中にあって、戦略不在の状況は危機的です。

足りない要素は、買えばいい

では、今、戦略不在の状態にある中小企業はどうすればいいのか?
経営者が、自分の仕事を放り出してビジネス書を読みふけったり、MBAコースに通わなければいけないのか?
否、その分の時間と労力を、買えばいいのです。

経営者(経営チーム)に求められる要素は、以下の3つです。
(Value up tipsのおさらいですね!)

  • 会社の生き方・ビジョン・価値観を提示するアート要素

  • 価値ある商品・サービスを現実に生み出すクラフト要素

  • データや知識をもとに合理的経営判断を下すサイエンス要素

このうち、会社の魂・存在意義に関わるアート的要素や、事業の根幹であるクラフト要素は会社内に不可欠ですが、サイエンス要素は、必ずしも社内の人材が全てを担う必要はありません。

会社組織によって、経営企画/社長室/財務、などと呼ばれるこのポジションは、人員規模に余裕が出るまでは、「経営コンサルタント」として外部調達すればよいわけです。

買ってきた外部コンサルタントに考えさせて、その知識と情報をベースにして自分の頭を整理し、対話を通じて戦略発想をはじめとする経営の考え方を吸収しながら、会社の進むべき方向を選択すればよいのです。

戦略形成に際して、経営コンサルタントに求められる能力

では、会社の戦略形成を外部からサポートするために必要な能力は、何か。さらに今の自分に不足する能力は、何か。この3年弱の経験から、おおよそ以下の3点ではないかと考えています。

  • 外部環境及び事業状況・財務分析の知識と実務能力

  • 経済・経営に関する理論知

  • 批判的精神と哲学-教養

実務能力は、現状分析のスキルであり、企業のおかれた現状を正確に理解するために不可欠です。学部時代に知識を蓄え、これまでのキャリアで実践し、養ってきたところです。

一方、理論知は、現状分析で得られた情報を解釈し、未来の可能性を描くための思考ベースです。様々な理論知、場合によっては経済学・心理学・社会学・進化生物学の知見も取り込んだ経営理論に立脚することで、世界中の無数の企業のtrial and errorの経験値を活用し、初めて経験する場面でも、様々な選択肢の先にある未来の可能性を描き出すことができます。

最後に、理論知から描かれた複数の未来の可能性のうち、どのリスクを取るのか。そこは、正解もべき論もない、真っ白なキャンバスの上の自由な「選択」です。その選択のよすがになるのは、つまるところ、この会社は何のために存在しているのか、私たちは何のために働いていたいのか、という、その人の生き方・哲学です。

3つの要素のうち、実務能力は及第点でしょう。
一方、理論知は、日本の学部教育レベルを20年間一般書籍でアップデートしたもので、理論を自分のものにして自在に使いこなすには、今一度、経営学の最前線へのアップデートと深堀りが必要です。哲学と批判的精神の内、哲学については、人生経験豊かな経営者と、対等に会社の生き方を議論できるだけのバックグラウンドが足りない。年齢による経験不足のハンデは、学問で補うしかありません。

遠くを照らすのは、学問

中小企業経営の成果を考えると戦略形成に至り、戦略形成を突き詰めると、たどり着いたのは学問でした

経験知は、確実に足元を照らしますが、変化する時代の中で、その数歩先、更にその先は見通せません。そんな時、遠くを見通すために必要になるのが理論知です。古今東西の事例から法則性を抽出した理論知は、未経験の状況でも、遠くを照らすことができます。
更に、照らし出された様々な可能性の中で、どの道を選ぶのか。それは、選択です。今、先進国には豊かさが行き渡り、社会の必要を満たすための企業ではなく、よりよい日々、より良い世界を提案する、社会の一員としての企業が求められています。
民主主義社会の一員として、現状を批判的精神で捉え、より良い日々・よりよい社会は何かを自ら考え、選択する、ということは、すなわち哲学です。カントがどうのヘーゲルが云々という話ではなく、自社はどんな社会を理想とするのか、を積極的に考えて、行動する姿勢が、企業にも問われています。

2024年3月の自分に問う、経営者の頭の中にイノベーションを起こせるか。

会社の進化の前に変化があり、会社の変化の起点は経営者の頭の中です。
今、私は経営者の頭の中に変化を生み出せるだけの背景知識を得ているか?
豊かな人生経験と慧眼を持つ経営者らと会社の将来を語り合える自分の哲学を持てているか?
そもそも、此処に今書いている自分の見立てや課題意識は、的を射たものであったか?

2024年3月の自分が、本文を、
「考えが浅すぎて議論する気にもならない。」
と、一蹴してくれいていることを、強く望みます。

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