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あなたは同僚に本音を語れますか?中竹竜二が語る『問い』の力:『スポーツの価値再考』#003【前編】

2020年夏、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第3回の対談相手は、早稲田大学ラグビー蹴球部元監督の中竹竜二さん。組織文化を育む過程では「問い」が起点となると唱えます。「文化を持たない組織はない」と語る中竹さんの組織文化論とは。

組織文化を育む『問い』の力

辻:この度はお時間いただきありがとうございます。
中竹さんはスポーツコーチングJapanを設立されるなど、「コーチのコーチ」として指導者の育成に力を注がれていますよね。株式会社チームボックスでは、スポーツのエッセンスをビジネスの世界に応用するなど、様々な領域を跨いで活躍されています。そんな中竹さんにとって、今一番関心がある分野はなんでしょう?

中竹:今は組織がもつ文化に関心があります。
今までは企業の人材育成や、マネジメントのフレーム作りを中心に活動してきました。しかし、いくら人を育て、マネジメントの仕組みを導入しても、組織がもつ文化そのものが変革しないと、時間が立つと元の状態に戻ってしまいます。それでは根本的な解決にはなりませんし、発展もありません。

安西:組織が持つ「文化」といったものは、「雰囲気」と同様に肌感覚でしか掴めないと思っていましたが、体系的に扱えるものなんでしょうか。

中竹:確かに長年肌感覚の域を出ませんでした。しかし最近はIoTが進化して「組織文化」を可視化できるようになり、研究分野としても確立してきている印象です。

辻:なるほど、組織文化が定量化できるようになったんですね。組織文化を可視化した後、たとえば「競争世界の中で勝ち続けていく」といった組織文化はいかにして醸成できるのでしょうか。

中竹:組織文化の醸成には3つのフェーズがあると思っています。
①文化を知る。
組織文化というものは潜在意識の部分にあり、習慣化しているものです。だからなかなか気付くことができないんですね。だからまず自分たちについて知るところから始めます。

②文化を変える。
理想とする組織文化と現状の組織文化のギャップを認識し、変化させていきます。

③文化を継続し、進化させる。
理想とする組織文化に近づいた後、それを継続させ、時代の流れに応じてさらに進化させていきます。

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この、「知る、変える、進化させる」という3つのフェーズが大切だと考えています。

辻:そのフェーズは組織の規模とは関係ありますか?

中竹:組織全体の規模は関係ないですね。結局人は、自分が見える範囲で生きているので、どんな組織でも手が届く小さな単位から変えていきます。3万人の従業員がいる会社でも、トップだけではなく、現場にいる社員がいかに自分たちの組織の文化を理解し、大事にしているかが大切です。

辻:なるほど。では文化を「知る、変える」に続く、「進化させる」フェーズでは何が大切になるのでしょうか。

中竹:とにかく「問い」が大切です。組織文化とはつまり「組織が大切にしていること」。これは潜在意識にあるため、みなに丁寧に問いかけ続けないと言語化できません。

辻:「問い」を立てることは大切ですが、とても難しいことだと思います。なかなかできることではない。そのためには人材もキーになりますよね。

中竹:まさにその通りです。
現在は、企業におけるマネージャー、スポーツにおけるコーチという、指導者の立場にある人が「答え」を出すことに終始してしまっています。「答え」ではなく、適切な「問い」を立てられる人材がいないと組織を進化させることは難しいです。

安西:「問いを立てる」という行為は、ただ答えを知っているだけでなく、その答えをさらに高い視点から見つめ直す、いわゆる「メタ認知」する力が必要だと考えています。
しかし、問いを立てられる人材は体系的に育成できるものなのでしょうか。

中竹:「問い」というと抽象的な話なので難しい印象がありますが、私が投げかける問いはとてもシンプルです。「あなたは本音を語れていますか?」といったように。

安西:正解・不正解のように脳みそで判断できるものではなく、感性を確かめるような問いを投げかけるんですね。

中竹:はい。ここで誤解されやすいのは、「本音を語れない」=「組織文化がない」ではないということです。どんな組織にも文化は必ず存在します。本音を語れない組織というのは、「本音を語るために建前が必要な組織文化」が根付いていると言えます。

安西:なるほど、だからこそ「組織文化がないから作ろう」とするのではなく「組織文化を知る」というフェーズからスタートするんですね。

中竹:最近では組織文化を専門に手掛ける、CCO(Chief Culture Officer)という役職を設置する企業も増えています。

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「組織文化」は勝つために必要なのか?

辻:ビジネスの現場で組織文化・カルチャーはもちろん大切になりますが、スポーツにおいてはどうでしょう?

中竹:スポーツ界では2つ嬉しいことがあります。
ひとつは「組織文化」という概念が浸透してきていることです。昔から「組織文化」というものについてセミナーなどで発信してきましたが、海外の影響もあり最近になって一気に広まりました。
次に、自分たちの組織の文化を知り、進化させたチームが成果を出し始めていることです。
大学スポーツにおいては「伝統校」といった存在がありますが、伝統にしがみついている状態では豊かな組織文化があるとは言えません。旧態依然としており、現役の学生も苦しんでしまいます。しかし、単なる伝統を超え、自分たちの組織文化を見つめ直し、勝つチームが現れています。

辻:すばらしい兆候ですね。そういった変化が起きているのは指導者の影響が大きいのでしょうか。

中竹:結果を出している指導者の方々は必ず組織文化を重んじていますね。挨拶をする、ゴミを拾うといった、組織文化の醸成に徹底的に取り組んでいます。「強い選手をスカウトしているから勝てるんだ」という声もありますが、強い選手が多いチームなんてごまんとあります。全国を制すようなチームは、必ずといっていいほど良い組織文化を持っています。

辻:指導者という観点では、スポーツの枠を超えて教育も一種の指導ですよね。教育についてはどのようにお考えでしょうか。

中竹:私は相手が子どもであろうが大人であろうが、常に同じスタンスで接します。というのも、“When one person teaches, two people learn.” (1人が教えるとき、学ぶのは2人)という考え方があるんですね。相手が誰であれ、教えるときには自分も同時に学んでいるんだということを忘れないようにしています。
これはスポーツのコーチングにおいても同じで、コーチと選手を分離して考えるのではなく、ともに学び合う「co-learning」という姿勢を大切にしています。

辻:組織文化という概念が普及し、意義についても理解されてきているのは良い兆候ですね。しかし、まだまだ組織文化を醸成させる意義を感じていない人、組織も多いと思います。そういった相手にはどのように意義を伝えるようにしていますか?

中竹:それも「問い」ですね。だから、まずは相手が考えていることを聞く。その上で僕から問いかけるようにしています。人間は自分の知らない価値観を押し付けられてもなかなか受け入れられません。

安西:頭ごなしに「文化が大切なんだ!」と言っても伝わらないですもんね。

中竹:多くの指導者の話を聞く中で感じたことですが、勝利至上主義の信念を持っている方は往々にして時間軸が短いです。短い時間軸の中では、たしかに勝利=成功と言えます。しかし、長い時間軸で考えてみると、勝利を追求する過程で体を壊してしまったらどうするのか、その過程で得たことを将来どう活かすのか、といったことに考えが及びません。

そもそもスポーツの世界では頑張っても勝てない人が大半です。「負けてしまったら何が残りますか?」という問いがきっかけになることが多いですね。

辻:まさにその通りですね。スポーツの世界では99%の人が負ける。だからこそ「なぜスポーツをするのか」という問いをたて、スポーツをする目的に気づく必要があります。この問いは「負けてもいい」という考えとは全く異なるものですが、あまり意識されていないですよね。

▼第3回対談の後編はこちら。

▼プロジェクトについて語ったイントロダクションはこちら。

プロフィール

中竹竜二(なかたけ りゅうじ)
1973年福岡県生まれ。早稲田大学ラグビー蹴球部において主将を務めた後、2006年からは清宮元監督を継ぎ監督に就任。チームを全国大学選手権連覇に導いた後、ラグビーU20日本代表のHCなどを歴任。2014年に株式会社チームボックスを設立し、大企業から中小企業まで多くの企業で、スポーツマネジメントの知見を基にした組織変革を実施。『リーダーシップからフォロワーシップへ』『自分で動ける部下の育て方』など著書多数。
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」、「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji

安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
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