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「スポーツ」≠「体育」。「楽しくなければスポーツではない」と語る荒木絵里香のスポーツ人生。:『スポーツの価値再考』#005【前編】

2020年、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第5回の対談相手は、バレーボール女子日本代表の主将を務める荒木絵里香さん。バレーボール強豪国イタリアで出会った、女性アスリートたちの自由なライフスタイルとは。アスリートの新しいライフスタイルを開拓し続ける荒木さんとの対談を前後編2回に分けてお届けします。

※この記事は、2020年9月20日、Instagramを通じてライブ配信された対談を文章化したものです。

「イタリアでは、女性アスリートの新しい姿を知ることができました。」

辻:今回で『スポーツの価値再考プロジェクト』も5回目となりました。荒木さんとともにスポーツの価値について考え直す中で、子育てや女性のライフステージについてもお話ししたいと思っています。

荒木さんは北京、ロンドン、リオ、東京と4大会連続でオリンピックメンバー入りをしていて、ロンドンオリンピックでは主将として28年ぶりのメダル獲得に貢献するという華々しいバレーボール人生ですが、2004年のアテネ大会では選考落ちをされていたんですよね。北京大会で初めて代表入りをしたときにはどんなことを感じていましたか?

荒木:絶対に結果を出してやろう、ととにかく燃えていました。実は代表入りしたときには、オリンピック後にイタリアへ移籍することが決まっていて、世界で活躍してやるぞという夢も相まってギラギラしていましたね。

辻:荒木さんって、もちろんとても強いエネルギーを持っている方だけど、同時に穏やかでもあるからあまりギラギラしている姿を想像できないな笑

荒木:当時は24歳とまだ若くて、とにかく自分がどれだけ活躍して結果を残せるかということだけ考えていました。

辻:自分自身の成長にフォーカスしていたんだね。じゃあイタリアでは選手としてすごく自分を成長させられたんじゃないですか?

荒木:夢を持って移籍したはものの、正直なところバレーボールの面では頭打ちを感じました。イタリア国内でも強豪とされているチームで、ほとんど試合に出られなかったんですね。
プレーの面ではなかなか成長できず苦しいこともありましたが、一方で女性アスリートの新しい姿を知ることができたことはその後の人生にとても良い影響がありました。

辻:日本とイタリアでは、女性アスリートの生き方は異なるように感じましたか?

荒木:全く違い、驚くことばかりでした。日本ではプライベートの自分と選手としての自分を切り離して考えることが良しとされていますが、イタリアでは全て一体となっているというか。練習に彼氏を連れてきたり、結婚して子どもがいる選手が普通に活躍していたり。

安西:日本では考えられない光景ですね。スポーツが過度に神格化されず、生活に結びついているんだろうなと思います。

荒木:イタリアでの経験がなかったら、今こうして結婚して子育てもしながらバレーボールを続けていることはなかったと思います。妻として、母として、そして荒木絵里香という一人の人間として、プライベートの時間を大切にしても良いんだと自信を持てました

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「スポーツ」≠「体育」。「楽しくやっていないんだったら、それは『スポーツ』ではない」という父の言葉。

辻:なるほど!日本は未だに保守的な考えが強くて、スポーツ選手としての人生と自分の人生を区別して考えることが多いですよね。でも本当はスポーツもプライベートも、すべてひっくるめて「自分の人生」がある
これだけ海外との文化の交流が当たり前になったのに、日本ではどうして分離してしまうんでしょう。

安西:スポーツが「教育」の文脈で語られているのが理由の一つだと思います。

辻:たしかに。日本のスポーツは「体育」と同義にされることが多いからね。

安西:日本では昔から、指導者(=スポーツをやらせる人)と選手(=スポーツをやる人)という対立構造が明確にあって、指導者の指示に従ってストイックに、規則正しく行動することが是とされることが多いです。そこで「自分」を出すことは、「体育」としてはよろしいことではなくて、その考えが社会全体に浸透してしまっているように思います。

辻:今の荒木さんは、その区別に縛られずに生きているように感じますが、家庭や学校ではスポーツについてどのようなスタンスで接せられてきたんですか?

荒木:高校生のときに父から言われた、「楽しくやっていないんだったら、それは『スポーツ』ではない」という言葉は今でも印象に残っています。勝つから楽しい、できるから楽しい、ではなくて、負けても苦しくてもスポーツは楽しいものであるはずなんですね。それに気づくことができました。

辻:素敵な考えのお父さんですね!

荒木:小さい頃から水泳や陸上などいろいろなスポーツを習いましたが、どれも競い合うためではなくて身体の基礎が大切という両親の考えのもとでした。もちろん私自身は勝ちたいという思いを持っていましたが、両親に勝利を求められることは全くなかったですね。

安西:ではバレーボールも最初は勝ちたいというよりも楽しむことを重視されていたんですか?

荒木:そうですね。初めて入ったチームが、今では考えられないほどの超スパルタで。ただ、辛くはあったけど私自身はなんとなく続けようと考えていたんですね。でも結局両親に反対されて辞めることにしました。

辻:そこで無理に続けていたら強くなる以前にスポーツ自体を嫌いになってしまっていたかもしれないですよね。

荒木:中学校を選ぶときにも、私は強豪校に進学したかったんですがそれも両親に止められました。今振り返ると、小学校と中学校という、基礎を育む期間にスポーツを純粋にエンジョイできる環境にいさせてもらえたことは、とても恵まれていたと思います。

安西:日本のスポーツ界では小学校の段階から勝利至上主義の世界が始まりますもんね。

辻:海外だと勝利至上主義が始まるのは大学の大会からで、高校までは荒木さんのご両親のような考えがスタンダードです。
高校生になるときに上京されたとのことですが、何かきっかけがあったんですか?

荒木:幸いなことにスカウトしていただけて、ちょうど父親の東京転勤も重なって、家族で東京に来ることになったんです。有名な強豪校だったのですごく躊躇いましたが、このときは逆に両親が背中を押してくれました。

安西:強制するのではなくて背中を押して支えるというスタンスが素敵です。

辻:入学したら、すでに全国で活躍しているような選手たちに囲まれたんですよね。

荒木:みんなエリート街道を歩んでいる選手ばかりで、私以外顔見知りだったりもしたんですが、とても暖かく迎え入れてくれました。なにより、顧問の先生の教育方針にはとても影響を受けました。

強豪でしたが、まったく怒鳴らないし怒らないんですね。選手が自分で考えることを大切にされていて、はっきりと「分かりません」と言える環境でした。いろいろなチームでプレーをしてきた上で振り返ると、それってすごいことだと感じます。

辻:「心理的安全性」が担保されている状態ですね。「分からない」と言えないと、理解できないことが蓄積してしまって、プレーも成長せず、そのせいでより怒られ、さらに質問しにくい環境になってしまう。まさに負のループに陥ってしまいます。

安西:高校3年生のときには春高バレー・インターハイ・国体の三冠を達成されていますが、当時からオリンピックを見据えられていたんですか?

荒木:実は、三冠を獲得するまではプロの道に進もうとは考えていませんでした。朝から晩までバレー漬けの日々は無理だろうなと。でも初めて優勝したとき、経験したことがないほど感情が昂って、家族や仲間とその思いを共有できたことがすごく嬉しかったんですね。こんな素晴らしいことはないなと感じました。そのときですね、将来もバレーボールの道に進もうと決めたのは。

▼第5回対談の後編は来週リリース予定です。

▼プロジェクトについて語ったイントロダクションはこちら。

プロフィール

荒木絵里香(あらき えりか)
1984年岡山県生まれ。高校時代に高校三冠を達成後、東レアローズへ入団。2008年の北京オリンピックから4大会連続で代表入りし、2012年のロンドンオリンピックでは主将として28年ぶりのメダル獲得に貢献。結婚、出産というライフステージを進みつつ、バレーボーラーとしても第一線で活躍し続けており、女性アスリートとして多数のメディアに出演している。
・HP:バレーボーラー荒木絵里香オフィシャルウェブチャンネル
・Instagram:@erika_araki_official
・Twitter:@erichina11
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」、「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
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