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ラグビーが廣瀬俊朗に教えてくれた、 「幸せに生きる」ためのライフスキルとリーダーシップ:『スポーツの価値再考』#002【前編】

2020年夏、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第2回の対談相手は、元ラグビー日本代表キャプテン・廣瀬俊朗さん。前編では、自分自身のモチベーションを高めながら幸せな人生を送るための「ライフスキル」について、廣瀬さんのもつアスリートならではの視点を交えた、白熱した対談の様子をお届けします。

草の根から広げるのが一番の近道

安西:廣瀬さん、はじめまして。日本ラクロス協会CSOの安西渉と申します。40歳を機に生き方をがらっと変えてみようと思い、今年の頭に12年間務めたIT企業のCOOを辞めて、今はラクロス協会というITと全然違う場所で働いています。

廣瀬:偉いですね、ラクロスのために。本当にすごい。

安西:僕はラクロスの未来をデザインしたいと思って協会に関わっていて、廣瀬さんが日本におけるラグビーのこれからについてどのように考えているのか、という話も聞けたらいいなと楽しみにして来ました。

廣瀬:そうですね。今自分がやっているスクラムユニゾン*やOne Rugby*といった活動を通して、少しずつだけれどラグビー界を変えたいという思いはあります。そういったお話もしたいですね。

スクラムユニゾン:廣瀬氏が中心となって行う、世界各国の国歌を広めていく活動。2019年に日本で開催されたラグビーW杯では「国歌で世界をおもてなし」というコンセプトのもと、出場国の国歌(アンセム)を通じた国際交流に貢献した。
One Rugby:ラグビー界における活発な交流と、ラグビーの価値向上を目指すNPO法人。2020年4月、廣瀬氏が理事長となり発足した。

辻:廣瀬さんはいろいろな活動に携わって、草の根のところから日本のスポーツを変えようとしていますよね。草の根から広げていくっていうのは、この「スポーツの価値再考」プロジェクトも同じですね。

安西:そうですね。まずは、ビジネス、教育、テクノロジーといった様々な社会の概念と、スポーツの間の相互作用をいろいろな切り口から話してみる必要があると思っています。そして最終的には、今スポーツに関わっていない人を含めた多くの人と一緒に、新しいスポーツ「価値」を見つけていきたいです。

辻:「スポーツは文化だ」という考えが僕の根底にはあります。ただ、文化って短期間で誰かが恣意的に為せるものではないから、一回メディアに取り上げられるだけでは形成されないですよね。文化を形成する源となるような考えを発信し続ければ、たとえゆっくりでも、届く人には届くと思っているよ。この活動も、Di-Spo*も、ラグビーの活動も、結局は地道にやっていく。対談相手としていろいろな人を考えたけれど、やっぱり廣瀬さん無しでは出来なかったな。

Di-Spo Lab:トップアスリートのもつ「心を整え、マネジメントする」ライフスキルに注目し、「ごきげん」であることの価値を社会に広めていく活動。辻氏が代表理事を、廣瀬氏が理事を務める。

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すべては「自分がこうなりたい」からはじまる

安西:廣瀬さんの本も拝読して、一番お聞きしたいのはやっぱりリーダーシップの話ですね。僕はここ10年間大学のラクロス部でコーチもやっていて、ラクロスが特別上手いわけでもラクロスを教えるのが上手いわけではない自分は、チームビルディングやものの考え方、思考の方法などを伝えています。そこでお聞きしたいことがあって、廣瀬さんにとってリーダーとはどんな人ですか?

廣瀬:まずは、「自分がどんな人になりたいか」、そして「どんなチームにしたいか」というのを持っていることがすごく大事だと思いますね。あとは周りを巻き込む能力も、もちろん必要になってくると思います。

辻:その最初の部分、「どんな人になりたいか」という像の描き方が気になりますね。目に見える目標の先にある「結局どんな人・チームになるのか」という部分は皆あまり掘り下げないじゃない。その持ち方みたいなヒントはありますか?スポーツに限らず、仕事や人生でも「像を描く」ことの難しさはありますよね。

廣瀬:自分の場合は、いろいろな人と話をするなかで「この人はこうやって生きたいんだ。じゃあ自分はなんだろう」って自然と考えることが多いですね。だから対話は本当に大事だし、違うコミュニティに出ていくことも大切だと思っています。

辻:でもそもそも、そういう会話や思考、「君はどう生きたいんだ」という話をする人が少ないよね。廣瀬さんはなぜできるのか、興味がありますね。

廣瀬:うーん、僕の場合はきっかけとして東日本大震災がありますかね。ボランティアに行った時に自然の脅威を目の当たりにして、「人間ってちっぽけだな、生かされているんだな」と感じたんですね。そこから、限りある人生をどうやって生きようかと考えるようになりました。

辻:なるほど、死を意識することね。唯一全ての人に共通しているのは、人生は死に向かっているということですよね。それは絶対に避けられない。そこで「死なないようにする」のではなく「どう生きるか」という方向に考えるべきなんだよね。

安西:今年の学生アスリート、特に4年生たちは、それに似た機会があるんじゃないかと思うんですよね。もちろんアスリートだけではないですけれど、人生を懸けてきたフィールドで結果を出すことができなくなった時に、強制的に自分の内側を向くしかないじゃないですか。

辻:たしかにそうですね。そして、「死」のような大きなきっかけが無くても考えられたら良いなと思います。今この瞬間は二度となくて、次の瞬間に自分が死ぬかもしれないということを認識すれば、自分と向き合えるようになるんじゃないかと。

ビジョンがチームをつくる

辻:「自分がどうなりたいか」というところと、「どんなチームにしたいか」っていうところにも違いがあって難しいんだよね。
あらゆるチームにおいて必ず大切になる「どんなチームになりたいのか」という部分について、廣瀬さんはどうやってそれを描いて、伝播させていますか?

廣瀬:僕は「ワクワク」からはじめたいです。自分たちがどんなチームになったらワクワクするのか、という考え方が好きですね。
伝えていくという意味でも、自分だったら最初の「どんなチームにワクワクするか」を考えるところから一緒にやると思います。みんなにとって自分事にしたいので。人数の多いチームであれば、全員に一度しっかり考えてもらって、アンケートのような形で意見を集めるのも良いと思います。

安西:なるほど。キャプテンがみんなの意見を知ることも大事ですけど、みんながそれぞれ時間をとって考えるということにも意味がありますよね。

辻:では、「ワクワクするチーム」という共通のイメージを言葉にした、スローガンや精神的なルール、エディーHC*のいう「誇り」や「理念」みたいものは大事にしているんですか?

*エディー・ジョーンズHC:2012年~15年にラグビー日本代表のヘッドコーチを務めた名将。就任時に廣瀬氏を代表キャプテンに指名し、のちに「ラグビー界でナンバーワンの主将」と称した。

廣瀬:大事だと思います。自分はそこにかなりの熱量を注いでいますね。これについても、チームのみんなと考えたいなと思います。みんなで話すと良い言葉が出てくるんですよね。

辻:行動のルールで「遅刻したら坊主」と縛る方が楽ではあるよね。手間はかかるけれど、その「理念」にコミットする原動力は「ワクワクしたい」につながるのかな。

廣瀬:そうです。あとは、自分自身がルールに縛られたくないというのもありますね。

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「働くこと」を幸せに変える方法

廣瀬:ルールに関連すると、ビジネス界・働く人を見ていて、自分が楽しく働いて生きられているのかというのは気になりますね。みなさん自分の興味関心を大事に、自分らしく生きているかっていうところで。

辻:俺はホワイト企業大賞の選考委員をやっていて、そこでは、社員が「幸せを感じているか」、「働き甲斐を感じているか」、「貢献感を得ているか」、の3つをポイントにしているんだよね。それを感じられるような経営なら業績は自然と上がるし、サステイナビリティも高くなる。
残業が無いとか、女性の役員数が多いとか、そういう見た目の数字だけでなく、みんながどう感じながら働いているかということも大事にしています。

安西:まだまだ「働くこと」と幸せが結びついていない人はいますよね。仕事ではストレスに耐えて働いて、給料日が待ち遠しいみたい考え方は未だに多くて。仕事と幸せがリンクしていることが大事だっていうことは、どうしたら伝えられるんですかね。

廣瀬:一つは、自分の子どもにどう見られたいかっていうのがありますよね。「ぶつぶつ言いながら仕事しているお父さんを見たいんですかね」っていうことは伝えます。あとはそれこそ、死ぬときになんて思われたいかということ。お葬式でどういう一言をかけられたいですか、という。

辻:そのうえでもなお、「上司は理不尽だし、仕事も楽しくないし、電車は混んでるし、給料は安いし」というように不機嫌の理由を言われたらなんと答えますか?

廣瀬:そういう方には、「自分で選んでいるんですよね」と伝えたいです。それを忘れている人は多くて、嫌ならやめればいいんじゃないですか、ということで。やめられない、というのも結局その人が決めていることですよね。

安西:結局すべては自分で決めているんだ、ということはどこで学ぶんですかね?

廣瀬:僕の場合は2014年に、当時日本代表のメンタルコーチだった荒木さんから「日本代表やめたら?」と言われたのがワッときましたね。キャプテンでなくなってしんどい時期だったけれど、代表をやめた自分を想像したらそれは嫌だったんですよね。それから頑張れるようになりました。

辻:なるほど。「そこにいること自体も自分で決めている」と分かったんだね。「嫌ならやめれば」は俺も子どもによく言うな。サラリーマンもそれを自問してみてほしいですね。
あと、選択肢のどちらが良いのか、という答えを知りたがる人が多いよね。でも結局は自分で決めて、その選択を良かったと思えるように行動することが大事だと分かっていれば、辞めるにしても残るにしても自分次第だと思えるんでしょうね。

▼第2回対談の後編はこちらからご覧ください。

▼プロジェクトについて語ったイントロダクションはこちら。

プロフィール

廣瀬俊朗(ひろせ としあき)
元ラグビー日本代表
1981年大阪府生まれ。北野高校、慶應義塾大学、東芝ブレイブルーパスでプレーした。2007年に日本代表へ初招集され、2012年からは名将エディー・ジョーンズHCのもとキャプテンを務めた。
2016年の現役引退後はラグビー選手会の設立や、スクラムユニゾンOne Rugbyの活動を通して、日本におけるラグビーとスポーツの発展に貢献している。2019年からは、Di-Spo Labの活動を通して辻秀一氏とともに「ライフスキル教育」にも取り組む。著書に「何のために勝つのか。(ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論)」など。
Twitter:@toshiaki1017
Instagram:@toshiakihirose
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。著書に「スラムダンク勝利学」「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009 


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