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大学スポーツで学ぶべきことは何か。明治大サッカー部監督・栗田大輔の「譲れないもの」:『スポーツの価値再考』#006【前編】

2020年、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第6回の対談相手は、明治大学サッカー部監督の栗田大輔さん。2019年にはチームを大学五冠に導き、数々のJリーガーを育ててきた栗田監督が語る、「大学スポーツで学ぶべきこと」とは。ユニークな指導法も必見の、対談前編です。

「パズルではなくレゴ」創造性と多様性を生むコミュニケーション

辻:今回は、大学スポーツの指導者として素晴らしい実績を残している栗田さんとともに、スポーツと人間教育の関わりをお話ししたいと思います。
コロナ禍における動きは、栗田さんの周りではどうでしたか?

栗田:新型コロナウイルスの影響で、明治のサッカー部も緊急事態宣言が出る少し前の段階で活動を中断し、寮生活をしている部員には帰省してもらいました。
4月から予定されていた公式戦が延期になっていたので、いつ活動が再開しても大丈夫なように準備していました。サッカーに関わる部分は選手たちが自覚を持ってやっていくので心配していなかったんですが、突然チームメートの顔を見られなくなって、メンタル面で寂しくなったり、気持ちが離れたりする部員がいないか、という部分を気にかけていました。

安西:なるほど。その課題に対してはどんな取り組みをされましたか?

栗田:自分なりにオンラインミーティングのあり方を研究しました。まずは全部員が集まるミーティングを毎週行って、60人みんなで顔を合わせる。それだけで繋がりを感じられますよね。あとは、小グループに分けて一人ひとりが話す時間をつくったり、個人面談を僕が全員とやったりしました。サッカーのことに限らず、地域ごとの感染症対策の状況といった社会の中の様々な話をすると、それはそれでおもしろいんですね。そういったコミュニケーションで心をつないでいました。 

辻:全員と面談するのはすごいですね。学生にとって栗田監督はどういう存在なんですか?二人で話すのは緊張するのか、それとも何でも話せる相手なのか。

栗田:選手からの目線は普段考えないようにしているんですが笑。勝負と成長に重きを置いている、「勝つ組織」を貫いているという面では、厳しさを感じることはあると思います。
ただ、選手一人ひとりの性格には違いがありますから、アプローチとしては押したり引いたりですね。明治に入ってくるのは、高校までずっとサッカーをやっていて結果も残してきた選手たちです。プロになれそうでなれていないという実力なので、みんな成長への欲求は大きく、現状に満足することはありません。それでも、当然それぞれの根底にある価値観や性格には違いがあるんですね。

辻:サッカーばかりやってきた子でも、一人ひとり異なった考えや、光るものを持っていますよね。

栗田:高校までの教育の影響かは分かりませんが、大学に入ってきたばかりの子たちには「どうやるんですか?」と指導者へ答えを求める傾向がある。でも、明治ではそういった態度が一番だめ、という文化があります。自分なりの考えをもって、アウトプットしていくことが求められる。僕が最近使うのは「パズルではなく、レゴである」という言葉です。一つの正解があるわけではなく、それぞれ違うものをつくっていく。こういった創造性が大切だと思っています。

安西:なるほど。逆算ではなく、積み上げということですよね。高校までの教育はパズルのように正解がありますが、「レゴで山をつくれ」と言えばみんな違ったものをつくりますもんね。 

栗田:そのアウトプットしてきた答えが、チーム全体の流れに沿っているか、外れているのか。外れている場合に修正させるのが指導者ですよね。価値観や性格というのは個性なので、それを押し付けたり無理に曲げたりはせず、伝えるべきことを伝えています。

辻:チームの大きな流れの中で、選手には多様性をもってのびのび自由にやらせているんですね。 

栗田:多くの学生は気付いていないと思いますけど、厳しさのなかで個性を尊重することは常に意識していますね。でないと全員が僕の思考の中で動くことになり、世の中に出てから人間的に成長しなくなってしまうので。

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社会で通用する人間になるため。大学スポーツを通して学ぶべきこと

安西:「チーム全体の流れ」という話に関連して、栗田さんといえば、競技における成長と人間的成長の両方を重視しているという話をよく聞きますが、そういったチームの方針はどのようにして学生に伝えていますか?

栗田:1年生が入部する前からすでに説明しています。スポーツ推薦の過程でも、「プロになれないから明治」というだけの人は来ないでほしいと明確に伝え、プロの養成所ではない「大学」での4年間で何をやるのか、という話をします。
そうすることで、明治で学びたいとか、チームの理念に共感した、という子たちが集まってきてくれます。みんな大学の先にあるプロの世界を夢見て、実際に見据えていますが、その選手がプロになるとしても、大学4年間で学べる価値をしっかり伝えます。

辻:なるほど。明治がそういう部分を大事にするチームだということは高校生の世代にも知られていますよね。

栗田:高校まで毎日サッカー漬けだった子がほとんどだからこそ、大学では新しい勉強や色々な人との出会いを大事にしてほしいんです。うちの部では朝練をして、その後はしっかり授業に行く。単位を取らなければ部活できない、ということも言うんです。自分の知識や見識を広げることで、ものごとの考え方に幅が出てきてバランスをとる力、多角的に見る力がつく。こうした意義を伝えます。
1年生が入部してきたら、初日に部員全員でミーティングを開き、あらためて僕から明治サッカー部というものを説明します。企業でいう経営計画のような資料を準備するんです。

辻:すごいですね。資料にはどんなことが書かれているんですか。 

栗田:チームのあるべき姿の話から始まり、チーム目標、サッカースタイル、評価基準、監督である僕が譲れないもの、といった内容がA3の紙2枚にみっちり書いてあります。こうした企業のような説明の仕方は、高校までではまず経験しないアプローチですよね。

安西:チームに関わる情報はとことん開示するんですね。見てみたい項目はたくさんあるんですが、たとえば「譲れないもの」とはどんなことですか?

栗田:先ほども話が出た、プロの養成所ではないということ。あとは、裏表のある人間にならない、部の歴史や積み重ねをけなすような言動と行動をしない、というようなことです。

安西:はじめにそういった内容が伝えられるのは選手にとってすごく良いことですよね。1年生が入部した後は、チームとしてどんな取り組みをされるんですか?

栗田:毎週1時間の時間をとって全体ミーティングを行っていて、そこではサッカーとは離れた、社会の様々な話をします。自分が勤めている企業の研修をアレンジして伝えたり、世の中で活躍しているゲストを招いたりしていますね。 これまでには、南アフリカで火力発電所の開発に携わった方をお呼びして、現地の歴史と文化、発電事業の社会的意味、人々の変化などを部員に話していただいたこともあります。

安西:なるほど。それは普段部活をやっている学生にとっては新鮮でおもしろいでしょうね!

栗田:そうした話を聞くと、サッカーをものすごく小さなものに感じる瞬間があるんですね。

辻:社会は自分の知っているよりも広く大きくて、大学での4年間を経てそこで通用する人間にならなければいけない、ということを知り始めるんですね。

栗田:でもこの方のお話にはきちんとオチがあって、「自分は日本と世界の反対側で働いているけれど、日本代表のサッカーに勇気づけられて、活躍に元気をもらうんだよ。君たちはそこに一番近い存在だよね。」と最後に言ってくれたんです。これを聞くと部員は相当勇気づけられて、一層頑張れますよね。こういった経験をチームでは1年間繰り返しやっています。
うちには「明治発世界へ」というテーマがあるんです。もちろんサッカーでも海外の舞台を目指すし、他の職業に就いて社会に出たとしても、世界を渡り歩いて勝負できるような人間になろうよ、ということをみんなで言っています。そのためには自分で人生を切り拓いていく必要があって、それは目の前のピッチでも同じです。苦しい状況や上手くいかないときに、助けを求めるのではなく自力で解決しようとすることですね。そうしてはじめて、周りの仲間が助けてくれるようになります。 

辻:本当に企業の研修のような質の高い取り組みをされているんですね。大学の部活を通して社会に通用する人材を育むという考えが伝わってきます。

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▼第6回対談の後編は来週リリース予定です。

▼プロジェクトについて語ったイントロダクションはこちら。

プロフィール

栗田大輔(くりた だいすけ)
明治大学体育会サッカー部監督
1970年静岡県生まれ。2005年に横浜市で小中学生を対象としたパルピターレ・サッカースクールを設立。2013年に母校明治大学のサッカー部コーチに就任し、2015年からは監督として指揮を執る。チームを2019年の学生五冠へ導くとともに、ドイツ・ブンデスリーガで活躍する日本代表の室屋成をはじめとする多くのプロ選手を育てた。
自身は大学卒業後から大手建設会社に勤務し、現在も監督業との両立をしている。大学サッカーにおいて、チームの結果と同時に人間形成にも重きを置く教育が有名。
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」、「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
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