子ガチャ

ここは天の国で、これから現世に降りて生を受ける者たちが、神様の前で順番に並んでいる。
彼ら彼女らの姿は、生を受ける前であるから、魂だけの状態である。実体を持たない、概念だけのような存在であるが、ここでは人間の姿をしているものとする。
性別は決まっているものの、これから赤子となって母親から産まれてくるわけであるから、仮の人間の姿である。あるいは、これから現世で成長した姿になっているのかもしれない。
ともかく、そんな魂たちが、神様の前で並んでいる。

「もう一度引かせてくれ! こんなので俺は生まれたくない!」
一人の男が、神様と言い争いをしていた。
「駄目だ。最初に説明した通り、このくじは一人一回しか引けない。引き直しは無しだ。」
「そんなの、納得できるか! こんな親のもとに産まれたくない!」

男の手にある紙はおみくじのようになっていて、『親 末吉』と書かれていた。
紙の続きには詳細が書かれている。
『生まれる国…日本』
『言語…日本語』
『きょうだい…第一子』
『障がい…なし』
『両親の年収…〇〇万円』
『祖父母…父方の祖母が死去』など。
生まれてくる状況が細かく書かれてある。日本人に生まれるから、日本語で書かれているようである。

どれどれ、と男が持っていたその紙を神様は取り上げて見た。
「ほほう、悪くないではないか。障がいもなく、お前は健全に産まれるよ。」
「そうじゃない! ここが嫌なんだ!」
男が指をさしたのは、『両親』の項目だった。
「『母親のみ』ってことは、父親は居ないのか。」
「ふむ、父親には逃げられた母親のところのようじゃな。一人で育てていくつもりらしい」
「俺はこれから産まれるが、父親の愛を受けられないのは良くないことなんじゃないか」
「そうかもしれん。しかし、だからこそその人生で気づけるべきこともある。」
「なぜ、分かっていてこんな運命にしたんだ。」
「人間、どれも同じではないのじゃ。一人ひとりの人生が違うからこそ、それぞれの使命や生の価値を見い出せるんじゃよ。」
「ふん、もっともらしいことを言いやがって。とにかく、これは公平じゃない。」
「元から公平に作っとりゃせんよ。それに、産まれる前の記憶なんて残っとりゃせん。生きながら自分の生きる道を探させることも目的なんじゃ。」
「しかしーー。」

男が言いかけたところで、後ろの方から声がした。
「おい! さっさとしろ!」
振り返ると、渋っていた男の後ろには長蛇の列が出来ている。
「おっと、人間に生まれ変わる魂が続々と来ているようじゃな。前世は虫や木だった者もいるから、人間に早く生まれ変わりたいんじゃろうて。」
「うむむ…。」
男はもう一度紙を読み直したが、やがて諦めたのか決意したのか、はたまた開き直ったのか、現世へと続く光の中に歩みはじめた。
「悪くない人生にしてみせるよ」
神様には、背中越しだったが確かにそう聞こえた。

その後も、神様から引く紙の内容に、一喜一憂する魂が次々と光の中へ消えていく。
子は、親を選べない。
同じように、親も子を選べない。
紡がれて、産み落とされていく人間のいのちを、神様はまた静かに見送っていた。

(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?