見出し画像

アートはストーリーを楽しむ

 アートと聞いて、どんなことをイメージするだろう。理系出身の私自身は直感のみに頼って観るアートは趣味ではあるものの、「富裕層が楽しむもの」、「どう楽しんでいいのか分からない」、「見てるだけだしつまらない」という、将来に役立つのかというと微妙なところと思っていました。
 今回は、そんな理系男子がアートを楽しむことについて考察していこうと思います。

0.前置き

 アートは「鑑賞」と「コレクション」の二つの楽しみ方があると思います。今回は「鑑賞」をいかに楽しむかに焦点を当てて考えていきます。
 ちなみに補足で、「コレクション」について。富裕層や経営者にとってはコレクションを楽しむ人が多い印象です。その理由は、社交場での話題の一つに使う、コレクションしている作品を通して自分の歴史を伝える、若手作家を応援したい、といったことが挙げられます。こういった人のステージにとっては、アートは教養として知っておかなければいけないものになります。教養があることを表現するためにアートコレクションをするには、
 ①西洋美術~現代アートまでの歴史の文脈を踏まえて、
 ②自分がコレクションする作品に何かしらのテーマを持って、
 ③自分のコレクションする作品が現在においてどのような意味を成して、未来に向けてどんなメッセージを紡いでいくのか、
が重要視されます。そのため、知識があって初めてスタートラインに立てる。好きな人にとっては知識を得ることは苦ではないですが、初心者にとってはハードルが高いです。個人的にはこれが、 アート=難しい と思わせている所以なんじゃないかなと思います。

1.ただ観ることを楽しむ

 それでは、アート鑑賞をいかに楽しむか、について考察していきます。まずは、アートの歴史やアーティストのコンセプト、どんなテーマで作成したのか、、といったことは、もちろん知っていた方がより楽しめるものではありますが、一旦無視して、ただ観ることを楽しみましょう。小難しいことを考えながら観るアートは、自分自身で鑑賞というものにハードルを設けていると思います。
 何事も、初めて取り組むものってハードルが高く感じると思います。茶道を例にすると、初心者から見たら作法や振る舞いが独特で、これ覚えるのか、、無理、、と考えるかなと思います。一方で、経験者にとっては、作法や振る舞いは二の次で、おもてなしや一期一会といった精神を日常生活でも活かすことが大事と考えています。入口が難しそうに見えるのは、単に経験していないから。茶道は所作を学ぶことを楽しむのではなく、心得を学ぶ方が圧倒的に楽しいです。ただ、この経験者にとっての楽しいが初心者に伝わらず、難しい部分だけを見られてしまう。このアンマッチがアートにも起きていると思います。
 観て何かを語らなければいけないわけではなく、「神秘的!」「綺麗!」「ビビッときた!」「なんかエロい!」それだけでいいと思います。入口のハードルを下げることが大事。いきなり難しいところから入ろうとしなくていい。数学のように間違った答えを、いやこれが正解だ!と主張しているのは「何言ってるのこの人」となりそうですが、ことアートについては答えはありません。まずは自分の心に従って、思うままに表現してみればいいのではないかな、と思います。

2.日本人は答えを求める

 突然ですが、日本教育では”正解を早く正確に導き出す”ことができる人が優秀と判断されます。1つの答えをみんなで出しに行く練習を学生時代にすることで、論理的な思考が成長していきます。会社に就職した後も、「どうやって課題解決するか」「正確に決まった工程をこなす」「より多くの人が賛同する答えを出す」ということに重きを置いて仕事をこなすと思います。もちろん、論理的に答えを導き出すことも大事です。この考えがあったから日本は急速に発展できたとも言えます。
 ただ、逆説的に言うと、日本人は答えのない問題を解くのが苦手とも考えられます。アートはその典型例で、作品一つ一つに「この作品はこう解釈したら正解です」なんて、美術館では書いていません。答えのない作品の解釈、そこにどう答えを求めても霧をつかもうとするようなものです。
 もちろん、アーティストが1つのメッセージや意図(答え)を提示していることもあります。ただ、そのメッセージは美術史を理解して初めて解釈できるものが多く、ぱっと見で理解するのは難しい気もします。そして、アーティスト自身があえて作品を作った意図を出さない場合もあるので、鑑賞する側に解釈は任される場合も多いです。
 答えのないアートの解釈に答えを求めても、うまくいかない。そして、アーティストのことや、美術史を理解しようと勉強に走りますが、知識としてのアートはいわば海のようで、広すぎるし深すぎる。一度入ったら迷宮入りすることもある。頭パンクします。

3.アートはストーリーを楽しむ

 答えを求めたところで、知識が必要だったり、窮屈に感じてしまうことが少しだけでも伝わったでしょうか。いきなりそのステージに高跳びする前に、まずは鑑賞を楽しめるようになった方がいいんじゃないかと思います。
 そこで、私は「アートはストーリーを楽しむ」ということができたら、ちょっと面白い角度からアートを楽しめるのではないかと思いました。
 ストーリーとは、自分の人生と重ね合わせることを言います。意味わからないですよね。例えで、私自身が体験したことで例を挙げさせてもらいます。まずはこちらの作品を観てください。

画像引用元:#オリジナル 色の降る日 - げみのイラスト - pixiv

 イラストレーターのげみさんが描いた、「色の降る日」という作品です。皆さんはこの作品を観て、どんなことを感じますか?
 雨の日に家の中で窓を見つめる少女。窓から反射する屋内の景色は、まるで海を海中から眺めているようで、とても魅惑的です。この景色をみて私は、「雨って見方を変えると綺麗なんだな」と感じました。そこから雨に対する見方が変わり、
 雨=濡れてテンション下がるもの
から、
 雨=綺麗なもの
に、捉え方を変えることができました。作品と出会ったのちに、梅雨の日にカメラ片手に撮影にいったときの写真がこちらです。

水面の波紋を撮影したこちら。梅雨の日に撮ったものですが、新緑が水面に反射してとても綺麗に見えました。そして、こちらの写真も。

 東屋で雨宿りしているカラス。カラスは普段汚いイメージをされがちですが、こうやって人と同じように、大雨の中では共に雨宿りをする。雨を見つめるカラスはなんだかかわいく見えました。

 このように、作品を鑑賞してただ「綺麗!」と感じただけではありますが、そこから雨への捉え方が変わって、自身の人生の捉え方が変わる。このようなストーリーを作れることが、アートのひとつの魅力なのではないかなと思います。
 これまでの価値観から、アートと向き合ったことで得た新たな価値観を、自分の人生に持ち帰って、体験する。このワンセットができたら、出会うアートが自分にとって特別な作品になると思います。自分のストーリーと照らし合わせて、価値観を知るきっかけにする、そんな楽しみ方もあっていいのではないでしょうか。

4.まとめ

 いかがでしたでしょうか。アートを難しくしているのは、実は自分だったりします。アートをまずは観て「綺麗!」と思うものや、「なんか心に響く!」というのがあれば十分。そこにさらに、自分の人生と重ね合わせたときに価値観がちょっとでも変わるものを発見できたら、出会った作品について語れるようになり、鑑賞が面白くなると思います。そこからさらに興味が湧いてきたら、知識も付け加えていけばいいと思います。
 自転車で言う、最初の漕ぎ出しは重いかもしれませんが、回数をこなせば難しいという固定観念はなくなっていきます。自分にとっての作品との出会いができますように。

おしまい

よろしければサポートもお待ちしてます!自分の切り取った景色や、紡いだ言葉が、何か、人生を彩るお役に立てたら嬉しいです☀