素人がゼロからゲームを作る力が欲しいか…?
ゲームは好きですか?
作ってみたいと思ったことはありませんか?
でも作り方がわからなくて泣いたことはありませんか?
ここでは何度か書いていますが、私は前職でテレビゲーム開発に携わっておりました。業界から離れた今もゲーム好きの魂死なず。たまにゲーム制作が恋しくなります。
すると先日、勤めている株式会社ゆめみのインターンシップでノベルティ制作に携わる機会が!「お前の趣味だろ」と陰口を叩かれながらも、ちょっとしたカードゲームを作って配布しました。
テレビゲームもいいですがボドゲも楽しいですね〜。
大デザナレ展にて当社ブースにお越しいただいた方々にも試遊していただいたのですが、なかなか好評だったようです!(私はコロナに罹って行けなかった)
そしてこのゲーム、慶應義塾大学大学院 SDM研究科 社会&ビジネスゲームラボさんで主催されている、ゲームシンポジウム2023で体験会をさせていただけることになりました!なんと今週10/22(日)です(ギリギリの宣伝)
真面目なイベントに「山下アンジェリカ&がみく」のクレジットが載っている図がシュールですが、貴重な機会をいただけて大変光栄です!
当日は私もブースにおりますのでご都合のつく方はぜひいらしてください。
■ゲーム作ったことないんですけど大丈夫ですかね・・・
さて、冒頭でも問いかけましたが、ゲームの作り方って謎です。みんな泣きます。
前職時代、一番困った質問が「ゲームデザイナー(プランナー)ってどうやったらなれるの?」というものでした。
よくある回答として「たくさんゲームをしろ」というのがありますが、私はこれは答えとしては微妙なラインだと思っています。
確かにゲームを知らない人がプランナーになるのは難しい。しかし、ゲームの知識がすごくてもゲームが作れない人は大勢います。というか大多数のゲーマーはそうじゃないでしょうか。
そうして多くの志望者が、「ゲーム作りたいけど作り方わからん」の状態から脱せないまま、業界を諦めていきます。
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かくいう私も業界人ヅラしていますが、プランナーではなく、あくまでUIデザイナー。限られた時間と予算で、ゼロからゲームなんて作れるんでしょうか…。
なんか、作れた!!!!!
やったぜ!
ということで、今日は手っ取り早くそのやり方を紹介します。
手っ取り早くと言いつつ、諸注意を。
前提として、ゲームを作る方法に正解はありません。なので、以降の説明で断定口調のものがあっても「この流派ではそうなのね」くらいの理解でお願いします。
そして、今回ご紹介する方法は、かなりデザイナーっぽい頭の動かし方をした制作方法だと思います。
雑な括りですが、文系・芸術系タイプの方には馴染みがいいのではないかと。一方で、そうでない方にとっては、ご自身の制作方法の物足りない部分を埋めるピースになり得るのではと思います。
ぜひ、参考にできる範囲で活用してみてください。
■ゲームを作るために考えることは?
大きく分けて4点です。
①体験のテーマ
②ルール
③リスク・ジレンマ・リターン
④世界観
私は上から順に決めましたが、プロセスはお好みでOKです。どれか1つアイディアが降りてくれば、連鎖的に他が思いつくこともあるでしょう。
ですが、世界観決めはできる限り最後のフェーズにした方がよいです。
設定大好きオタクにとっては砂を噛むような話ですが、序盤にノリノリで決めてしまったであろう世界観の存在がゲーム体験を悪くしているケースはかなり存在しているように思います。
わかりにくいだけの固有名詞や用語。ゲームシステムと合っていないアートワーク。プレイヤーにとっては最悪です。しかし、一度自分の作った世界観に愛着を持ってしまうと、オタクは変えられない生き物なのです。ですから最後にやりましょう。デザートは最後にとっておくのです。
■体験のテーマを決めよう
これは、ゲームの勝敗に関係なく、普通に進行しているフェーズをまず楽しくするために考えるものです。
UIUXデザイナーは簡単に「体験」とか言ってしまうのですが、具体的な想像がしにくいと思うので、私が今回作ったゲームで実例を挙げながらお伝えしていきます。
今回作ったゲームはインターンシップのノベルティなので、インターン中に活用できるようにしたいという狙いがありました。オリエンテーションやブレストの場面ではコミュニケーションが大事なので活躍しそうです。
さて、そのシーンで、あなたはどんな体験ができたら気持ちいいですか?
自問自答でネタ出ししてもいいですが、人に聞く方が早いです。
5〜6人のメンバーに協力いただき、上述のシーンで「うまくいった体験」を挙げ、対話してもらいました。
今回はこちらの付箋に注目しました。
「自分の考えた自己紹介がウケて嬉しかった」というエピソードですね。
まだそれほど仲良くなっていない人たちと複数人で集まる場。発話することに不安もあるでしょう。そんな中、その場の全員があなたの話に強く興味を持ち、あなたを主役に盛り上がってくれたら。「き、気持ちいい〜〜!!」となりますよね。
今回はこの体験をテーマにすることにします。
こんな感じで、多くの人が想像できる体験をメタファーにすることで、「このゲームで目指す気持ちいい体験とは何か」を明確化しておくのです。
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デジタルゲームや複雑なルールのボドゲを作りたい場合もこの方法はオススメです。例えばSplatoonでは「人や建物に思いっきりインクをぶっかける、(悪いことしてる感も含めた)爽快感」が基本の体験になっています。
あなたのゲームが飽きられやすい場合、ここのテーマが決まっていなかったり、共感されにくいものになっているのかもしれません。
ですが、これはあくまで基本体験の話。
いわゆる「ゲームのおもしろさ」にあたる部分は、もう少し先でご説明します。
■ルールを決めよう
さて、次はルールを決める話です。
最低限決めなくてはならない要件は割とシンプルです。
ゲームの構造(協力か対戦か、個人戦かチーム戦か…etc)
勝利条件
勝利条件を満たすために何をすればいいか
今回作ったゲームは以下のようになっています。
・3〜6人の個人対戦
・ポイントを多く取った人が勝ち
・相手の嘘は見抜きつつ、自分はうまく嘘をつく
が、実はこれ、かなり最後の方に決まっています。
これを決める前にまず、どういう面白いことができそうか、単発のアイディアをどんどん出していきます。
ここでは、「フィクションを織り交ぜて自己紹介する」というアイディアに注目しました。
自己開示が重要な自己紹介において「嘘をつかなくてはいけない」という状況は面白そうですし、嘘をつかれた側は「じゃあ本当の情報は何なの!?」と相手に興味を持つことができそうです。
では、このアイディアをルール化していくことにします。
まず、「みんなが自分の話に興味を持って盛り上がってくれたら気持ちいい!」という体験をテーマに決めた時点で、話し手と聞き手が存在するコミュニケーションゲームになることはイメージがつきます。
「話し手は嘘の自己紹介をする」というアイディアができたことにより、「聞き手はその嘘を見抜く」という攻防の構図が連想できました。つまり、話し手vs聞き手の対戦型になることが決まります。チーム戦かな?
しかし、前述の体験テーマを実現するためには、話し手が一番気持ちよくなる構造にしたい。となると、話し手は交代制。つまり個人戦です。
そして話し手がラウンドごとに交代すると決まれば、各ラウンドでの結果の累積が最終勝敗に影響を与えることもイメージできます。つまりポイント制です。
こんな感じで、アイディアと体験テーマをすり合わせつつ、「あのシステムがはまりそうだな」とルールを練っていきます。
正解とか作法とかは無く、連想ゲームみたいなものです。
もちろん、アイディアとテーマの噛み合いが悪く、うまくルールにならない場合もあります。そういう場合はアイディア選びからやり直しです。
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冒頭で触れた、「プランナーになりたいならたくさんゲームをしろ」という意見が出やすい所以はこれじゃないでしょうか。
ゲームをあまり知らない人は、ルール化の作業で詰みやすいのです。
既存のシステムを知っていればいるほど「これは〇〇型っぽいな」と連想がしやすく、応用がきかせやすくなります。
とにかく引き出しを増やしたい!という人は、こういう本で勉強するのもおすすめですよ。
しかし、このあと我々は最も重要なことを考えなくてはなりません。それが次のお話です。
■リスク・ジレンマ・リターンを決めよう
ついに来ました、「駆け引き」の話です。
これについてはスマブラの開発者である桜井政博氏の動画が有名なのですが、先述の「自分の考えた自己紹介がウケて嬉しかった」というシンプルなエピソードにもこの要素が入っていましたので、身近な例として説明します。
自己紹介でウケたい。
しかしそのリターン(報酬)を得るためには、初対面のメンバーの前で大滑りするリスクを負って話題をぶっ込まなくてはいけないというジレンマがあります。その駆け引きに成功し無事ウケた時のカタルシス、「やってやったぜ!!!」という感覚により、脳汁がドバドバ出るのです。
このようにリスクをともなう駆け引きがゲームを楽しくするキモとなるため、意図的に設計する必要があります。
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では、先ほど考えたルールの中にこの要素が含まれるよう整理していきましょう。今作の場合「嘘をつく」という行為を攻撃手段に見立てて考えるのですが、面白いことに、嘘という行為そのものに元々ジレンマが含まれています。
まず、情報量の多い大嘘をつくのは難しく、噛んだりしてバレるリスクがあります。しかしそのリスクを負って具体的な話をするほど、うまく話せたときの信憑性が上がって騙しやすくなる…というジレンマがあります。
意を決してぶっこんでみた嘘に皆がコロッと騙されてくれたときの、「ドヤ〜〜〜!!!」という感情。これを今作の脳汁要素(?)としました。
そこで、このジレンマが発生しやすいよう、自己紹介を「話そうと思えばそこそこ長く話せるような一問一答形式」にすることにします。
これにより、「ランダムに引いたカード6枚に、ダイスで出た数の分だけ嘘の回答をする」「聞き手はどの回答が嘘かを当てる」というルールが完成しました。
例えば、
「必ず時間を守ってくれる人と、時間を守れなくても許してくれる人、どちらが好き?」
最低限の回答としては前者か後者かを答えるだけで良いのですが、簡潔すぎると怪しまれるかもしれません。リスクを負って嘘の理由やこだわりをたくさん語るほど、信憑性が増していきます。
どういう戦術で話すかは話し手次第、というわけです。
ゲーム企画のプレゼンで「面白いところを説明して」と言われることがありますよね。そういうときはこのリスク・ジレンマ・リターンについて説明するとわかりやすくてオススメです。個人的には「リターンがあるか」だけでなく、「リターンを得たときに脳汁が出るか(?)」という感覚評価も大事な気がしています。
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さて、次はいよいよ世界観の設定!!!
…の前に、私の作品がゲームデザインにおいて特殊だった部分について少し補足をします。ゲーム制作というよりは、ゲーミフィケーションの話です。
■おもしろいだけじゃ意味ないってこともあるよね…
今作はインターンシップで使えるグッズというコンセプトがあり、「オリエンテーションで役立つ自己紹介ゲーム」と用途も決まりました。
つまり、ゲームの力で、普通の自己紹介よりも良い自己紹介をできるようになっていなければ意味がないわけです。
面白いゲームでありたいというのはあくまで私個人の願いであり、ぶっちゃけ今回は用途の方が重要です。
このように「ゲームじゃない活動をゲームの力でより良くする」ことを期待してご相談をいただくお仕事は多いです。
ゲーミフィケーション、10年前からある概念だそうですが、人気ですね〜。
では、普通の自己紹介よりも良い自己紹介ってなんでしょうか?
今回は、このように定義しました。
信念や、意外な一面が伝わる深い自己開示をする
聞き手が強く興味を持って話を聞く
そして、
これらができている人が勝てるようにゲームを設計していきます。
「ゲームに勝ちたいからやりました」という言い訳を作ってあげるのです。
話し手は、表面的な雑談では明かさない情報や、自分の印象とギャップのありそうな情報を上手く使えば聞き手を撹乱できます。一方、聞き手は嘘を見抜かないといけないので、勝つためには話をよく聞くことが必須というわけです。
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こんな感じで、ゲーミフィケーション的なことがやりたいときは、
「このサービスにおける理想的なユーザーの振る舞いとは何か」
「それをしてくれるユーザーが勝てるゲームとはどんなルールか」
といった観点で作っていくのがオススメですよ。
■世界観を決めよう
ゲーム作りのプロセスの話に戻しましょう。
きたぞ!!!!!!
一番楽しい作業が!!!!!!!
意気揚々と自分好みのフレーバーを考える前に、最初の方で挙げたSplatoonの体験の話を思い出してください。
Splatoonをやったことがない方は公式映像を見るだけでもわかると思うのですが、この体験を最大化するために、気持ちいいエフェクトや効果音といった工夫が凝らされています。それに、ヤンチャな感じのキャラクター。「そんな場所入っていいんか?」と言いたくなる、めっちゃ公共空間っぽいステージ。よく噛み合っていますよね。
良いゲームの世界観とは、それ単体が美しいだけではありません。
ゲーム体験とシナジーを生み、面白さをより伝える武器になるものです。
…というと大袈裟ですが、神ゲーほど深くこの部分が考えられていると思います。みなさんもお気に入りのゲームを観察してみてください。なぜ舞台はそういう世界なのか。なぜキャラクターがその姿をしているのか。
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さて、死ぬほどハードルを上げてしまいましたが、今作のビジュアルはデザイナーのがみくちゃんに作ってもらいました。
ビジュアルを検討していた時期、ちょっと引っかかっていたことがあります。「心理的安全性」というキーワードです。
要は「自分の気持ちを安心して表現できる状態」で、組織の中のコミュニケーションにおいては昨今非常に重要視されています。
しかし、このゲームを作る上では非常に厄介な概念でもありました。
嘘をつくゲームなわけですから、何事もなく平和に受け入れられては面白くない。むしろ「理論派って言ってるけど嘘だと思う、感覚派っぽい気がする!」などといった失礼なレッテルを張られ、好き勝手言われてしまう状況こそを、皆からの興味が注がれるオイシイ瞬間として演出したいのです。
しかし上の概要だけ聞くと、人によっては嫌だ・怖いと思ってしまうかもしれません。そこで、この状況をカジュアルにロールプレイできる世界観をデザインする必要がありました。
そして、このビジュアルが生まれました。
ちょっと繊細な女の子が、「〇〇ちゃんって△△っぽいよね」と、適当な決めつけをされる。すると彼女はこう返します。
「あたしのことなんにもしらないくせに!」
実際のところゲーム上は騙したら勝ちなわけですから、誤った決めつけをされたということは、うまく嘘をつけたということ。つまり、このセリフは勝利宣言なのです。
圧勝した後、この可愛い女の子になりきって、言ってみたくないですか?
「あたしのことなんにもしらないくせに!」って。
ということで、このビジュアルは、自己開示という体験に伴うセンシティブさを娯楽モードに切り替え、遊びの形を作るために生まれたものなのです。
■完成…………???
さて、こうしたプロセスを経て、ゲームが完成しました!
やったね!
〜完〜
とはならないのがゲーム制作の恐ろしいところ。
むしろここからが本番です。
安心してください。この記事はもう少しで終わります。
ここから始まる、真に重要な工程。それは、
テストプレイ&デバッグです。
割とガチで、この世のあらゆる「面白くないゲーム」は、これを十分にやっていないことで生まれているのではと思います。(やりたくてもできなかったプロジェクトのことを推察すると心が痛くなるばかりですが…)
残念ながら、今までドヤ顔で力説してきたゲームデザインが、実際にやってみたら盛大にスベったというケースは普通に起こり得ます。それに、いかにアイディアが優れていたところで、難易度調整が一発で気持ちいい値になるわけがないのです。
それ以前に仕組みに不具合があってはどうしようもありませんし、デザイナーとしては誤字やグラフィックや文章のミスも怖いです(今作も結局印刷後にミスが見つかり、泣きました)
以前、HCDでゲームは作れないのか?という話をしたことがありましたが、
「良いものを作るためには改善のサイクルを回せ!」
という考え方はまさしくHCDと同じですね。
︙
今作も、完成前にテストプレイをして、改善を経て完成に至っています。
しかし、その後完成品をより多くの方に遊んでいただけたことで、現在進行系で新たな課題が見えてきています。
多くの人が答えにくいと感じた質問があったり、人数やカードの枚数に調整が必要だったり。色々考えて設計してきたのですが、まだまだ改良の余地がありそうですね〜。
なので、初版はノベルティとして既に限定配布済みですが、
ルールを改善した第二版の制作を現在進めております!🎉
一般の方にもお手にとっていただけるように検討していますので、その際はぜひ遊んでやってください!
■おわりに
ボードゲームは初めて作ってみたのですが、テレビゲームの作り方と基本は一緒ですね。楽しかったです。また作りたい。
「ゲームの作り方には正解がない」…
冒頭でもお断りした通り、これは真理なのですが。
「だから誰も教えてくれない。いつまでも上手くなれない」と困っている初心者プランナーも見てきました。
そんな思いをしている方に、少しでも役に立ったら良いなと思います。
そして、この記事を読んで気になったら、今週10/22(日)!
遊びに来てね!!!(ギリギリの宣伝)(2回目)
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