「何しよっか?」から始まるお仕事
こんにちは、セールスチームの金川です。
8月のオンラインセミナーは「何しよっか?」から始まるお仕事について、プロダクトデザイン事務所TENTの青木氏、治田氏をお迎えしました。
自社オリジナル製品とクライアントワークを行き来しながらプロダクトを開発する両社。それぞれの事例を引き合いに出しながら量産・販売に至るまでの壁やその越え方について、議論しました。
コンパクトにプロジェクトを始めるための「適量生産」や、ハードルが高くて場合によっては敬遠され勝ちな「量産」について、地に足ついた視座から、キーワードセッションを中心にお届けします。
ゲスト紹介
スピーカー / モデレーター
両社の出会い
青木
先月開催されていた、TENTさんの展示会にうちのデザイナーチームとお邪魔させていただいたんですよね。
巽
今までの試作をズラリと並べる展示会で、すごい楽しくて。
もう少しお話できたらなと思い、ユカイで月1回開催デザイントークやってるんですよねってお誘いしたんですよね。
ユカイも自社サイトで商品販売したり、D2Cもやるし、受託開発もやったり、似たところもあるからもう少し突っ込んだ話ができたらなあ~と。
TENT青木氏
お越しいただきありがとうございました!
ユカイさんのことはアシストオンさん経由で知っていて、BOCCOやQooboの発売は気になって見ていました。
会社のスタンスがすごく近い感じがしていて。
たぶんいつか会うだろうな~、アシストオンさんに依頼すればすぐに繋がれるし、いつか会えるから慌てなくていいかなと思ってたんですよね。
量産化の壁と、適量生産
巽
自分たちでプロダクトを作るとき、「どこで、どのくらい資材を購入するかどうか?」「最終的に量産できるかどうか?」「どこで踏ん切りを付けるかどうか?」など、様々なことを考えると思います。TENTさんがこれまでやってきた中で、ぶつかった壁を教えてもらえますか?
「適量生産」を使うようになった意図なども聞かせていただけると。
TENT青木氏
もともと治田さんはクライアントワークとして、私はメーカー内で家電の仕事をしていたので、量産して世に出すことはとてもハードルが高く、何億円もかかるイメージがありました。
TENT結成後、Book on Bookの製品化に向けて色んな会社にアプローチして動いていたんです。自分たちで販売せずにメーカーに売り込んで商品化も計画していましたが、震災やリーマンショックもあって全て頓挫してしまったんです…。
その後、出会った業者さんから見積をいただき、お金を支払って生産してみたところ予想以上に数がでて。そこで自分たちの価値観が変わりました。
量産して売る=人数が多い会社が銀行からお金を借りてやる行為ではなく、お金を払って売るという日常の当たり前の行為に近いんだなと。そこから見える景色が変わりました。
私たちは基本手作りなので、無理なところは省くスタンスで。
初回生産数は30個でいきませんか?って提案したほどでした。
巽
数がハードルになりますよね。
TENT治田氏
パッケージングも自分たち手作りですしね。もちろん箱詰めも。
TENT青木氏
初回の30個発注では赤字だけど次に発注するときには黒字になるように、100個の見積を元に値段を決めました。ただの趣味で終わらせなかったのがよかったことかもしれません。
青木
TENTさんは商品を売り出すときに、展示会に出されていますよね。
TENT青木氏
当時はインテリアライフスタイル展やギフトショーなどに出してましたね。
展示会きっかけでアシストオンさんでの取り扱いが決まったり、色んな人に知ってもらえるきっかけになりました。
青木
僕たちも、創業当初はクライアントワークの比重が多かったです。
2015年にBOCCOを発売する時は、駆け込み寺のような感じでアシストオンさんにお世話になりました。
アシストオン代表の大杉さんにBOCCOをお貸ししたら、隅々まで使いこんでくださって「ここがいいね!」とフィードバックしてくれました。商品を売るかどうかの前に、ご自身でとにかく使い倒してくれる方が届け手としていてくれたのがありがたかったです。
巽
先ほどの数の話でいうと、やはり国内の方とやり取りされてるのが大きいのでしょうか?
中国だと初回生産数が3,000個からなので、ユカイの場合は小ロットでやるときは国内で、量産時には中国で、という切り分けをしています。
TENT青木氏
最近は自社製品と、クライアントワークが混ざってきていますが、コンパクトに始めたいこともあるので、自社製品の場合は国内の工場を使います。
ありがたいことに製品物量は増えてきていますが、国内生産で困ることがないし、一度つながった工場との縁を大切にしようというスタンスが強いですね。
巽
メーカーにいらっしゃったときは、海外工場とのやり取りが多かったのですか?
TENT治田氏
そうですね。中国にはよく行きましたね。
いまでも、クライアントワークでは中国の工場とやり取りすることもあります。
TENT青木氏
必ず国内工場と決めているわけではないけれど、いろいろ効率よくバランス考えると国内になっちゃいますね。
また、まな板がお皿になるCHOPLATEやフライパンジュウは、工場側から新商品の企画相談をしてくれました。
自社プロジェクトと受託プロジェクト
巽
工場さんから依頼がきて TENTさんが製作するとなると、自社プロジェクト・受託プロジェクト(クライアントワーク)というのはどういう位置づけになるんでしょうか?
TENT青木氏
そうですよね。
少しややこしい部分なので、皆さんに誤解を与えてしまったり、開発・製造を一緒に行っている工場さんに申し訳ないなと思っているところなんです。
工場さんは一般の消費者・バイヤーさんと繋がりがないので、そこをお手伝いする形でTENTが販売を担当させてもらっています。
ただ企画販売がTENTなのでTENTの製品と勘違いされてしまうことが多いんです。そこは誤解で、お互いの得意を寄せ集め、工場さんと効率よく販売まで一緒にやっている状態です。
青木
デザインファームなのに、販売・卸まで手がけていらっしゃる企業ってってあんまりないですよね。
TENT青木氏
工場さんに発注し、在庫を抱えて販売するので、動きが自社商品販売と似ているんです。
販売するためにバイヤーさんを見つけるのも大変だし、自社ECサイトをゼロから作ってもお客さんは来ないんですよね。その点私たちは積み上げた実績があるので、まずTENTから販売して知ってもらうというフェーズで貢献させてもらっています。
工場さんが色んなお店とつながりができて、TENTからではなく工場からダイレクトに販売できるための準備としてTENTを使ってもらえればと思います。
青木
インターネットならではの発想というか、コミュニティがあるからこそできることですね。
TENT青木氏
TENTからダイレクトに販売することで、お客さんからのフィードバックを得られるようになって「こういうものは受け入れられて、こういうものは好まれない」というジャッジが自分たちでできるようになりました。
クラウドファンディングについての考え方
巽
僕らは最初のローンチでクラファンを使うことが多いですが、TENTさんはいかがですか?
TENT青木氏
頑なに使わない派です。
TENT治田氏
twelvetone社と共に行う「idontknow」プロジェクトでは、クラファンのような動きが自分たちで出来ちゃったんです。
特にHINGE(ヒンジ)は実績も出たので、このやり方でいいんだ!と自信になりました。商品撮影やテキスト考案は自分たちでやりたい部分なので、ここを外に依頼するのはもったいないなと。
TENT青木氏
例えば、ヨドバシカメラ・東急ハンズ・ホームセンター・アシストオンで売るものが全部違うのと同じで、クラファンはクラファンで売れるものでしかないと思うんです。
クラファンはギーク向けというか、PCをずっと見てる人に刺さるものであって、一般の暮らしと乖離してると見えてしまっています。「まな板になるお皿が欲しかったの!」っていう主婦とか基本見てないかなと。
もともと僕がPCをずっと見てる人に届けるモノ作りは得意ではないので、どうしても売り場として向いてないかなという認識です。
「らしさ」という煩悩
巽
僕は「ユカイらしさ」を聞かれたときにあまり既定したくない派で、商品からにじみ出るものと思っているんです。
TENTさんがクラファンに出さないことも、にじみ出る「らしさ」かもしれないけれど、どのようにお考えですか?
TENT青木氏
クライアントワークでの提案やデザインを選ぶとき、「TENTらしいのはどれかな?」という基準になりがちです。成功した商品の第二弾とか、特に会社の業績が上がり調子の時に陥りやすい。
でも「TENTらしい」を基準にしてしまうと、誰が買うんだろう?と、迷走してしまいます。
わたしたちは「らしさ」の議論をしないで「それ本当にほしい?」と常日頃言っています。「自腹で買って奥さんに贈る?」「自分が欲しい?」とか。
〇〇の販路なら欲しがると思うよ、となった瞬間にそのアイディアはストップします。この基準はどんどんシビアになっていて、今年も何度泣きそうになったか…。でも「自腹でも本当に欲しいか?」をシビアにやるのが一番肝だなと思い始めています。
巽
ユカイも、自分が欲しいかどうかは大切にしているところですね。
青木
商品の責任を持てるし、仮に売れなかった時に試行錯誤できるかどうかに関わりますからね。外から見ていると、楽しそうにモノ作りしているな~とか、TENTさん「らしさ」は感じますよね。
TENT治田氏
作り手の我々が楽しそうとか、そういう「らしさ」は、見せていきたいですね。
製品の「〇〇らしい」というのは、ふき取ってもくっついてしまうものです。デザイナーの癖が出てしまうので、TENTでは作り手と製品はできるだけ切り離して考えるようにしています。
巽
ユカイの場合は、「自分はこれが欲しい」という妄想を形にすることを推しています。Qooboはまさにそれで、ハッカソンから誕生しました。
TENT青木氏
量産に向けて考えるときは徐々に個を消していきますが、アイディアは個人の経験からしかでないですもんね。ガラスのコップを割っちゃったとか。
青木
第三者のこういう課題を解決しようではなく、僕はこれが欲しいから作ろうよ!という感じですね。
TENT青木氏
個の体験を削ぎ落していく過程で、第三者の課題もうっかり解決できちゃったっていうのが一番の理想形です。
依頼されたお仕事だと、デザインシンキング的な形式的なやり方にならざるを得ないかなと思いつつ…。でも最近そこも変えてて、依頼された仕事を自分バージョンに落とし込んでいます。
「本当は何が作りたいんだろう?」とか、「ここを変えると僕も欲しくなるけどな」、というのを第一段階で問うようにしてます。
商売をするにはそのもっと先には大きな課題を解決しないといけないので、依頼に応えるだけっていうのはやらなくなりました。
青木
クライアントから依頼されただけの内容に留まるのではなく、商品が市場で売れるか?まで見据えないといけないですもんね。
リモートワークでの仕事
巽
リモートワークが当たり前の時代になり、変化はありました?
TENT治田氏
うちには子どもが三人いるので、家で仕事するときは毎日わちゃわちゃしています。
大変ですけど、それも楽しくて。
青木
家の中を自由に移動できる製品アイディアは、コロナ前から仕込んでいたのでしょうか?
TENT治田氏
コロナ前からです。
机周りの雑多なものたちがきれいになって、効率よく移動出来ると良いなと思って作りました。
働き方改革をきっかけに、家での仕事の仕方、勉強の仕方 過ごし方が変化したと思うんです。
例えばリビングにはこどもが集まって宿題するし、お父さんも仕事する場所。リビングって自然と人が集まって来る、すごい場所だよね~と、元々話していました。
予算ゼロ案件で共感を得るためのアプローチ方法
TENT青木氏
メーカーに居たとき、まさにこういう考え方をしていました。
今となってはプロトタイプは、簡単なもので絶対にできるはずなんです。
プロトタイプをいかに簡単につくるかは、めちゃくちゃ大事で、量産の可能性を上げる行為になります。
お金かけて作らなきゃいけないプロトに留まっている時点では、予算があろうがなかろうが、その時点で筋が悪い。手作りでできるレベルに徹底的に落とし込むことが大切。
TENT治田氏
非電気的なものだからではなくて、電気ものでも工夫をすればコストをかけずにできます。
TENT青木氏
OKAERI ROBOという、センサで光るロボットを作ったことがあるんですが、このプロトはスチレンボードで筐体を作って豆電球を差し込んで玄関においてみるというアプローチでやってみました。
プロトタイプのときは光るロボットが玄関にいる佇まいをどう感じるか?の確認なので、センサは無。コストは掛かっていません。予算ゼロでもアプローチ次第でどうにでもなりますね。
青木
先月の展示で見たのですが、OKAERI ROBOTのプロトには驚きました。
木を模したロボット型のシールを、スチレンボードに貼る。そっちの方が早く試せるじゃん!っていう。
TENT青木氏
予算ゼロで動き出すと決めたほうが筋の良い量産品ができると思います。ゼロは大前提。
プロトタイプ作成~量産までの流れ
巽
ラフ案からプロトタイプを起こし、各工場へ見積依頼をしていくことが次の一歩なのかなと思いますが、TENTさん的にはいかがでしょうか。
TENT青木氏
数量の話はしますね。
どのくらいの数量で挑戦すべきかとか、価格をこれくらいにしたいから、数量はこのくらい必要だよねとか。
3,000個作って商売になることが確定したうえで、100個だけやってみる。100個は赤字だけど、とかっていうやり方もしますね。
TENT治田氏
良い見積もりがでることはすごく大切ですよね。
このくらいの値段で売れそうなものが出来た!と思って見積依頼してみても、想定の費用感内に入らなかったら売れないもので、いいアイデアではないということ。
TENT青木氏
工場の方と会話して、組み立ての手間を省くとか、自分たちの構想をいかに簡略化できるかは大事ですね。値下げ要求はしないけど、ここの手間はこうしたら減らせませんか?という交渉は意識してやりますね。
青木
細かなところですが、ユカイでも初期ロットの袋詰めや箱詰めなどは社内でやっています。
TENT青木氏
社内でやると、工場に依頼するときのイメージができているので、どう簡略化したらいいとかの筋がわかるんですよね。
展示会で来場者に興味を持ってもらうには
TENT青木氏
具体的な話ですが、初めて展示会で商品を並べる人は、机の上にどう並べるかばかりを考えがちです。が、展示会の肝は壁などの立面なんです!来場される方は、ぜひ立面を着目してほしいですね。
青木
ちょっと離れたところからでも「あれなんだろう?」と思ってもらう、立ち寄ってもらう工夫が必要ですよね。
TENT青木氏
そうなんです。立面で自分に関係があるものと思ってもらえないとブースに誰も来てくれないので。
机の上は近づいて1m以内の人がみる場所なので、切り分けて考えるべきだと思います。
みんなに興味を持ってもらうというより、わたしたちのブースはこういう人に興味のある場所なんですよ!と、遠くからわかることが大切。
セミナーを聞いて
プロトタイプ・量産から展示会まで、多くの具体的なエピソードを語ってくださったTENTさん。肩肘はらずに、自分たちが欲しいものを作っていらっしゃる姿勢に刺激を受けました。
アイディアは個人の実体験から生まれるものが多い一方で、量産化を見据えるタイミングでは極力「個」の要素をそぎ落とす。
そのバランスはこれまで多くのプロダクトを世に届け、ユーザーからの意見を受け止めてきたからこその発想だと感じました。
セミナーレポート | Yukai Design Talkシリーズ
#1
体験を左右する自己帰属感とデザイン(ゲスト:明治大学総合数理学部 渡邊氏)
#2
モノとヒトのちょうど良い関係性(ゲスト:tsug,LLC 代表 久下氏)
#3
現在に求められるデザインとテクノロジーのあり方(ゲスト:株式会社Takram ディレクター、デザインエンジニア 緒方氏)
#4
「何しよっか?」から始まるお仕事(ゲスト:株式会社テント 青木氏、治田氏)
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