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横須賀三浦にまつわる独立系小冊子3選

この半年、横須賀三浦半島にまつわる素晴らしい冊子を手にする機会をえました。どれも個人が制作した小冊子ながらその内容と視点に力を感じるものばかりでした。せっかくなのでここで三選を紹介します。
まずはこちら。

『ヨソモノ 横須賀ぐらし。』 (発行所 ヨソモノブックス)


この本は2024年の3月末に出版された冊子で、移住者を含む外からの目線を主体としています。横須賀の日常の街や人を、インタビューや写真を通してみつめなおす書籍です。
掲載された写真から製作者の意図が十分に伝わります。インスタばえに代表される日帰り写真と名付けたくなるような瞬間消費型の写真ではなく、その地を深く知っている、あるいは知ろうとしている眼差しがなければ気がつかないような日常風景が紙面を飾ります。派手ではないけれど、失えば大きな虚脱感を覚える、取り返しのきかない横須賀の日々が紙面に満ちています。




横須賀へ移住して書店を開いた店主への秀逸なインタビューをはじめ、育った街を語る人や、遊びに来る人の目線から発見される横須賀、逆にその地を離れた人へのインタビューなど、文章も彩に溢れ飽きさせません。移住者さんが読んでも、生まれ育った人が読んでも楽しめる丁寧な一冊です。
(発行所のサイト https://yosomono.com/)



静かな熱を感じるDEAD END [salt]


こちらは、横須賀の汐入という駅から少し歩いた場所でアートスペースを運営している美術家夫妻の近況報告的小冊子『 祝5th 』(発行 DEAD END [salt])

「京急汐入駅の改札を抜け、」で始まる<山と酩酊>という文章は二十数ページの中に三万文字が敷き詰められています。美術家二人が山付きの民家(民家付き山かもしれない)を譲り受け、大木や倒木、藪と対峙しながら歩んだ生活記録の一辺であり、二人の行動力の結晶を垣間見せます。
この冊子の素晴らしい点として日記を再構成した文の中に、山と民家の手入れで必要になった技術や材料などについての紹介があること。それは書籍やYouTubeチャンネルや近所の材木店であったりするのだけれど、これから同じような山や民家や畑を手に入れようと思っている人の参考にもなります。

とはいえ、このお二人は美術家であり行動家であることを忘れてはいけない。冊子の美しいイラスト、丁寧な文章の影には体調不良の厳しさや果てしない山との奮闘による疲労もあります。読者は酩酊の部分にほくそ笑みながらも、彼らの、例えるならばキン肉マンがおどけたマスクの下に隠した100万パワー超人の強さを感じずにはいられないのです。横須賀の谷戸を整備しながら生活するという、厳しくも美しい超人の生き様が紙面に光っています。
発行元の横須賀のアートスペースHP↓
https://deadend.info


海にまつわる文化・道具を捉えた三浦半島の文化系小冊子『漁民の芸術』


三浦半島は海に囲まれ、竪穴式住居があちこちに出土するほど人類の歴史が深い場所。その三浦半島でも太古から受け継がれ、今なお経済活動として続いているのが漁撈。つまり漁師さんや海にたずさわる人々の仕事です。そういった海辺の文化に焦点を当てたZINEの最新号が2023年に出版されました。
サンズイ舎発行の『漁民の芸術』です。
サンズイ舎さんの既刊は今までも素晴らしかったけれど、今号はさらに一段クオリティが増したように感じるのは私だけではないと思います。表紙の写真を筆頭に丁寧に写し取られた海の文化がページに広がります。製本を含め既にZINEの域を超えたような質の高い一冊。

著者の方と面識があることも手伝い、個人的にはあるインタビューの構成に唸りました。人の話し言葉を文章にまとめるだけでも難しいが、この冊子に載っている取材相手が独特の言い回しをする方なのを知っているのです。その興味深い話をこうして紙面にまとめる技術を含め、実に丁寧な取材と構成力を感じずにはいられません。
著者は博物系古本市を主宰してもいるので興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか。(横須賀ブックミュージアム https://book-museum.com)

以上この半年で手にした横須賀三浦半島にまつわる冊子三選でした。今後もこの土地でこういった、個人的なちいさなところからの発信が増えていくことを願っています。

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休憩室N

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