残滓

 朝夕は涼しくなってきたが、未だ湿り気を含む生温い風には、芯の方に少しだけ夏の空気が薫っている。頭上の空は青く晴れているが、西の方では象の皮膚のような暗い雲が空をもたげており、その表面の質感から、幾層にも積み重なった分厚いものであることが想像できた。

 季節に敏感な街路樹は、少しだけ落ち葉を落とし始めて、その幾枚かの落ち葉が道路を風で舞っている。土に還れずにアスファルトの上で踊らされ、粉々になって虚空に消えるか、かき集められて燃やされて、雨になったり、二酸化炭素になったりして身に覚えのないところに還っていくのだろう。西の重たい雲にはそんな怨念が籠もっていそうである。そこから禍々しくぬるい風が吹き付けていると思ったところで、私にとっては痛くも痒くもなく、寧ろ心地いい。

 鼻から脳天を突き抜ける勢いでそんな生命の残滓を吸い込むと、やっぱりまだ少しだけ夏の薫りがする。

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