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『秋』(芥川龍之介)

寝る前に俊吉は、縁側の雨戸を一枚開けて、寝間着の儘狭い庭へ下りた。それから誰を呼ぶともなく「ちよいと出て御覧。好い月だから。」と声をかけた。信子は独り彼の後から、沓脱ぎの庭下駄へ足を下した。足袋を脱いだ彼女の足には、冷たい露の感じがあつた。(本文より)

姉の信子と妹の照子、小説家志望で従兄弟の俊吉。信子は俊吉に思いを残しながら別の男性と結婚し大阪へ、俊吉は照子と結婚した。照子は自分が俊吉に思いを寄せていることを知った姉が身を引いたのだと、姉に詫びの手紙を手渡した。信子の夫は身綺麗だが所帯じみたケチな男性で、結婚生活はだんだん難しくなってきた。ある秋に信子が夫に伴い東京へやってきて、一人で妹の家を訪れたその晩のこと。ほんのひととき、信子と俊吉が庭に下りて言葉を交わしたその時、照子は庭に降りることができなかったーーー。

芥川龍之介といえば『蜘蛛の糸』や『鼻』『羅生門』など、少しおどろおどろしいお話を想像してしまいますが、恋愛の物語もありました。先の作品のように突飛な設定や語句は出てきませんが、誰しもの心の機微、やっかいな気持ちの移り変わりに寄り添ってくれて、人間の強欲を描き出す、やはり芥川龍之介らしい物語です。芥川自身の恋愛がモチーフになっているという説もあるのだとか。

小説を読んでいて面白いなと思うのは、それまで言葉にしてきたことはなかったけれど確かにそこに存在している「心の在りよう」を、文章を追うことで自分の中に発見することです。「わかるわかる」から始まって、「気づいていなかったなぁ」、「こういうことだったのか!」と、驚くこともしばしば。物を新しく生み出すことではなくて「既にあるものに気づく」こと。言葉をなぞることで自分を知ること。それは、外へ外へと何かを求めること以上に、自分の未来を作ってくれるものになるかもしれません。

9月の文学史コース(コース名が変わりましたー)は、
『秋』(芥川龍之介)です。
今月よりオンラインは全て個人レッスンとなりますので、ゆっくりじっくりご自身のペースで朗読に向き合っていただけると思いますし、日程もこれまでよりご参加しやするなるのではと思います。
ご予約をお待ちしております。

2023年9月 スケジュール
http://utukusiki.com/202309_online/

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