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『それから』(夏目漱石)

6月から三ヶ月間、オンラインのブンガクコースでは夏目漱石を連続して取り上げます。6月は『三四郎』、7月は『それから』、8月は『門』、この3作品は前期三部作と言われています。それぞれ主人公の名前は異なりますが、まるで一人の人間の成長過程を描いたかのよう。今年の夏も暑そうですが、「時の流れを感じながら本を読んだ」という思い出をご一緒できたらと思います。

「なに大丈夫だ。彼奴も大分変ったからね」と云って、平岡は代助を見た。代助はその眸の内に危しい恐れを感じた。ことによると、この夫婦の関係は元に戻せないなと思った。もしこの夫婦が自然の斧で割ききりに割かれるとすると、自分の運命は取り帰しの付かない未来を眼の前に控えている。夫婦が離れれば離れる程、自分と三千代はそれだけ接近しなければならないからである。代助は即座の衝動の如くに云った。――
「そんな事が、あろう筈がない。いくら、変ったって、そりゃ唯年を取っただけの変化だ。なるべく帰って三千代さんに安慰を与えて遣れ」
「君はそう思うか」と云いさま平岡はぐいと飲んだ。代助は、ただ、
「思うかって、誰だってそう思わざるを得んじゃないか」と半ば口から出任せに答えた。
「君は三千代を三年前の三千代と思ってるか。大分変ったよ。ああ、大分変ったよ」と平岡は又ぐいと飲んだ。代助は覚えず胸の動悸を感じた。
「同なじだ、僕の見る所では全く同じだ。少しも変っていやしない」
「だって、僕は家へ帰っても面白くないから仕方がないじゃないか」

30歳の主人公「代助」は、学校を卒業した後も就職せずに父親の援助で悠々自適にくらしています。友人が病気で亡くなり、残された妹「三千代」に恋心を抱きながらも、銀行勤めの友人「平岡」の元へ嫁がせます。その後三千代は体調を崩し、また平岡も銀行資金の使い込みが発覚し辞職、夫婦仲に亀裂が入り、三千代の幸せを願ったはずが思い通りにはならなくなります。そこへ上記の平岡との会話です。手を差し伸べずにはいられなくなり、傍観者であるはずの自分が巻き込まれ、悠々自適を歩んでいた人生が、いよいよ自分の手で漕ぎ出さずにいられなくなります。

この、「傍観者でいる」ということ。いろんなことが億劫で、自分が少し外側から眺めていることに安心を覚える気持ちは私もわかります。その人が本来持っている特性、みたいなものでしょうか。自分の力を発揮できるのも、ど真ん中ではなくて少し外側にいてこそ。その方がよく見えるしよく動けると思う場面がこれまでもありました。
ですが、今年、私はこの姿勢を少し崩すことにしました。「好きなことばかりしていると人生は退屈」とは誰かの言葉だったと思うのですが、昨年ようやく朗読だけをしていられる環境を作ることができ、それは願ってもいたしありがたいとも思うのですが、反面少しの「退屈」を感じたことも事実です。好きなことで埋められた時間は、言ってみれば「できること」で、考えたり案を生み出したりする要素が減って行きます。オンラインの朗読教室をえいやっと立ち上げたときのような未知のこと、わからないままに自分が発案していくこと、そういうミッションに立ち向かうようなワクワクした気持ちが足りなくなっていくのです。

代助は、三千代に手を差し伸べ、自分の生き方を変えていきます。わたしも、少し外からの刺激を受けて、変化を楽しもうと思います。あるがままではない自分、少し無理をした自分を選択肢にもって、歩幅を大きくしていけたらと。そうして、大袈裟ですがミッションやハプニングが日々の刺激になって、「人生を楽しむ」ことができたらなと。

7月のオンライン朗読教室ブンガクコースは、
『それから』(夏目漱石)です。スケジュール
代助の意識の変化を追いながら、ご自身の視界をほんのすこーし広くしてみませんか。

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