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『遠野物語』(柳田國男)

*2022年4月朗読教室テキスト②アドバンスコース
*著者 柳田国男

この話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。昨明治四十二年の二月ごろより始めて夜分おりおり訪ね来たりこの話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手にはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも加減せず感じたるままを書きたり。思うに遠野郷にはこの類の物語なお数百件あるならん。我々はより多くを聞かんことを切望す。国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。
(本文序文より)

昨年この朗読教室で月替りのコースをスタートした際も、アドバンスコースの初回は柳田国男で『雪国の春』でした。今回は、おそらく柳田作品ではもっとも有名な、しかし実は原案が別の作者である『遠野物語』を取り上げます。

冒頭の引用文に「佐々木鏡石君より聞きたり」とあるのは、実際に遠野で物語を収集したのが柳田国男ではなく、遠野に住む佐々木喜善(筆名:鏡石)という人物ということからです。柳田国男自身は出身も住まいも遠野とはなんの縁もなく、その土地の物語に惹かれて、佐々木喜善の話を聞き取りに東京から遠野へ通っていました。

お伽話も昔話も、その土地で何代にもわたって語り継がれていき、いつしか余分な装飾が削ぎ落とされていって皆が知るところの「おはなし」になり、あるとき「著者」と名乗る人物によって書き記されることになります。遠野物語に描かれる世界もそういった性質を持ってはいるのですが、おとぎ話や昔話と大きく違う点は「山口なる旧家にて・・・」「小烏瀬川の姥子淵の辺に・・」など地名や人名がはっきりと表記されていることです。それの意味するところは、誰かが実際に目にした出来事、あるいは体験した事実に基づく話であることです。
遠野は早池峰山や石上山、六角牛山などに囲まれた盆地で、かつては湖だったと言われている土地です。物語に登場する、天狗が飛び回り山男や山女が姿を見せる山々も、河童が現れていたずらしていく川も、すぐ目の前に存在します。佐々木喜善から語られる物語は、目の前の風景を舞台として展開していきます。知人となった誰かの家族の話であることも少なくないでしょう。東京から長い旅路を経てたどり着いた柳田国男にとって、佐々木喜善から語られる物語が遠野の風景と結びつき、まさしく戦慄するごとく魅力的に映ったのではないでしょうか。

4月のアドバンスコースは柳田国男の『遠野物語』を選びました。オシラサマ、河童、山男山女、座敷わらし。遠野の風景とともに朗読し、柳田国男が「戦慄」と表現した感情を追体験できればと思います。

朗読教室オンライン 4月のスケジュール

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