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サンタさんへ こいつはあずかった 7/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

■ショッピングモール・広場(夜)

 連れ立って帰っていく蒼井家。天嵩、エルフたちを振り返る。

天嵩「先歩いてて」
優「え?わかった……」

 先を歩く正人、祐徠、妃璃愛。追いつく優。

祐徠「結局いいヤツらだったんだよね?」
正人「うん……すげーいいヤツらだと思う」
祐徠「……あ、そういやオレ1匹ぶん投げちゃった」
正人「……あ!」
祐徠「どうしよう?」

 背中に背負ったプロペラ付きの機械で浮遊しているダンディが上の方から現れる。

ダンディ「ノープロブレム」

 マッシたちの方へ飛んでいくダンディ。キョトンとして見ている正人と祐徠。
 ダンディ、無事コテッシの隣に着陸する。天嵩が近づいてくる。

ダンディ「マッシ!天嵩にひどいこと言って!天嵩はそんなに悪い子じゃないってマッシが一番よくわかってーーー」
コテッシ「ダンディ、そのくだりは終わりました」
ダンディ「え?」
コテッシ「だーかーらー。マッシが嫌なやつのふりをして、家族が天嵩を庇って、何やかんやあって、あんな感じにまとまったんです」
ダンディ「あ、そういうこと」

 天嵩、ポケットから手紙を取り出し、歩いて行ってマッシに差し出す。

マッシ「おお、書いてくれたのか。ありがとう。だがちょっと……計画を変更しなくちゃならなくなった」

 アジュとハルカの方を見やる。ハルカ、エルフサイズに縮んでいる。

天嵩「あの人たち、敵?」
マッシ「エルフに敵も味方もないよ」
天嵩「でも悪役の顔してる」

 怖い顔で睨んでいるアジュ。

マッシ「あー、まあな……とにかくこっちはいいから、その手紙はちゃんとポストに入れてくれ」
天嵩「でもオレ、サンタに用事ないよ。プレゼントももらえないことだし」
マッシ「もらえるように我々がすると言っただろ」
天嵩「でもさっき『今年のクリスマスに、プレゼントが届く予定はありません』って言っちゃったじゃんか」
マッシ「予定はない。ただ予定は変更になることもある」
天嵩「なんだそれ」
マッシ「おい、さっきはそれ以外にもいろいろ嫌味っぽいことを言ったが、私は嫌味っぽい言い方をしただけで、君を傷つけるようなことは……」
天嵩「わかってる。……ありがとう」

 マッシにぎゅっと抱きつく天嵩。

天嵩「みんなに会えてよかった」
マッシ「ずっと前から出会っていたんだぞ」
天嵩「じゃあ、また会えるんだよね?」
マッシ「当たり前だ」

 天嵩、コテッシとダンディを指先でくすぐる。

天嵩「家にお菓子置いとくから」
コテッシ・ダンディ「「天嵩最高!」」

 家族の元へ走っていく天嵩。その背中を見送るマッシ。思いを断ち切って振り返り、ふ、とエルフサイズになるマッシ。

アジュ「"また会える"なんてよく言えましたね。あなたは今から本部に連行されるんですよ。もう二度と戻れない可能性もあるのに」
マッシ「ああ。嘘にはならないだろう」
アジュ「これだけエルフの規定を破っておいて、その自信はどこから来るんですか?」
マッシ「プレゼントを渡した瞬間に連行されてもおかしくないと思っていたが、君たちは一部始終を黙って見守り、お別れまで言わせてくれた。我々のやろうとしていることに少なからず興味を持ったということだ」
アジュ「……私たちをたぶらかすつもりなら……」
マッシ「君たちを味方に引き込んだり説得するつもりはない。ただ君たちはおまわり班として、自分の目で見たことを支部長に報告する義務があるはずだ。嘘偽りなく」

 バチバチと視線を交わすアジュとマッシ。

■小学校・音楽室

 クリスマス会の練習時間。黒板には「クリスマス会まであと2日!心を込めて演奏しよう♪」とある。相変わらずまとまりのないクラスと、ピアニカの練習をする翔真、熱心に指導する渡辺先生。
 後ろの席から見ていた天嵩、立ち上がり翔真の元へ行く。恐る恐る見上げる翔真と渡辺先生。

渡辺先生「蒼井さんーーー」
天嵩「楽器ってピアニカじゃないといけないの?」
渡辺先生「……え?」

 ぴっと打楽器を指さす天嵩。

天嵩「オレあっちの方がうまくできそうだな。翔真、一緒にやろうぜ」
翔真「……!うん、あっちの方がいい。先生、ダメですか?」
渡辺「えっ」
女子児童A「えーっそういうのアリなの?じゃあ私ピアニカよりピアノ弾きたいな〜」
女子児童B「それいい!瑠璃うまいもんね、ピアノ!」
女子児童A「ヒナは歌うたえば?」
女子児童B「え〜1人で歌うの恥ずかしいよ……」
男子児童A「なら合唱は?俺も歌がいいな」
女子児童C「へ〜あんたちゃんと歌うの?」
男子児童A「うまいから!わりと!」

 笑い合う児童たち。少し考え込む渡辺先生。

渡辺先生「う〜ん、そうね……」

 そこへ副担任の木村美穂先生が入ってくる。

渡辺先生「あ、美穂さん……じゃなくて木村先生、ねえどう思う?あのね、皆さんがクリスマス会でね、ピアニカだけじゃなくて、歌とピアノと打楽器も入れたいんですって」
木村先生「あら、まあ〜でも本番まで2日しかないけど大丈夫?」
渡辺先生「そうなのよね〜……」

 生徒たちを見回す2人。ピアノの周りに集まって試しに演奏している子どもたち。天嵩、翔真、大太鼓とスネアを叩きながら時々ふざけあっている。

渡辺先生「まあでも……楽しいのが一番よね」
木村先生「それもそうね」

 自由に演奏を楽しむ子どもたち。

■1225本部・法廷

 天嵩のクラスのクリスマス会の様子が大きなスクリーンに映されている。天嵩の笑顔が映ったところで停止ボタンが押される。
 薄暗い法廷。円形の部屋には壁に沿って座席が何列も並んでおり、200人あまりのエルフでその席は埋め尽くされている。円の中心に座らされて注目を集めているマッシ・コテッシ・ダンディ。マッシは背筋をスッと伸ばして膝に手を置きじっと前を見据えている。コテッシはもじもじと脂汗をかいており、ダンディは手遊びをして落ち着かない。胸元に"しおり"をつけられた3人のそばにはアジュとハルカが控えており、マッシたちと向かい合うようにアジアⅡ支部長が立っている。周りより少し高い座席に座っている裁判長(近藤正臣)。

アジアⅡ支部長「……それではあなたたちの主張はこうですか。我々エルフが数百万人規模の人員を挙げて行っているランク判定など人間にとって全く迷惑だから、そんな業務は廃止して、望まれるがまま子ども全員にプレゼントを配布するべきだと」
コテッシ「(小声で)いや、迷惑だなんて言ったつもりはーーー」
マッシ「その通りです」

 ざわつく法廷。大半は呆れて笑い、一部は憤慨している。無表情の支部長。

マッシ「我々エルフは人間をよく見ているつもりでいるがその実、本人と直接話をすることはできないため結局は表面的な評価を下すしかないのです。皆さんも一度くらい、自分の判定が正しいのかと不安を抱いたことはありませんか?」

 腕を組んで鼻で笑う裁判員エルフ・ミッチー(及川光博)。

ミッチー「それがエルフの仕事ってもんでしょ。自分の仕事に自信が持てないのは単にエルフとしてのスキル不足なんじゃないの?真のエルフなら、遠目から見てその子の本性を見抜くと思うけど」
マッシ「ではあなたの判定が正しいかどうかを遠くから判定する別のエルフが必要かもしれませんね」
ミッチー「なにぃ?」
裁判長「静粛に、静粛に。マッシ、サンタクロースを信じる全ての子どもにプレゼントを配ると、どんな良いことが起こるんでしょう?」
マッシ「それはわかりません」

 またどよどよと騒ぎ出す法廷。

マッシ「ただ、配られなかった子の気持ちを無視することができません。悲しみや悔しさなんてクリスマスに味わうべき感情ではないと考えるからです」

 手を挙げて発言の許可を得る裁判員エルフ・ハギー(萩原聖人)。

ハギー「しかし、全員配布というのはいささか乱暴な気がいたします。良い子で頑張った子の立場からすれば、どんなに悪いことをした子でもプレゼントをもらえると知ったら頑張り甲斐というものに欠けるのではないでしょうか。"頑張ったらご褒美がもらえる"、というインセンティブは無くすべきではないかと」
マッシ「だがプレゼントをもらえなかったことで自信を無くしてしまうについてはどうしますか?"どうせ自分なんか"と自分を否定し蔑む気持ちがまたその子を悪い方へ引っ張って、どんどん立ち直るチャンスがなくなってしまうんですよ!これでは良い子が減る一方だ!」
ミッチー「だったらなんだって言うのさ。プレゼントを配る数が減るだけでしょ」
マッシ「本気で言ってんのか!!」
裁判長「静粛に!」

 ガベル(木槌)を打ってエルフたちを鎮める裁判長。

ハルカ「あのー……」
裁判長「はい、どうぞ」
ハルカ「プレゼントをたくさん配るのは、悪いことですか?」
裁判長「というと?」
ハルカ「皆さん的には、あんまりプレゼントあげたくないな〜って感じなのかなぁと思って……」

 また「何を言ってるんだか」などの笑いで少しざわつく。

裁判長「我々はクリスマスから生まれたエルフですから、そんなことはないと思いますが」
アジュ「そうでしょうか?」

 静かだったアジュが意を決して一歩前に出る。リモコンで操作しスクリーンにグラフを投影する。

アジュ「世界の人口は今や10年で10億人というペースで増加しています。さらにグローバル化によってクリスマスという概念が世界中に広がりました。サンタクロースを信じる全ての子どもがプレゼント配布の査定対象なら、当然プレゼントをもらう子どもも急速に増えているはずです。ところが近年のプレゼント配布実績を見てみると、100年前と比較してもせいぜい1.5倍程度で、それほど増えておりません。比率で見ればむしろ配布対象の子どもはかなり減っているのです」
アジアⅡ支部長「何が言いたいのですか?」

 尊敬する上司を前に、言っていいか少し迷うアジュ。

アジュ「えー、クリスマスプレゼントの出荷量を増やせば、工場の増築も配布スケジュールの調整も必要になるでしょうし、プレゼントリストの管理もより複雑になりますし、新人が増えればそれだけ教育コストもーーー」
アジアⅡ支部長「何が言いたいの?」

 見つめ合う2人。深く息を吸うアジュ。

アジュ「お言葉ですが!!皆様は変化を恐れ古い習慣に固執し、本来の目的を見失った怠け者に成り下がってしまったのではないでしょうか!!」
ミッチー「こいつは何を言っているんだ!!」

 野次が行き交う法廷。

アジュ「プレゼントをより多く配るということはそれだけクリスマスの運営に負荷がかかることになる、だから今の体制が崩れないよう、ランク判定のハードルを上げ続けてプレゼントをもらえる子どもをどんどん淘汰していったのではありませんか?ランク判定の最終的な判断は、支部長以上の権限を持つエルフしか知り得ないことですから、私たちは真実を知りようがありませんが」
マッシ「おい、君ちょっと落ち着いて……」
コテッシ「支部長の鼻から煙が出そうです……ヒャッ!こっち見た……」
アジュ「我々エルフはクリスマスに互いを思い合う人間の心から生まれた。そのことを忘れて、人々が心を通じ合わせる助けとならないのなら、私たちは一体何のために存在するのですか?」
裁判長「静粛に!静粛に!」

 法廷の重い扉が開く音がして、遣いのエルフ・ネノリ(永野宗典)が裁判長の元へ走っていく。手には手紙を持っている。

裁判長「君、審議中だよーーー」
ネノリ「あの方からです……」
裁判長「あの方って……」

 上を指さすネノリ。

ネノリ「審議の参考として提出してくるように言われて……」
裁判長「これは……」
ネノリ「蒼井天嵩からの手紙です」

 ハッと顔を見上げるマッシたち。手紙を開封する裁判長。ざっと読んで、手紙をアジアⅡ支部長に手渡す。

裁判長「読み上げてくれますか」
支部長「?はい……」
支部長「サンタさんへ。ぼくはクリスマスプレゼントをもらえないと聞いてそりゃそうだと思いました。だけど、家族やエルフたちがぼくを見守って、ぼくがいい子になれるように応援してくれると言ってくれたので、時間がかかるかもしれないけど、どうやっていい子になれるか考えるようになりました。前のぼくじゃなくて、今のぼくなら、プレゼントをもらってもいいのかなと思いました。まだいい子になれたわけじゃないんですけど。だから一応書いておくと、ぼくはSwitchがほしいです。むりならいいです。さよなら」
ハギー「……?さよなら?終わりですか?」
支部長「はい、終わりです」

 どういうこと、と囁き合うエルフたち。ちょっと笑っているマッシ、コテッシ、ダンディ。

裁判長「アジア第二支部長、君はどう解釈しますか」
支部長「これを審議の参考にするようにとおっしゃられたのであれば、これがあの方の意思と考えます。つまり……善い方へ成長する意欲、向上心がある子であれば、たまに過ちを犯すことがあっても、プレゼントをもらう資格がある、と」
裁判長「なるほど」

 裁判長、ニッコリ笑ってから、ガベルをまたトントン、と叩く。

■蒼井家・2F 天嵩の部屋

 朝日が差し込む天嵩の部屋。階下から優の呼ぶ声がする。

優「天嵩〜!そろそろ起きなさいよ!」
妃璃愛「てん兄ちゃーん、プリキューハイランドの日だよ!!」

 唸る天嵩。身体を起こす。ふと枕元を見て、みるみるうちに顔に笑みが広がっていく。
 真っ赤な包装紙に包まれたプレゼントが置いてある。

▼登場人物表はこちら

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