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教育は心に火をつけるように、そして芸術のように。

昨今問題になっているアメフトの件に関して、関西学院大学の小野ディレクターの発言に称賛が集まっているらしい。僕ははじめそれを聞いて「なんだかなぁ」という思いでいたが、実際に会見の映像を見たらたしかに響くものがあった。

僕もコーチを二十数年していましたんで、ちょっとだけ付け加えると、やっぱりその闘志っていうのは、やっぱり勝つことへの意欲だと思いますし、やっぱり、それって外から言われて大きくなってくるものじゃあ、やっぱりないっていうふうに思っています。やっぱり自分たちの心の中から内発的に出てくるものがやっぱり一番大事ですし、それがやっぱり選手の成長を育てるもの。それは一番、根源にあるのは、やっぱりフットボールが面白い、楽しいっていう気持ちが一番大事です。

で、やっぱりわれわれはコーチとして、一番大事なのはその選手の中に芽生えるその楽しいっていう気持ち。これはもうろうそくの火みたいなもんで、吹き過ぎると消えちゃいますし、やっぱり大事に少しずつ大きくしていかなきゃいけない。でも、そこにはそっと火を大きくするような言葉も大事でしょうし、ですけど、やっぱりそれは本当に内発的なものをどう育てるかということが一番コーチにとって、一番難しい仕事なんだというふうに思っています。

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僕もインプロという即興演劇を教える立場で、それはまさに「心に火をつける」仕事だと思っている。特に即興することは「これをやりなさい」と押し付けることはできないから、どうしたら相手が自由に表現できるかをいつも考えている。


「Inspire(インスパイア)」という言葉の語源は、ラテン語の「In(中へ)」と「Spirare(息を吹き込む)」であるらしい。そしてそれはまさに「火をつける」ことと重なる。

無理に息を吹き込みすぎても火は消えてしまう。一方で、無風でも火を起こすことはできないし、真空であったら消えてしまう。火起こしをするときには適度に空気を送り込む必要があるように、人をインスパイアするときにも適度な風は必要なのだと思う。


そんなことを考えていたら、フロー理論のことを思い出した。フロー理論とは心理学者のミハイ・チクセントミハイが人が夢中になっている状態(スポーツの世界では「ゾーン」と呼ばれたりする)について研究したものである。チクセントミハイは人がフロー状態になるための要素を8つ挙げている。そしてその中でもよく引用されるのは「スキル」と「チャレンジ」のバランスである。

人はスキルに対してチャレンジがちょうどいいときに夢中になれる。難しすぎては不安になるし、簡単すぎては退屈してしまう。これは当たり前といえば当たり前だが、しかし実際にその状態を生み出すことは簡単ではない。また、一度生み出されたとしてもスキルは上がっていくから、常にチャレンジをし続けなければならない。

心の火を大きくするために、人はチャレンジをし続ける必要があり、教師はチャレンジをさせ続ける必要がある。もちろん失敗ができる安全な場所で。


6年程前にアレクサンダー・テクニークという身体の使い方のワークショップに参加した。そのワークショップはパフォーマー向けのものであったが、教師のキャシー・マデン(この世界では世界トップレベルの教師)が「あなたたちがどういうアーティストなのかを知りたい」と言って、次の4つの区分を書いたことが印象に残っている。

1. Musician
2. Dancer
3. Actor
4. Teacher

キャシーはこれを書いて「なぜ教師もこの中に入っているのかと思うかもしれない。しかし私は教師もアーティストだと思っている」と言った。

当時の僕はこれを聞いて「いい話だな」くらいにしか思っていなかったが、インプロをパフォーマンスしたり教えたりしてから8年程たって、ようやくその意味がよく分かるようになった。

アーティストの仕事はチャレンジすること。そして教師の仕事はチャレンジさせること。それはコインの表と裏のようにひとつのことで、そして答えのない問いなのだ。

教育は心に火をつけるように、そして芸術のように。

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