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子供のためにインプロワークショップをするときに心がけていること

僕はありがたいことに様々な人から出張インプロワークショップの依頼を受ける。そして東京学芸大学で教育学を学んでいたこともあり、子供向けのワークショップを依頼されることもしばしばある。

正直に言って、僕はこれまで子供向けのインプロワークショップをすることに苦手意識があった(まわりからは「とてもいい」と言われていても)。しかし最近はようやく普通の感覚でワークショップができるようになってきた。

そこでここでは子供(小学生くらい)のためにインプロワークショップをするときに心がけていることを書いてみようと思う。インプロに限らず、子供に何かを教える人には参考になる内容だと思う。

「相手にいい時間を与える(Give your partner a good time)」ことを一番大事に

ざっくり言えば、インプロは自由と貢献について学ぶものだと思う。そして大人にインプロを教える場合、まずは自由になることからアプローチしていく。なぜなら頭が検閲で一杯ではどんなゲームもできないからだ。そしてたいていの大人は頭が検閲で一杯だ(!)

一方、子供にインプロを教える場合は貢献すること、つまり「相手にいい時間を与える(Give your partner a good time)」ことからアプローチしていく。なぜなら子供ははじめからかなり自由だし、大人と違って自由の出し方に節操が無いからだ(すぐに「ドッジボールしよう」になってしまう)。

最近の子供向けワークショップでは、最初の段階で「インプロでは相手にいい時間を与えることが一番大事だよ」と伝えている。そして色々なゲームをやるたびに「どうしたらもっと相手にいい時間を与えられるかな?」と問うようにしている。

これは一見すると退屈な(そして教育的すぎる)問いに見えるかもしれないが、子供たちは僕の想像以上に素直に、そして知的にその問いについて考えてくれる。インプロは「誰かのための創造性」を発見するものだと僕は考えているけれど、それは子供にもあるのだと感じる。

インプロに限らず、子供向けのワークショップでは「子供は想像力が豊かですね」で終わるものが多い。しかし僕はその先までチャレンジしたい。想像したものを相手に伝え、受け取り、ともに創造していく。そこまでいってインプロになるし、演劇になると考えている。

説明するより見せてみる

インプロのゲームを紹介するときに、大人向けのワークショップでは言葉だけの説明でも通じることが多い。また、参加者に協力してもらって指示しながら例示することもできる。

しかし子供向けのワークショップではその方法は難しい。子供は言葉だけで物事を理解することに慣れていないし、何よりそのゲームの「楽しさ」が分からないと子供は動き出さないからだ。

だから子供向けのワークショップでゲームを紹介するときには、「とにかく実際にやって見せてみる」ということを心がけている。しかもそれは1回の例示で終わりではなく、何回も見せてもいい。

そうしているうちに子供の方から「やりたい!」という声があがってくる。そうしたら「じゃあどうぞ」と明け渡していく。それが子供にゲームを紹介する理想的な流れだと思っている。

なお、この方法をするためにはインプロができる大人が最低でも2人は必要になる。子供向けのワークショップでは細かいケアも大事になるから、ワークショップは2人以上で行うのが望ましいと思っている。

「リン」をたくさん鳴らそう

インプロには「イルカの調教ゲーム」というゲームがある。これは教育に携わる人には1度は体験してほしいゲームで、ルールは次のとおりである。

イルカの調教ゲーム

イルカ役の人がひとり舞台に上がり、他の人は調教師役としてイルカに聞こえないようにやってほしい動き(例:正座する)を決めます。ゲームが始まったら調教師はイルカにその動きを教えますが、言葉で教えることはできません。イルカが自由に動き回っているときにやってほしい動きに近づいたら(例:しゃがむ)「リン」という合図のみでイルカに動きを教えていきます。イルカがやってほしい動きをできたら終わりです。なかなか分からずイルカが困っているときは調教師がヒントをあげます。もちろんお互いギブアップしても構いません。

このゲームで学ぶ主体はイルカではなく調教師です。そしてゲームが成功したか失敗したかは重要ではなく、イルカが自由に楽しく学べたかが重要になります。イルカ役の人に恥をかかせる無茶振りゲームではありません(そうなっていたらうまくいっていません)。学ぶ・教えるということに対してとても示唆に富むゲームだと思います。

引用元:インプロとは?

このゲームのポイントは「やってほしいことをやってくれた」らリンと鳴らすことである。逆に言えば、「やってほしくないことをやった」からと言って罰を与えることはない。

これは日常生活でもそうだが、ワークショップでも嬉しいことはなかなか気づかず、問題はすぐに目につきやすい。しかし問題ばかり指摘していては子供は萎縮してしまう。だからできるだけアンテナを張っておいて、嬉しいことに気づいたらこまめにそれを伝えるように心がけている(もちろん困ったときに「それをされると困る」と伝えることもある)。

同時に、それが「良い」「悪い」にならないようにも心がけている。社会的に正しいから「よくできました」「偉い」と言うのではなく、自分にとって嬉しかったから「嬉しかった」「ありがとう」と言うようにしている。

最初にも書いたように、インプロで一番大事なのは「相手にいい時間を与える」ことだと僕は考えている。それが結果として社会のルールと一致しているならそれでいいし、一致していなくてもいいと思っている。誰も困っていないのに問題を訴える必要はないし、誰かが困っているなら何かを変えるべきだ。

「それがルールだから」で思考停止するのではなく、「それが相手にとっていい時間になっているか」に誠実に向かい合う。そして相手により良い時間を与えるために創造性を発揮する。そしてそのプロセスを楽しむ!それが将来を担う子供たちに僕が望んでいる姿である。

IMPRO KIDS TOKYOについて

僕は最近になって子供向けのインプロワークショップの苦手意識がなくなってきたが、その理由はIMPRO KIDS TOKYOからの依頼で子供向けのワークショップをやる機会が増えたことが大きい。

IMPRO KIDS TOKYOは「子どもも大人も一人の人間」というモットーを掲げて、インプロを応用した教育活動を行っている団体である。

一般的に言っても、子供向けにインプロワークショップをやることは大人向けにやるよりも難しいと思う。日本においてはまだまだ未知の領域であると言ってもいいだろう。しかし同時に、そこには可能性があるとも思う。

ご興味のある方はIMPRO KIDS TOKYOにでも僕にでもご連絡ください。ともにより良い世界をつくっていきましょう。

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