2018年春山小屋合宿__190613_0036

ザ・ベクデルテストから僕が学んだこと

僕は明後日6月15日(土)にザ・ベクデルテストのショーケースに出演する。そしておそらく僕がザ・ベクデルテストに関わるのは今回が最後だと思っている。

そこでここでは僕がザ・ベクデルテストから学んだことと、なぜ関わるのが最後だと思っているのかについて書いてみようと思う。インプロに限らず、演劇に関わる人には参考になる内容だと思う。

ザ・ベクデルテストとは

ザ・ベクデルテスト(The Bechdel Test)とは、「ベクデルテスト」にインスパイアされてBATSのリサ・ローランド(Lisa Rowland)が生み出したインプロショーのフォーマットである。

ベクデルテスト」はインプロの用語ではなく、映画のジェンダーバイアスを測るためのテストであり、以下の3つのテスト項目がある。

1. 名前がついている女性が2人以上登場するか?
2. その女性同士が会話をするシーンがあるか?
3. その会話の内容は、男についての話以外であるか?

アメリカの漫画家アリソン・ベクデルの漫画の登場人物が「これをパスする映画しか見ない」と話しているところから「ベクデルテスト」と名付けられた。

テスト内容はこれだけだが、意外とパスしない映画も多く、Bechdel Test Movie Listによると現在でも約3割の映画はベクデルテストをパスしていない。

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そしてこのような現象はインプロにおいても起こる。むしろインプロは映画よりも典型的なキャラクター・ストーリーラインになりやすいため、その確率は高いかもしれない。例えば「政治家」が必要なシーンでは、だいたいの場合男性がそのキャラクターを演じる。そして女性は「秘書」や「愛人」といったキャラクターになりやすい。

ザ・ベクデルテストはこのような問題について考えるために生み出されたフォーマットである。ザ・ベクデルテストではまず最初に3人の女性が即興でモノローグを行う。そしてその3人の女性のシーンを次々と行い、最後にはその3人が出会う(途中で出会ってもよい)。また、終演後には観客とのアフタートークの時間があり、そこで感想をシェアする。

キャラクターの多面性を描く

実のところ、僕がザ・ベクデルテストをやるのは「ジェンダーバイアスについて考えるため」が主目的ではない。

僕がこのフォーマットに惹かれたのは、その劇の作り方によるところが大きい。フォーマットの生みの親であるリサ・ローランドは、ザ・ベクデルテストを行うにあたってのノートをいくつか残している。そこでは次のようなことが語られている。

「私たちのゴールは女性たちを主人公としたストーリーを伝えることではなく、女性たちの人生における様々な場面のスナップショットを撮ることです。」

「誰が彼女たちを笑わせて、悲しませて、ハイステータスにさせて、ローステータスにさせるでしょうか?様々な場面で現れる『あなた』を表現する方法を想像してみてください。」

これまでのインプロはストーリーがメインであったが、そうではないインプロがあってもいいこと、そしてそれはキャラクターの多面性を描くことによって達成されること。僕はこの考え方に新しさを感じたし、面白さを感じた。

そして「キャラクターの多面性」で考えれば、男性も女性も当たり前に持っていることが明らかになる。それが結果として創作におけるジェンダーバイアスをクリアにしていったらいい、と考えている。

僕は基本的に演劇に「面白さ(見て分かる面白さ)」を求めているので、どんなに意義のある演劇でもつまらなかったしょうがないと思っている。その点ザ・ベクデルテストは面白くて、新しくて、そして意義のある演劇になる可能性があると感じている。

「演劇は現実を映す鏡ではない。その鏡を壊すハンマーである」

僕はこれまでザ・ベクデルテストの松山公演、東京(曳舟)公演、横浜公演に関わってきたが、このうち横浜公演はかなり毛色が異なる。

なぜなら横浜公演にあたっては高尾隆さん(僕のインプロの師匠)のゼミ生による合宿があり、そこで高尾隆演出のもとザ・ベクデルテストについて改めて考えていったからだ。

そのひとつにはライフゲームの考え方を加えたことがある。ライフゲームとはキース・ジョンストンによるショーのフォーマットのことである(「ゲーム」とついているが、いわゆるゲームではない)。このフォーマットではゲストにインタビューをし、そこからインプロをシーンをいくつも作っていく。

当たり前と言えば当たり前だが、キャラクターの多面性を描くにあたって、実際の人間の人生ほど豊かなものはない。だからライフゲームの考え方を加えたザ・ベクデルテストはより繊細なものになったと感じている(一方で、繊細すぎるゆえのおとなしさもあった)。

また、この公演では「演劇は現実を映す鏡ではない。その鏡を壊すハンマーである」という言葉が合言葉になった。(おそらくもとはブレヒトの「演劇は現実を映す鏡ではない。現実を形作るハンマーである」だろう。)

これまでのザ・ベクデルテストでは女性たちの様々な「日常」を描くことが多かった。しかし「ハンマー」を取り入れたことで、女性たちが「決断」するシーンも生まれるようになった。僕はその時クロサワインプロもやっていたのでそれとの近さも感じていたし、そのようなシーンはやはり劇として面白くなるという実感もあった。

色々な人が体験したらいいと思う

僕は今回の公演でザ・ベクデルテストに関わるのは最後だろうと感じている。それはザ・ベクデルテストに価値がないからではなく、多くの人(特に男性)が体験したらいいと思っているからだ。

実際、ザ・ベクデルテストを経験して僕のインプロ観、演劇観はかなり広がった。その体験を他の人にもしてほしいと思っている。

というわけで明後日のザ・ベクデルテスト、男性でも女性でもご興味ある方はどうぞお越しください。まだお席あります。どうぞよろしくお願いします。(こちらの公演は終了しました。)

2022/03/21追記:現在、僕が代表をしているインプロアカデミーではザ・ベクデルテストを体験できるクラスが参加者募集をしています(4月20日まで)。インプロや演劇の経験の有無は問わないクラスですので、ご興味ある方はぜひ。

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