かわおと うつほ

さまざまな形式をとった、音楽(クラシック、ジャズ、ロック、ポップス)その他の感想 e…

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さまざまな形式をとった、音楽(クラシック、ジャズ、ロック、ポップス)その他の感想 eijin.adachi@gmail.com

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細野晴臣『トロピカル・ダンディー』を聴いて

細野晴臣の音楽について語ること、それは野暮ではないかと私には思えてしまう。彼の音楽を聴いて得ることのできる、えも言われぬ幸福感、それは言語化するために掬い上げようとすると、手の隙間からサラサラと零れ落ちてしまう、真に音楽でしかないものである。だから、「細野晴臣を何か聞いてみたいのだけれど…」という人がいたら、私は何ら言葉を用いずに、「まあどれからでも聴いて間違いないから、まず聴こうか」とスピーカーの電源を点けることになると思う。 それでも、ここで音楽のことを語ると決めた以上、

    • 『君たちはどう生きるか』を観て【後編】-キャラクター、テーマ、メッセージを読む-

      スタジオジブリ制作・宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』について、前編ではストーリーのおさらいと、プロットの確認、そして謎めいた設定について考えた。 後編ではより踏み込んで、映画における三人のキャラクターの役割、映画の外に居るわれわれ観客に画面は何を訴えかけるか、そしてそれらを踏まえた映画全体が伝えるメッセージとは何か、について私の考えたことを書いていきたいと思う。 前編を読んでいなくてももちろん構わない。一方で、前編と併せて読んでいただくことで、映画全体を多層的に見通

      • 『君たちはどう生きるか』を観て【前編】-プロット、メタファーを読む-

        スタジオジブリ制作、宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』を観た。 やばかった、訳が分からなかった、ごちゃごちゃしていた、すごかった。 宮崎駿は、もうやりたいことをやりたかっただけなのかとも思った。構想がまとまらないまま制作に及んでしまったのかと思った。 しかし、観ている途中、そして観終わった後に不思議な感動が押し寄せてきた。何故だろうか? 単に宮崎駿の描く画面が、説得力を持っているからだとも思った。 いや、断じて、そうではない。決してやりたいことをやっただけでなく、テ

        • デヴィッド・ボウイ『ヒーローズ』を聴いて(友人Dとの対話)

          私「ボウイの『ヒーローズ』、カッコいいな」 D「うん、一曲目から、イカしてるぜ!って感じ」 私「そうそう、エッジが効いてて、機械音のインダストリアルな雰囲気がカッコいいよね。銀色の鎧をつけた二体のマシーンが、黒煙吐きながらチャンバラをしてるみたいな… ガチャガチャしてて、所謂メカニカルでござい!っていう音像がたまらない。」 D「何だその例え。まあ解らなくはないな。」 私「あと後半のインストの曲群、良いね」 D「へえ、どんなんだったっけ?『ロウ』と混ざってる… ワルシ

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          伊福部昭、芥川也寸志、吉松隆… アルバム『日本管弦楽名曲集』を初めて聴いたときのこと①

          #思い出の曲 前段:山田耕筰の交響曲 中学生でクラシック音楽にハマった私を、モーツァルトとベートーヴェンを好む父は大層喜んでくれた。そして、単身赴任でたまに家に帰ってくる父が、お土産として何枚もCDを持ってくるのを、楽しみにしていた。 そのうち私は20世紀の楽曲(特に1910~50年頃の作品)に嵌まるようになって、父とは若干好みが分かれてしまったが(整体師に「うちの息子はプロコフィエフを聴いているらしい…負けた…」と、こぼしていたらしい)、それでも私が好きそうな曲や、私に

          伊福部昭、芥川也寸志、吉松隆… アルバム『日本管弦楽名曲集』を初めて聴いたときのこと①

          ペギー・リー『ブラック・コーヒー』を聴いて(小説)

           彼はとても疲れていたので、勤め先と自宅のちょうど間に位置する、ファミレスに入った。席に着くが早いか、ウェイターにドリンクバーを注文して、メニューを開く。幾度となく来店したことのある、安価なファミレスだ。薄い紙の上、ところせましと並ぶ料理は、どれも見ただけで味を想像できてしまう。そのお決まりの店内にはいつも通り、聴き心地の良い、無害な音楽が流れている。  別段食べたいものは無い。ファミレスは、彼の心の底で、密かに、しかし確実に溜まっていく日々の心労が、ある閾値を越えたときに、

          ペギー・リー『ブラック・コーヒー』を聴いて(小説)

          植木等『植木等的音楽』を聴いて(後輩Bとの対話)

          私「これ、植木等ソロ活動期の最後のアルバムで、プロデューサーが大瀧詠一なのね。しかしまあ、本当にオススメ! https://youtu.be/XCnzFP0i0AA 「ナイアガラ・ムーン」「FUN×4」と、大滝詠一の楽曲の植木等によるカバーも入っているのだけれど、それらがなんというか、めちゃくちゃ歌唱力が高い訳ではないのだけれど、往年のフランク・シナトラのような、えもいわれぬ老練の味を出していて、とっても豊かだなぁって思う。 あと、21世紀音頭では三波春夫と、針切りじい

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          シューマンの交響曲第4番の色々な演奏を聴いて(A先輩との対話)

          私「最近シューマンの四番を聴いているんですが、Aさんおすすめの演奏はありますか?」 A「1953年、イエス・キリスト教会録音のフルトヴェングラーは聴きましたか?」 私「勿論です! フルトヴェングラーの、他の追随を許さないロマンティシズムが、これでもかというくらい爆発していて、よかったです。」 A「あれはカラヤンが越えられなかったって誰かが言ってたね。でも、カラヤンの『指揮の芸術』の中の第4楽章はよかったなって思います。」 私「カラヤンはシューマンの四番を、何度か録音

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          ウェイン・ショーター『Schizophrenia』を聴いて(後輩Bとの対話)

          私「ジャケ写が好みでなかったから、あんまり期待しないで聴いたけれど、とても良かった。 ショーターの同時期のアルバムだと『Adam's Apple』(1966年録音、1967年発売)の方が評価は高いみたいで、このアルバムは1967年に録音されているけれど、リリースは二年後の1969年なんだね。ちょっと寝かされている。 編成は、ウェイン・ショーター(ten. sax)、カーティス・フラー(trb)、ジェームス・スポルディング(fl, alto sax)のスリーホーンだから、ワン

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          チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の曲目ノート

          1  「四大ヴァイオリン協奏曲」というのがあるらしい。ベートーヴェン(1770-1827)、メンデルスゾーン(1809-1847)、ブラームス(1833-1897)、そしてこのチャイコフスキー(1840-1893)の作品を、まとめてそう呼ぶそうだ。何かにつけて「ベスト○○」などと呼びたがるのは、現代人の哀しき性であるにせよ、これら四曲が古今東西の聴衆を魅了してきたのは疑いの無い事実である。ところで、この四人の作曲家はヴァイオリンを弾かなかった。人並みには弾けたかもしれないが

          チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の曲目ノート

          マイルス・デイヴィス『ビッチェス・ブリュー』を初めて聴いて + ジャズにおける「黒さ」(後輩Bとの対話)

          https://youtu.be/r6oMwXXU_z4 私「ジャズを一年半くらい聴いてきて、ようやくフュージョンの良さがわかってきた いまならハンコックの『ヘッドハンターズ』とかも聞けそう。」 B「良いですね。どっちもファンク寄りのですよね。」 私「そのようだね。 ファンク系の他には何があるんだ?」 B「元がジャズですから大体黒人音楽の要素はあるので、ハービー・ハンコック等と比較すればの話になるんですけど、リターントゥフォーエバーとか、ラリー・コリエルはファンクの影

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          MAMAMOOの『Reality in Black』を聴いて + デジタル時代のA面B面(友人Cとの対話)

          私「おすすめしてくれたやつ聞いてるけど、いいね。 だいぶ前SixTONESの1STも聴いたんだけど、ジャニーズにしては曲調が新しくて、あれはこういういまのK-POP的な要素を取り入れたのか~と思った。 あとハングルって日本語よりビート系(?)の曲に合ってるよね。英語と混ぜても違和感無いと思う。 それは私が日本人だからそう思うのかしら。 加えて勿論だけど皆歌うまい。リーダーボーカルのソラは高音は完璧だし、Ten Nightsみたいなバラードもキレイに決めてて(彼女じゃなかっ

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          チャールズ・ミンガス『Mingus Ah Um』を聴いて(後輩Bとの対話)

          私「これいいっすね」 B「良いですね、ミンガスらしいアレンジで。テナーソロも良いですね。ブッカー・アーヴィンですかね。」 私「ですね。 なんかミンガスのアレンジってストラヴィンスキーとかバーンスタインっぽくもあるんだよね。これは昔から聴いてて好きだったバーンスタインの曲。」 B「なんでしょうね。エリントンを通じて影響を受けていたりするんですかね。」 私「エリントンとバーンスタイン仲良かったんか?」 B「いや、全然知りません。」 私「ぴえん [注:2020年当時、

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          コルトレーン『Ascension』の新しさについて(後輩Bとの対話)

          セシル・テイラーとヤニス・クセナキス 私「セシル・テイラーとエリック・ドルフィーだったら後者の方がすきですか?」 B「比較すれば、そうですね。」 私「やはりそうか。これは先入観があるかもしれないが、セシル・テイラーはクラシックの当時の現代音楽に影響を受けているから、いわばクラシック→ジャズと進んだのであって、それはつまりクセナキスなど現代音楽のもつバイタリティーをジャズに持ち込んだと考えられるような気がした。 対してオーネット・コールマンとかエリック・ドルフィーとかコ

          コルトレーン『Ascension』の新しさについて(後輩Bとの対話)

          マーラーの交響曲第9番を初めて聴いて(先輩Aへ向けた手紙)

          1 夜分遅くに失礼します。先程の件のお返事も出来ていないのに申し訳ありません。 今しがた、グスタフ・マーラー氏の交響曲第9番を初めて聴きました。 前から聴かなければならないと強く思っていたのですが、中々決心がつかず、それはバルビローリ/BPOとバーンスタイン/BPOのCDを手に入れても踏み切れず、私がマーラーを語っているときに後ろめたさを感じるくらいには悶々としていました。しかし、あまりにも「最高傑作」「作曲家愈々死に臨んでの作」などと素晴らしい評価で溢れているがゆえに

          マーラーの交響曲第9番を初めて聴いて(先輩Aへ向けた手紙)