かわおと うつほ

さまざまな形式をとった、音楽(クラシック、ジャズ、ロック、ポップス)その他の感想 eijin.adachi@gmail.com

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『君たちはどう生きるか』を観て【後編】-キャラクター、テーマ、メッセージを読む-

スタジオジブリ制作・宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』について、前編ではストーリーのおさらいと、プロットの確認、そして謎めいた設定について考えた。 後編ではより踏み込んで、映画における三人のキャラクターの役割、映画の外に居るわれわれ観客に画面は何を訴えかけるか、そしてそれらを踏まえた映画全体が伝えるメッセージとは何か、について私の考えたことを書いていきたいと思う。 前編を読んでいなくてももちろん構わない。一方で、前編と併せて読んでいただくことで、映画全体を多層的に見通

    • AOR玩味之記

      今年の6~7月頃にAORを集中的に聴いていたので、そのときの感想をまとめた。そのあとオルタナを聴くようになって、また気候がかなり暑くしんどくなってきて、現在はあまり聴いていないのだが、暑さの盛りを過ぎた今日この頃、これらのアルバムのことを思い出し、また取り出してみてもいいかもな、という気持ちになってきたので、記事にすることにした。 これらのアルバムについて私は、一昨年のことだったか、友達の家でAORの名盤本を読んだことで知った。その頃私は、AORはおろか、80sの音楽すら明

      • オルタナ入門奮闘記 其の二

        ロックを求道する者の日記パート2。今回はプライマル・スクリームとピクシーズとR.E.M.+αといった感じ。 聴いた時期は先々月の中旬。あの頃はまだ涼しかった… この、勘弁してほしいほどに暑い今改めて聴いたとしたら、また違った感想が出てきそう。 Primal ScreamPrimal Scream / Sonic Flower Groove (1987) 1stアルバム。この時代のインディーロック小僧たちは本当に60sのロックが大好きだったんだなと実感する。美しいメロディー

        • オルタナ入門奮闘記 其の一

          はしがき「オルタナティヴ・ロック」という言葉の厳密な意味が未だにわかないが、その種の名盤とされているアルバムを聴いてきて、漠然と“80年代後半から90年代にかけて、メインストリームにおけるネオ・アコースティックの隆盛とインディーズ・ロックバンドの活動を中心に創出され、若者の新しいロックとして定着した音楽、またはそのサウンドの総称”というような定義付けができるのではないかと思い至った。 “サウンドの総称”とはいうが、いわゆる「オルタナの名盤」とされているアルバムを立て続けに聴

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          都響の第976回定期演奏会Cシリーズを聴いて(モーツァルトとウォルトン)

          東京に住んで一年以上にもなるのに、いまだに山手線の内回りと外回りとを間違える自分が情けない。しかも往々にしてそういった類いの間違いは、今日のような大事な日に犯される。楽しみにしていた武満徹の《三つの映画音楽》は、私が原宿から代々木、新宿へと北上していた頃に演奏されたようだ。 哀しみと自己に対する怒りにくれていた私だったが、二曲目には何とか間に合った。当初のプログラムはバルトークのピアノ協奏曲第3番であったが、ソリストの病気により演奏者とプログラムが直前に変更された。演奏され

          都響の第976回定期演奏会Cシリーズを聴いて(モーツァルトとウォルトン)

          4月に聴いたアルバム:クラシック編(日記)

          セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル/ブラームス:交響曲第2-4番 第4だけ聴いた。1985年ライヴ。 この演奏におけるブラームスの美しい旋律は、歌というより大河のように悠々としている。第1楽章の三連符には激しさよりも情念が感じられ、奔流に呑まれていく。 第2楽章は不変の時を告げる鐘の響く聖堂で丁重に祈りを捧げるよう。そういや確かにブルックナー的な曲だ。この楽章の凄みを初めて思い知った。こういう演奏の後だからこそ、快活な第3楽章も生きるというもの。とはいえチェ

          4月に聴いたアルバム:クラシック編(日記)

          4月に聴いたアルバム:ジャズ編(日記)

          Pharoah Sanders / Love in Us All 1974年作。大曲二曲から成る。 M2“To John”はコルトレーン風の壮絶な曲。ただ白眉はM1“Love Is Everywhere”の方かと思う。 60年代のゴチャゴチャした汗くさいスピリチュアル・ジャズの残雪は消え去り、優しい響きとピュアで晴れやかな感興が満ちている。ピースフルなジャケ写も好き。春の訪れに相応しい名盤。 (2024.3.30) トーマス・スタンコ/尼僧ヨアンナ 1994年録音、1

          4月に聴いたアルバム:ジャズ編(日記)

          エレーヌ・グリモーのブラームスの録音を聴いて(4月の日記より)

          ブラームス:後期ピアノ小品集 (1995) 1995年録音、おそらく7thアルバム。discogsを見ると、キャリアの初期におけるDENONレーベルにおいても、ラフマニノフやシューマンといった人気のレパートリーに加えて、ブラームスを多く取り上げていることがわかる。 この作品はERATOにおける二作目。その明晰なタッチと自然なアゴーギクからは、曲に対する心からの共感が伝わってくる。 中でもOp.116/7やOp.118/3といった躍動的な曲に心惹かれた。可愛らしい小品や緩や

          エレーヌ・グリモーのブラームスの録音を聴いて(4月の日記より)

          80sのマドンナを聴いて(日記の一部)

          1st “Madonna” (邦題『バーニング・アップ』) 1983年の記念すべきデビューアルバム。一曲目の冒頭で煌びやかなシンセサイザーが、歌姫の誕生を高らかに告げる。全編ディスコ・ミュージックだと考えてよいだろう。70年代のディスコが暖色系で暗く汗くさいイメージなら、80sのそれは寒色系でミラーボールが冷たく光り、皆すまし顔。クール・ビューティーの一言。 (2024.2.29) 2nd “Like A Virgin” (『ライク・ア・ヴァージン』) 1984年2nd

          80sのマドンナを聴いて(日記の一部)

          ボブ・ディラン『欲望』『ストリート・リーガル』『武道館』を聴いて(4月の日記より)

          『欲望』“Desire” 1976年17thアルバム 物語の詞が多く、重厚な短編集を一気に読むような充実感を得た。特に、人種迫害を受けたボクサー、ルービン “ハリケーン” カーターについて歌われている“Hurricane”は、譚詩であり告発でありプロテスト。これぞディランの面目躍如といった感がある。 私のお気に入りは、ギリシャのホテルに泊まっていた女性が火山の噴火に巻き込まれる一部始終を、終始快活に歌った“Black Diamond Bay”。最後のオチも最高。 そして

          ボブ・ディラン『欲望』『ストリート・リーガル』『武道館』を聴いて(4月の日記より)

          Japanのアルバムを聴いて(3月の日記より)

          1st “Adolescent Sex” (邦題『果てしなき反抗』) 1978年リリース。後年ニューエイジっぽくなるジャパンだが、この頃はファンキーなハードロック。 リーダーのデヴィッド・シルヴィアン本人による評価は低いらしいが、既にエレクトリックな音像も聴こえ、勢いのある白人ファンクとして、これはこれで良い。 (2024.3.3) 2nd “Obscure Alternatives” (邦題『苦悩の旋律』) 同じく1978年リリース。1stから約半年後の録音だが、限定

          Japanのアルバムを聴いて(3月の日記より)

          my bloody valentine『loveless』を聴いて

          中一の頃、永遠にボカロを聴いていた。2000年代の初期のやつを。 それは部活と習い事以外の、初めて自分で見つけた音楽だった。当時それらの曲は、自分の世界に閉じこもるための道具でしかなく、それ以上の意味を持たなかった。 けれど、いまその時の音が、この1990年のアルバムに詰め込まれた音楽と繋がり、涙が零れ落ちた。 それはシューゲイザーというジャンルの持つサウンドや、囁くように夢のように聴こえてくる歌声といった、音楽的な共通点を見出だせたのもあると思う。 でも、それよりも、

          my bloody valentine『loveless』を聴いて

          『君たちはどう生きるか』を観て【前編】-プロット、メタファーを読む-

          スタジオジブリ制作、宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』を観た。 やばかった、訳が分からなかった、ごちゃごちゃしていた、すごかった。 宮崎駿は、もうやりたいことをやりたかっただけなのかとも思った。構想がまとまらないまま制作に及んでしまったのかと思った。 しかし、観ている途中、そして観終わった後に不思議な感動が押し寄せてきた。何故だろうか? 単に宮崎駿の描く画面が、説得力を持っているからだとも思った。 いや、断じて、そうではない。決してやりたいことをやっただけでなく、テ

          『君たちはどう生きるか』を観て【前編】-プロット、メタファーを読む-

          デヴィッド・ボウイ『ヒーローズ』を聴いて(友人Dとの対話)

          私「ボウイの『ヒーローズ』、カッコいいな」 D「うん、一曲目から、イカしてるぜ!って感じ」 私「そうそう、エッジが効いてて、機械音のインダストリアルな雰囲気がカッコいいよね。銀色の鎧をつけた二体のマシーンが、黒煙吐きながらチャンバラをしてるみたいな… ガチャガチャしてて、所謂メカニカルでござい!っていう音像がたまらない。」 D「何だその例え。まあ解らなくはないな。」 私「あと後半のインストの曲群、良いね」 D「へえ、どんなんだったっけ?『ロウ』と混ざってる… ワルシ

          デヴィッド・ボウイ『ヒーローズ』を聴いて(友人Dとの対話)

          伊福部昭、芥川也寸志、吉松隆… アルバム『日本管弦楽名曲集』を初めて聴いたときのこと①

          #思い出の曲  前段:山田耕筰の交響曲 中学生でクラシック音楽にハマった私を、モーツァルトとベートーヴェンを好む父は大層喜んでくれた。そして、単身赴任でたまに家に帰ってくる父が、お土産として何枚もCDを持ってくるのを、楽しみにしていた。 そのうち私は20世紀の楽曲(特に1910~50年頃の作品)に嵌まるようになって、父とは若干好みが分かれてしまったが(整体師に「うちの息子はプロコフィエフを聴いているらしい…負けた…」と、こぼしていたらしい)、それでも私が好きそうな曲や、私に

          伊福部昭、芥川也寸志、吉松隆… アルバム『日本管弦楽名曲集』を初めて聴いたときのこと①

          ペギー・リー『ブラック・コーヒー』を聴いて(小説)

           彼はとても疲れていたので、勤め先と自宅のちょうど間に位置する、ファミレスに入った。席に着くが早いか、ウェイターにドリンクバーを注文して、メニューを開く。幾度となく来店したことのある、安価なファミレスだ。薄い紙の上、ところせましと並ぶ料理は、どれも見ただけで味を想像できてしまう。そのお決まりの店内にはいつも通り、聴き心地の良い、無害な音楽が流れている。  別段食べたいものは無い。ファミレスは、彼の心の底で、密かに、しかし確実に溜まっていく日々の心労が、ある閾値を越えたときに、

          ペギー・リー『ブラック・コーヒー』を聴いて(小説)