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オルタナ入門奮闘記 其の一


はしがき

「オルタナティヴ・ロック」という言葉の厳密な意味が未だにわかないが、その種の名盤とされているアルバムを聴いてきて、漠然と“80年代後半から90年代にかけて、メインストリームにおけるネオ・アコースティックの隆盛とインディーズ・ロックバンドの活動を中心に創出され、若者の新しいロックとして定着した音楽、またはそのサウンドの総称”というような定義付けができるのではないかと思い至った。
“サウンドの総称”とはいうが、いわゆる「オルタナの名盤」とされているアルバムを立て続けに聴くと、そこに「ハードロック」や「プログレ」ほどサウンドに統一感はなく、さらに言えば、80sのブラック・ミュージック、もしくは60sのフォークロックの方法を援用している音楽にたくさんぶつかる。

そんな風に、いわば“なんでもあり”の「オルタナ」という音楽をここ三ヶ月ほど聴いてきて、最初はかなり戸惑いもしたが、いまでは(やはり漠然とではあるが)そういう“なんでもあり”の全てを許容する器の大きさこそが「オルタナ」なのかなぁ、という考えになってきた。そう考えると、オルタナというものはなかなか魅力的だ。

この記事は一般的に「オルタナ」と呼ばれているアルバムを聴いたときどきに書いた備忘録程度の文章を、記録としてまとめたもの。きっとわたくしなんかよりも詳しい方がたくさん居られるはずなので、そういう方にこれをお読みいただいて、色々なことをご指摘・ご教授いただきたいとの思いから、公にしてみた。
稚拙な点も散見されるが、入門記ということでご勘弁願いたい。

The Smiths

The Smiths / The Smiths (1984)

1stアルバム。モリッシーの若干アンニュイなボーカルがこのバンドの持ち味であろう。しかしそれは70年代的な演じられ誇張された憂いなのではなく、80年代ロックのひとつの一般的な性格を示すものなのかもしれない、と思った。ある意味、健康的?
(2024.1.31)

The Smiths / Meat Is Murder (1985)

2ndアルバム。歌詞を見てみたら、自殺、埋葬、体罰等、カート・コバーンにも通ずるような暗いテーマが多く、モリッシーの歌声のイメージとぴったりだった。それがフォーキーで美しいバンドサウンドで歌われるのが魅力的。
(2024.1.31)

The Smiths / The Queen Is Dead (1986)

3rdアルバム。情景描写や物語が多かった前作の歌詞に比べ、心情吐露や問いかけが多くなっている印象。それに併せてか、モリッシーの歌い方も優しくなってる気がし、美しいネオアコのサウンドにこの上なくマッチする。名盤。
(2024.2.2)

The Smiths / Strangeways, Here We Come (1987)

4thにしてラストアルバム。とても聴きやすく、素晴らしいプロダクションだと感心するが、前作までにみられた歌詞の毒気が抜けてしまっていて、いま聴くと普通のオルタナ止まりかなとも思う。私的には3rdが至高かな。
(2024.2.3)

Sonic Youth / EVOL (1986)

3rdアルバム。たくさんのノイズが漂う水槽、その中で一際目立つのが力強いドラムの打音と意志を感じさせるギター、そしてフラジャイルなボーカル。M3“Starpower”は夜の街を孤独で歩くかのような、静謐ではないが、しずかで繊細な音楽。
(2024.4.5)

Aztec Camera / Love (1987)

3rdアルバム。フリッパーズ経由で知った。
ネコアコと言える音楽ではあるが、私がいままで聴いてきたスミスやU2的ネオアコに比べ底抜けに明るい!
逆説も甚だしいが大滝詠一みたい。大滝の明るさは50~60年代アメリカンポップスのプロダクションを経て手に入れたものだが、彼らはどうなのだろう?
M6“Working in a Goldmine”などはシティ・ポップ、山下達郎のようでさえある。ただしドラムは80sの音。

サイケデリックな雰囲気もあり、成程ビートルズのアップデートのひとつでもあるのか、とも思った。さあ、これからどんどん90年代のアルバムを聴いていくぞ!
(2024.4.16)

The Monochrome Set / Strange Boutique (1980)

1stアルバム。ロンドンのインディーロックバンド。全体的にニューウェーブらしい曲作りながら、美しいメロディーと多様なサウンドが次々に飛び出し、中々のセンスを感じる。

一曲目の“The Monochrome Set (I Presume)”は野性的なリズムから始まり、アダム&ジ・アンツとの繋がりを思わせる(メンバーのひとりがその先代バンドに居た)が、二曲目の“The Light Side of Dating”ではオルガンや素朴でライトなギターなどが加わり、60sを彷彿させる。そして他にはインストナンバーも有る。
アンディ・ウォーホルは彼らを「ザ・ベンチャーズとヴェルヴェット・アンダーグラウンドを足して2で割った様」と評したらしい。これがネオアコ、ギター・ポップの原型になった訳だ。

一方で歴史的観点から見ようとせず、純粋にポストパンクとして聴いても素晴らしいアルバム。
(2024.4.16)

Orange Juice / Rip It Up (1982)

めめめ、めっちゃ好き!!スコットランドはグラスゴーのバンド、オレンジ・ジュースの2ndアルバム。

タイトル曲(M1)と、続くM2“A Million Pleading Faces”のファンク/ディスコサウンドが素晴らしい。シティ・ポップの気持ち良さに似ていると感じた。続くM3“Mud In Your Eye”のメロも美しい。というかあとの曲はメロが全部キレイ。
ショナ語の掛け声(?)を含んだインストナンバー“Hokoyo”のグルーヴネスも、もう最高以外の言葉が出てこん…最高。

ネオアコ/ジャングル・ポップにハマってしまいそうで怖い…
(2024.4.16)

【よりみち私的オルタナ考察】

Chic / C'est Chic (1978)

『サタデー・ナイト・フィーバー』でも流れている、ディスコバンドの2ndアルバム。オレンジ・ジュースへ影響を与えたそうなので、それを確かめるべくちゃんと聴いてみた。
結局産業ロックと別箇に「踊れる音楽を演りたい若者」が80sにインディーで活動、彼らはディスコやロックンロールを参照し、一部ではテクノ等と融合していった訳だな。

ネオアコとかマッドチェスターとかインディーとかオルタナとか、80s後半から90sの音楽ジャンルのワードとそれらの横の繋がりが、私の中でずっと漠然としていたのだが、「踊れるか否か」という考え方をすればよいことに気づき、とてもスッキリした。

そうなるとレアグルが興ったことも自然に繋がっていくし、逆に70sのハード・ロックでは皆「踊れた(=身体を動かせた)」のだということも理解した。
この場合はクラブシーンだが、音楽というものは、やはりどの時代のどんなところにおいても、音を欲している「場」の影響を強く受けるのだ。
(2024.4.17)

my bloody valentine

my bloody valentine / Isn't Anything (1988)

1stフルアルバム。ノイジーで厚いギターサウンドが光のように降り注ぐなか、ボーカルが愛らしいメロディーを恍惚たる表情で歌う。ハーモニーには60sサイケの面影があり、どこか懐かしくも、どこにもない風景だ。
その風景を描き出すのに、ほとんどサウンドしか頼っていないところ。これこそがシューゲイザーの常軌を逸した驚異的な魅力ではないだろうか。
(2024.4.27)

my bloody valentine / loveless (1991)

・・・それはシューゲイザーというジャンルの持つサウンドや、囁くように夢のように聴こえてくる歌声といった、音楽的な共通点を見出だせたのもあると思う。
でも、それよりも、あの時の音たちが持っていた雰囲気――どこか誰にも気付かれないところで、誰にも聴かれないかもしれないけれど、生まれてきた。それも胸一杯の祝福を受けながら、生まれてきた――そういう雰囲気を、この音楽も持っているからだと思う。きっとそんな気がする。

2024年5月2日投稿の記事より(リンク下)

Red Hot Chili Peppers

Red Hot Chili Peppers / The Red Hot Chili Peppers (1984)

偉大なバンドの1stアルバム。歯切れよくギラギラしたファンクロック。ビリビリとしたグルーヴが気持ちいい。
1stなのにいきなりメンバーが欠けていたり(ドラムとギターを急遽雇う、後に復帰)、プロデュースによって時代の音にお行儀よくまとめられた感はあるものの、どの曲にも「俺たちはこういう音楽をやるんだ!」的な勢いが感じられる。カッコいい。
(2024.5.1)

Red Hot Chili Peppers / Freaky Styley (1985)

2ndアルバム。プロデュースは、ジョージ・クリントン!悪いワケがない。
スッキリしていた前作に比べ、ホットで生々しく、混沌たるエネルギーに満ちている。戻ってきたオリジナルメンバーのヒレル・スロヴァクのギターも、ファンキッシュな引き出しが多く、良い味を出している。Pファンク好きな私としてはもう最高です…

70年代ファンクとポストパンクの融合という意味では特異的ではあるが、ダンサブルなグルーヴを重視するものとして挙げるオルタナティブ・ロックとしては王道であり、まさにこういった音楽が、メインストリームとしての「オルタナ」を作っていったのだろう。
(2024.5.1)

Red Hot Chili Peppers / The Uplift Mofo Party Plan (1987)

3rdアルバム。オリジナルメンバーでのラストアルバム。
もはや何も言う必要ないくらいカッコいい…パンキッシュなサウンドを背に、ラップで俺たちをアゲまくる。 現行ロックバンドの、ファンクっぽい曲調でボーカルが言葉を叫ぶ曲はこれが源流というか、原点にして頂点なんじゃないかとさえ思った。正面から強風を浴びるような、圧倒的なサウンド。

ピークはM9“No Chump Love Sucker”ではないかと思う。しかしそこに至る前に、心に響くM6“Behind The Sun”という名曲も入っている。バラードでありポップでありサイケでありファンクである、色々な要素が認められつつも、すべてが調和している、とても素晴らしい曲。音楽聴いてて良かった…
(2024.5.1)

Red Hot Chili Peppers / Mother's Milk (1989)

4thアルバム。新ラインナップによる第一作ながら、前作のファンク/パンク的方向をさらに突き進めている。と同時に、1stにも比肩するくらい、よりメタリックにもなっている。これでもかとチョッパーを繰り広げるフリーのベース・プレイにも磨きがかかっており、特にスティービーをカヴァーしたM2“Higher Ground”は秀逸!カッコイイ。

亡くなったヒレルに捧げたM6“Knock Me Down”では、サビで「いいか?俺がイキってたり/ハイになってたら/遠慮せずブン殴ってくれ/思ってるほど俺はビッグじゃないんだ」と、彼ららしく友を悼む。
インスト曲のM10“Pretty Little Ditty”は、どことなくビートルズの“Flying”に近い、ファンクなのに幻想的な、不思議な雰囲気。
(2024.5.2)

Red Hot Chili Peppers / Blood Sugar Sex Magik (1991)

5thアルバム。名盤としてよく見かけていたジャケット。
サウンドや曲作りは前作の延長線上にあるが、各楽器の出音がよく分離しており、よりエッジが立ってスッキリと、良い意味で洗練されていると思う。その結果、唯一無二の「レッチリの音楽」が誕生している。72分ながらスルッと聴けてしまうのはそのためだろう。

全体の曲配列も絶妙。ファンクナンバーが続くのでもテンポが順次上がっていったり、アゲた後にバラードで落としたりと、うまく設計されている。
特に、ファンキーで呪術的なタイトル曲から間断なくM11“Under The Bridge”に繋がるのが最高。これまたオルタナ的なエモい名曲なのだ…この曲とM6“I Could Have Lied”というメロウなナンバーでは、ジョン・フルシアンテのギターが特に光っている。
(2024.5.3)

Beastie Boys / Licensed to Ill (1986)

1stアルバム。レッチリにも繋がるパンク・ラップの元祖的アルバム。

パンク・ラップってなに?という気もするが、そもそもブリティッシュ・ロックがブルースを英国の若者たちが真似して生まれたように、自らのコミュニティ・生育環境の外にある音楽に魅力を感じ、それを自身でやろうとするのがロックという音楽の起源であろう。パンクはそれの80s前後の呼び方だと捉えればよい。ビースティ・ボーイズにとっての参照先はヒップホップだったため、パンク・ラップと呼ぶことができるのだろう。

LL Cool JやRun-DMCを手掛けたリック・ルービンのプロデュースによる、オールドスクールなバックトラックがいちいちカッコいい。そして、彼らの叫び声の残響は、現在の音楽シーンにも聞こえる。
このNYの若者たちの懸命なラップに宿る気焔は、未だ消えていない。
(2024.5.5)

Orange Juice / You Can't Hide Your Love Forever (1982)

1stアルバム。作曲もサウンドも楽器もめちゃくちゃビートルズ(それも初期~中期の最初)っぽくて、ポストパンク/ニューウェーブの時代にこんなんあったんかとオドロキ。

ただしそこに、メインストリームへの対抗意識、すなわちカウンターとしてぶつけてやろう的な気負いは感じられず、単に好きな音楽をやっているんです的な、のどかな雰囲気を聴き取ることができ、とても好印象。一曲一曲が短いのも良い。インディー・ロックってそういうもんなのかもしれない、魅力が分かってきた。 これにダンサブルな風味を付け加えれば、2ndアルバムの完成だ。
(2024.5.8)

現在進行形でまだまだ続くのだが、5000字を超えたのでとりあえずここまで。

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