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来た、見た、終わってしまった 〜コロナと大学院生活〜

パンデミックと大学院生

コロナが終わったら、コロナが終わったら、と言っていたら、大学院生活が終わっていた。

パンデミックが大学生に及ぼした影響は、当初はないがしろにされていたものの、最近は比較的多く報道されている。オンライン授業や飲食店の休業要請の是非とあいまって、大学生が直面している苦しい状況はある程度多くの人が知るところになった。コロナが流行し始めてから大学に進学した後輩たちは、ぼくたちが経験した大学生活を知ることができていないため、残念な気持ちが強いのだろうと思う。一方で、大学院生がパンデミックをどう乗り越えようとしてきたかはあまり注目されていないこともまた事実であるように感じている。この記事では、いちピアサポーターのぼくの観測範囲で起こったことや、ぼくの思ったことを残すことにしたい。

叶わなかった期待
ぼくは、やっぱりそれなりには大学院生活っていうものに期待を抱いていた。学部時代よりも研究室での時間が増えることや、業績を出さないといけないことはわかっていたけれど、何より自分が研究したいことを突き詰めるためのスタートラインに立てるのだと感じていた。よくわからないウイルスが見つかったらしい、と言われていた頃には、まだぼくは入学後の研究計画で妄想を膨らませていた。しかしその計画は、大学や研究施設に立ち入ることが制限されたり、国内外への移動が制限されたために実行できなかった。最初はトラのような壮大な完成形を描いていたのに、できあがったのは小さな張り子のねずみみたいな研究だった。もちろん、ぼくの力量不足や、勉強不足も大きな理由ではあると思う。それでも、コロナさえなかったら、と思わざるを得ないのが正直なところだ。

不要不急とはなにか
大学院生活がどのようなものかまだよくわからない、という学部生の皆さんもこれを読んでくれているのかもしれない。でも、ぼくにもまだどんなところかよくわからない。大学院に入ったと思ったらコロナが始まり、対面で研究活動が制限され、自宅で研究を進めることも可能なので会ったことのない後輩もいる。ずっと家にいると気が滅入ってくるというのは、みんなそうなのだろうけど、比較的時間の自由がきく院生にとってもそれは同じだった。不要不急の外出を控える中で、研究活動だけでなくそもそも自分の研究自体が「不急」なだけでなく「不要」なんじゃないかと思うこともあった。そもそも必要な研究ってなんなのか、それ以外は全部「不要」なのか。同期の院生も同じように感じているといい、ネガティヴな気持ちだけが増幅していた。

適応と終焉

そんな気持ちを一発で消し去ってくれたものがあったわけではなかった。助成金の応募機会がなくなり研究計画に影響が出たり、ちょっと体調が悪いとコロナなんじゃないかと疑う日々を過ごしながら、ぼくは徐々にパンデミックの中に生きることに慣れていった。専門外なのであまり詳しくは知らないけれど、動物が環境に適合して生態を変えてゆくみたいに、ぼくもまたコロナの脅威と共に生活することに慣れていった。大学におそるおそる行って研究をすることにもある程度は慣れたし、友人や研究室の先輩後輩ともコミュニケーションをとれるようにはなった。それでも、失ったように感じられた時間への後悔の気持ちは消えていない。大学院に来て、いちおう何をやる場所なのかを見ることはできた。でも、それで終わってしまった。


失われた時を求めて

この記事を書きますといったとき、コロナで思い通りに行かなかった大学院生活でも、振り返ってみれば何か残しておくことがあるのではないか、とぼくは思っていた。しかし、こうして振り返ってみると、なかったものに目がいってしまう。多くの政治家は学生への経済支援を語るときに大学院生をその範疇に入れていなかったし、ぼくらに対する支援は残念ながら十分ではないように思えた。Twitterで「大学院生は就職し損なってずっと大学にいるだけなのだから支援不要」と声高に叫ぶ人を見てお腹が痛くなった。ぼくは大学院をやめずに済んだけれど、バイトや家族の仕事に影響が出て勉学を中断した人も知っている。大学院生活をパンデミックの中で過ごした大学院生に残ったのは、わずかな業績 (あれば) と、圧倒的な「不在」だった。何があって、何がなかったかをきれいにまとめることは難しい。ただぼくが今わかっているのは、いろいろなものやこと、そして多くの人がなくなったパンデミックの中を、ぼくたち大学院生はそれなりに生きてきたということだ。


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